第15話
「楽しかったぁ〜!!」
七瀬さんは満足そうにそう言った。
「天沢君どうだった?」
「はぁ〜」
俺は大きなため息をつく。
「一曲って約束だったよな?」
「一曲終わったら帰ってもよかったのに…結局最後まで聴いてくれて。もしかして、音楽に興味もってくれた?」
「あの状況で帰れだと…………」
俺は七瀬さんを見つめた。
「そ、そんなに私を見つめちゃってどうしたの………?」
「ここは別館の一階の一番奥の教室だぞ?」
「し、知ってるけど………」
「じゃあ、別館の教室で活動してる部活は知ってるか?」
「軽音部だけだけど………」
「そうだ。でも、今日は軽音部休みなのは知ってるか?」
「し、知ってるけど……」
「ってことは、今日は何か特別な用事がない限り別館に生徒がいることはないよな?」
「う、うん。」
七瀬さんが少し焦り出す。
「本館から、ここまで来るのに大体4〜5分。一曲の長さ大体4〜5分。きっとドアの周辺にいた大勢の人は曲が始まった瞬間に、この教室だとすぐに特定して急いでここまできたんだろうなぁ〜じゃなきゃあんなに曲が始まってすぐにこれないもんなぁ〜」
「い、嫌だなぁ〜ま、まさか、私を疑ってるの……?」
「い〜いや〜別に〜」
俺は七瀬さんをじっと見つめる。
「…………………」
「どうしたの?七瀬さん?」
「………ご……めん……なさい……」
「なんか言った?」
俺はわざと聞き返す。
「ごめんなさい。」
「はぁ〜だと思ったよ………」
俺はため息をついた。
「で、なんでそこまでしたの?」
「天沢君に音楽に興味をもってもらいたくて…初めて会った時、私の歌聴いてくれてたからもう一押しかなって………」
「はぁ〜初めて七瀬さんと会った時は偶然あの公園に通りかかっただけだ。」
確かに初めて会った時、七瀬さんの歌声に惹かれたのは事実だ。
でも、それを伝えたら面倒なことになると考えた俺は偶然通りかかっただけだと伝えた。
「………ごめんなさい。」
「まぁいいだろう。でも、ジュース三本な?」
「うん。」
七瀬さんは反省しているのか素直に聞き入れた。
(少しキツく解いただしすぎたか……)
いつもより元気のない七瀬さんを見て少し反省する。
「いくぞ」
俺は七瀬さんを連れ、教室を後にした。
♢♢♢♢♢♢♢
「じゃあこれで」
俺は自動販売機のボタンを押し、出てきたジュースを取り出す。
隣にはまだ元気のない七瀬さんがいる。
「七瀬さんは買わないの?」
「う、うん。今、自分に罰を与えてるから。」
「はぁ〜」
俺はため息をつくと、財布を取り出し、自動販売機にお金を入れる。
「え!?買うなら私が…」
七瀬さんがお金を出そうと財布のチャックを開ける。
「これはいいの」
俺は七瀬さんの手を止めさせる。
「でも……」
「いいから」
俺はボタンを押し、出てきたスポーツドリンクを取り出すと七瀬さんに差し出した。
「はいこれ」
「え!?私に?」
「うん」
「悪いよ。私、天沢君に酷いことしたのに……」
「もう気にしなくていいって」
「でも……」
「いいから」
七瀬さんに俺は無理やりそのスポーツドリンクを渡す。
「歌ったばかりだし、のど乾いてるでしょ?」
「天沢君……私、こんなに優しい人、初めて会った。」
「買い被りすぎだ。」
「ありがとう……本当にありがとう。」
七瀬さんはそのスポーツドリンクを大事そうに抱える。
「後、ジュース後二本残ってるけどそれもいいから。」
「えっ?でもそれは………」
「いいから、いいから」
「優しすぎる」
「褒めたって何にも出ないぞ!ところで七瀬さん、他に何か飲みたいものある?奢るよ?」
俺は七瀬さんに褒められ少し浮かれる。
「大丈夫」
「そうか?じゃあ、なんかして欲しいこととかあるか?」
「じゃ、じゃあ、これに名前書いて欲しいんだけど……」
七瀬さんから紙を渡され、俺はその紙に名前を書き、七瀬さんに返そうとする。
(待てよ……これ………)
七瀬さんに返そうとする手を止め、紙を見返す。
「おい。これ、軽音部の入部届じゃねぇか。」
俺はすぐさまその紙を破り捨てる。
「チッ、後少しだったのに…」
七瀬さんは小さな声でそう言う。
(こいつ、実は全然反省してないな……)
危うく軽音部に入部するところだったが、俺はなんとか回避することができた。
「やっぱり、ジュース二本追加で」
俺はそう言うと、七瀬さんは俺にくっついて謝って来る。
「ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁい」
音楽を嫌っている天沢君は転校生で隣の席の美少女から毎日のように軽音部に勧誘されている 平岡 和 @Hiraokakazu
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