第10話


 俺は特に行くあてのないまま、ただただ廊下を歩いていた。



 できる限り人の少ない廊下を。



 チャイムの音が聞こえる。



 きっと授業が始まったのだろう。



 だが、今の俺にはどうでもいい。



 一人になりたい。



「何してるんですか?」



 そう背後からアキ姉に声をかけられる。



 しかし俺は振り返る気になれず、ただただ歩き続ける。



「ちょっと!」



 そう言い、アキ姉は俺の目の前に立った。



「え?どうしたの?大丈夫?」



 俺の顔を見てアキ姉はかぶっていた猫を捨ててまで心配してきた。



「一人になれる場所に行きたい。」



 俺はアキ姉に少しわがままを言う。



「ついて来て」



 アキ姉の後を追っていくと、生徒会室についた。



「ここなら誰も来ないから……落ち着いたら私を呼んで。私は………廊下にいるから。」



「ありがとう」



 そう言いアキ姉は生徒会室のドアを閉めた。



 一人になった途端、無意識に涙が流れ出る。



「あれっ?俺なんで泣いて…………グスッ」



 いつもならすぐ涙なんて止められるはずなのに、この時流れ出した涙を俺はなかなか止めることができなかった。



 「な、なんで………いつもなら…………すぐ……止められるのに…………」



 早く切り替えなければ。



 そう思ってもなかなか切り替えられない。



 気持ちの整理がつかない。



 俺は落ち着くまで何度も何度も深呼吸をした。




♢♢♢♢♢♢♢




 チャイムが鳴り授業の終わりを告げた。



 

 俺はドアを開け、アキ姉に声をかけた。



「アキ姉」



「少しは落ち着けた?」



「うん。だいぶ落ち着けた。ありがとう。アキ姉。」



 そうアキ姉に伝え、俺は教室に向けて歩きだした。



「イツ。あの………」



 アキ姉に呼び止められ、俺は歩みを止め振り返る。



「何?アキ姉?」



「…………いや………やっぱりなんでもない。」



「わかった」



 俺はアキ姉と別れ、教室に向かった。





♢♢♢♢♢♢♢




ガラガラ



 教室のドアを開け、中に入る。



「天沢、大丈夫か?」



「天沢君、大丈夫?」



「ああ、もう大丈夫だ。」



 教室に入るとクラスメイトに心配された。



 もう大丈夫なことを伝えた後、俺は自分の席に向かった。



「天沢君。大丈夫?」



 自分の席に着くと今度は七瀬さんからも心配される。



「ああ。七瀬さん。さっきは突然ごめんね。もう大丈夫だよ。」



「なら、良いけど……」



キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン



 チャイムが鳴る。



 俺はいつも通りに授業に取り掛かった。


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