ずっと、一緒に

第1章

第1話 ミス

　まだ気にしているんだろうか。さっきからずっと黙っている。

　吉隅（よしずみ）ワタルは、俯きながら自分の横を歩いている油利木（ゆりき）和寿（かずとし）をそっと見る。

　いつもとは様子が違う。

　新しい学年になって、初めての合わせ。ワタルはピアノ、和寿はバイオリンを弾く。和寿の伴奏をするようになって、一年が経った。

「久し振りだな、おまえと合わせるの」

　学年末の試験以来だから、確かに久し振りだった。ワタルは、今日をとても

楽しみにしていた。和寿と一緒に演奏することは、ワタルにとって喜びだった。

　ワタルはピアノの前に座り、蓋を静かに開けた。和寿がバイオリンケースから

楽器を取り出し、構えたのを確認してから、ワタルはA（アー）を鳴らした。

　器用にペグを回しながら、音を決めていく。合図が来て、前奏を弾き始めた。

彼の音が、ワタルのピアノに乗る。今日も調子が良さそうだ。

　と、その時、和寿が高音をはずした。珍しい。驚き過ぎて、ワタルは手を止めてしまった。そして、彼もまた、自分のミスに驚き手を止めた。大きな溜息が聞こえた。

「ごめん。もう一回、頭からお願いします」

　言われて弾き始めたが、彼らしくもなく、またすぐにミスをした。そして、楽器を肩からおろすと、

「今日はもういいや。ありがとう」

　さっさと楽器を片付け始めた。

　それから、いっさい口を利かない。彼は普段、そんなに気にする人ではない。その彼が、いったいどうしたというのだろう。