第59話 輝くダイヤモンド魔法

 プレシャスと一緒に寝室で魔法を考えた。

「目が覚める前にイロハお姉様と会ったよ。宝石魔法を使って地上へ呼び出す許可をもらった。私のことをマユメメイに話してもらえる」


「本来は降臨などありえません。アイ様はイロハ様にとって特別なようです」

「私が本物のアイ様との絆だからみたい。私自身はイロハお姉様と本物のアイ様に感謝している。宝石魔図鑑で宝石が堪能できて魔法が使える。プレシャスやマユメメイと仲良くなって、この世界を楽しんでいる」


 理由は何であれ二人の女神様に優しくしてもらっている。何度感謝しても感謝しきれない。二人の役に立ちたい。いつかは三人で一緒に会ってみたい。

「この世界をアイ様が気に入って何よりです。今回の魔法はどの宝石を使うのですか」

「私の中でイロハお姉様と言えばダイヤモンド。他の宝石は考えられない」


 宝石魔図鑑を出現させた。頁を開いた。ダイヤモンドのルースが輝いていた。

「ダイヤモンドの特徴は何ですか」

「一番は硬度よ。宝石の中でもっとも硬い。でも劈開があって衝撃などで割れやすい特徴をもっている」


「硬い宝石なのに割れやすいのですか」

「詳しい原理までは私には分からない。でも何かを切るときに切りやすい方向がある。それと同じだと思うのよ」

「木目に似ているかもしれません。他の特徴も知りたいです」

 プレシャスが宝石に興味を示してくれる。純粋に嬉しかった。


「他の宝石と違って品質を評価する鑑定がある。鑑定と鑑別は異なるけれど、プレシャスには同じ言葉に聞こえるのよね」

「同じ言葉なのに異なると聞こえています」

 イロハ様にもらった自動変換能力も万能ではない。でも日常生活を送る上で困ることはなかった。


「ダイヤモンドには4Cと呼ばれる品質を評価する方法があるのよ。カットが輝き、カラットが重さ、カラーが色、クラリティが透明度。元の世界で使っていた言葉で頭文字がCだった。4Cの名前になった理由ね」

「品質には差があると思います。一番よい品質はどのような評価ですか」


「カラット以外では、カットはエクセレント、カラーはDカラー、クラリティはフローレスが最高よ。とくにカットは人の研磨技術が影響する項目ね。品質とは異なるけれどカットの種類も色々とあるよ」

 宝石魔図鑑でルースを立体的に表示させた。


 基本となるラウンドブリリアンカットやオーバルカット、可愛いハートシェイプカットなどを表示させた。カットによって雰囲気が異なるところも素敵だった。アンカットという研磨されていないルースもあった。


「たくさんのカットがあります。色の違いでも雰囲気が変わりそうです」

「ピンクやブルーなどのカラーダイヤモンドもあるよ。鮮明な色なら私では手が出せないほど高額になる」

 少しの間、カットや色を変えて立体画像を楽しんだ。


「魔法の効果はイロハお姉様とお話ができる。見た目の演出も凝りたい。大きなルースの上にイロハお姉様が出現する。ラウンドブリリアンカットで幻想的な輝きよ」

「イロハ様の出現する姿が楽しみです」

 宝石魔図鑑に効果や呪文を書き込んだ。


 準備ができた。マユメメイたちを呼んで庭に出た。清々しい青空で日は高かった。

「アイの秘密は庭でないと言えないの?」

 マユメメイからの疑問だった。普通に考えれば周囲に聞こえない部屋が妥当のはず。でもイロハ様を呼ぶには部屋の中では狭いと思った。


「魔法を使うつもり。だから庭の広さが必要だった。魔法を使ったあとに私の秘密がわかる。でも魔法を使う前に、約束して欲しいことがあるのよ」

「ワタシにできる範囲なら約束を守るの」


「魔法の中身は秘密にしてほしい。今いるメンバー以外には絶対に話さない。守ってほしい約束はそれだけよ」

「ワタシは平気なの。タイタリッカとキキミシャも構わない?」

「俺も大丈夫だ」

「わたくしも平気です。誰にも話しません」


 マユメメイたちなら信頼できる。私の紹介方法はイロハ様に任せる予定だった。

 イロハ様に許可はもらっているけれど緊張する。深呼吸で気持ちを落ち着かせた。心の中で準備が整った。


「これから魔法を唱える。何が起こっても驚かないでね。星空ほしぞらダイヤ」

 宝石魔図鑑とルースが出現した。ルースからメレダイヤを思わせる無数の粒が地面に降り注いだ。無数の粒は塊となって大きなダイヤモンドに変化した。


 大きなダイヤモンドから虹色の光が溢れ出した。眩しくて目をつぶった。

 まぶた越しに光が収まったのを感じた。目を開けるとイロハ様が立っていた。

「愛しいワタシのアイ。魔法を感じ取れました。これでいつでも会えます」


「地上でイロハお姉様に会えて嬉しい。お願いしていたことだけれど」

 イロハ様が頷いてくれた。イロハ様の視線がマユメメイに移った。マユメメイたちは黙っている。驚いているみたい。目を見開いてイロハ様を凝視していた。


 本来はあり得ない状態のはず。言葉が出ないのも頷けた。

「マユメメイが元気で安心しました」

「イロハ様のおかげで健やかに過ごせています」

 マユメメイが膝をついて、お祈りする姿勢で答えていた。タイタリッカさんとキキミシャさんも同じ姿勢だった。


「アイの秘密はワタシから話しましょう。アイはワタシの妹です。ワタシの世界を楽しんでもらうために地上へ送りました。アイはワタシの世界を楽しんでいます。誰も邪魔することは許しません。マユメメイの疑問は解消されましたか」


「アイからイロハ様の気配がした理由が分かりました。アイも女神様なのですか」

「ワタシの妹です。それ以上でもそれ以下でもありません。アイはワタシの愛しい存在です。アイが楽しく過ごす日々を望んでいます」


「イロハ様の望みが叶えられるように協力します」

「マユメメイ、頼みました。愛しいアイ、また会いましょう」

 イロハ様が七色の光に包まれた。元の明るさに戻るとイロハ様が消えていた。


「マユメメイならイロハお姉様が本物と分かるはず。私の秘密も聞いた通りよ」

「さきほどの気配はイロハ様で間違いないの。アイはイロハ様の妹。ワタシが気軽に声をかけられる存在ではなかったの」


 マユメメイが萎縮しているのが分かった。でも態度を変えられるのは悲しい。

「私はマユメメイの知っている私よ。今まで通りで平気。ただ私の立場は秘密にしてほしい。国や神殿に巻き込まれたらイロハお姉様の世界を楽しめない」


「アイの秘密は喋らない。タイタリッカとキキミシャも大丈夫?」

「心の中に留めますわ」

 タイタリッカさんは黙っていた。眉間にしわを寄せている。何か悩んでいるみたい。

「タイタリッカは秘密を守れないの?」

「アイの存在は俺の想像を超えた。父上だけには知らせたい。駄目だろうか」


 上位魔物の消滅やマユメメイの回復は、傍目から見れば奇跡に映る。国王陛下から問われると説明できない。怪我したマユメメイのところに、私がいたのを白魔道士などが知っている。国王陛下の助言があれば、私が表舞台に上がることはなさそう。


「国王陛下よね。私がイロハお姉様の妹と話しても構わない。でもイロハお姉様を呼び出せる魔法は秘密にしてほしい」

「それで充分だ。上位魔物の消滅を父上にも説明しやすい。大聖女様が上位魔物を消滅させたで発表できるだろう」


「もしかしてアイさんの使い魔は、イロハ様の使い魔かしら」

「その通りだけれど、何故そう思ったの?」

 プレシャスについては特に説明していなかった。


「アイさんは一般魔法を使えません。もしかしたらと思っただけです」

「誰かに聞かれたら、お姉様の使い魔と説明したほうがよいみたい。お姉様の命令で私の手助けをしている。強引だけれど矛盾はしないと思う」

「契約者以外との行動は普通考えられません。命令で一緒なら納得も可能です」


「聞かれるまでは黙っている。聞かれたら答える。プレシャスもお願いね」

「アイ様がイロハ様の世界を楽しめるように補佐します」

 家の中へ入って続きを話した。

 会話が進むとマユメメイの態度もいつも通りに戻った。

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