第55話 上位魔物と対決
プレシャスと一緒に天幕を出た。巨大化したプレシャスの背中に乗った。
「地面は逃げにくいから上空で戦いたい。上位魔物の攻撃を避けられて、一番近づく位置までお願い」
「アイ様に怪我させない範囲で飛びます。アイ様は魔法で気を失わないで下さい」
プレシャスが垂直に飛んだ。天幕が小さくなった。
「無茶はしない。でも限界までは頑張るつもり。私自身の疲労も回復しておく。元に戻るまで待機をお願い。結晶エメラルド」
光の壁が私を覆った。清々しい気持ちになっていく。気力も体力も沸いてきた。これなら何度でも七色オパールを唱えられそう。
光の壁が消えた。プレシャスが上位魔物に向かって突き進んだ。
「マユメメイたちが巻き込まれないように逆方向で戦いたい。矢車サファイア」
魔法の丸盾を装備した。気休めは分かっている。
「旋回して反対方向へ行きます。アイ様のやりやすい方法で魔法を使ってください」
プレシャスが不規則な軌道で上位魔物を迂回した。激しい動きでも落ちる気配はなかった。安心して魔法を唱えられる。
上位魔物を狙って最大威力を想像した。
「紅球ルビー。涼球アクア」
使える最強の攻撃魔法を唱えた。真っ赤な塊と水の渦が並んで飛んでいった。上位魔物に命中した。豆粒があたった感じで上位魔物は平然としている。
攻撃魔法のルースをデリートで消した。
「反対側に来ました。物理攻撃は全て避けます」
「回避はプレシャスに任せた。私は魔法に集中する。七色オパール」
ルースが出現して七色の光がらせんを描いた。上位魔物の上空まで飛んで花火のように鮮やかに飛び散った。上位魔物に虹色のオーロラが降り注いだ。
うめき声とも思える咆哮が周囲に響いた。上位魔物だった。地上の人間と魔物の動きも止まった。それほどまでに異様なうめき声だった。
「予想以上に七色オパールが効いている」
初めて上位魔物が私たちのほうを向いた。右手で体の一部をちぎって投げてきた。プレシャスがすぐに下降した。
思わず盾を構えた。破片は上空を通り過ぎた。
「さすがに迫力があった。でもプレシャスがいるから安心している」
「アイ様はわたしが守ります」
胸元に手を当てた。ペンダントから熱はほとんど感じられない。
「体に違和感はないから続けて魔法を唱えるね。七色オパール」
出現しているルースから七色の光が飛び出した。上空なら誰もいない。心の中で三回連続魔法を唱えた。三発が連なって七色の光が降り注いだ。
夜に見れば綺麗な花火となる。今は上位魔物を苦しめる光だった。
「上位魔物の表面が剥がれているみたい。弱まっていると思う?」
「聖女が使う魔物弱体化よりも効果あります。まだ消滅させる程ではありません。アイ様は大丈夫ですか」
胸元に熱さを感じ始めた。意識ははっきりしている。
「まだ平気よ。意識に異変は感じない」
前回は魔法を唱えたあとに意識が遠のいた。一度に何連続も唱えると危険があるかもしれない。三回連続を唱えてから次の三回連続を唱えた。
上位魔物に何度も魔法が命中した。怒りをあらわにしている上位魔物は、体の一部をちぎって投げつける。でもプレシャスが避けてくれた。
「気のせいかも知れないけれど、上位魔物が透明になっていくみたい」
「消滅に向かっています。倒して消滅させられれば自素石のみが残ります」
「戦法としては合っているみたい。あとは私の努力次第ね」
ペンダントの熱さが増した。徹夜明けのように意識が鈍ってきた。でも魔法を止めるつもりはない。
上位魔物の後方に目を見据えた。地上では人間と魔物が戦い続けている。私が上位魔物を倒せば人間が優位に立てる。
三回連続を心掛けながら魔法を唱えた。
視界が狭くなってきた。周囲の音が小さくなった。視線は上位魔物を見据えて何度も魔法を唱え続けた。
「アイ様、アイ様、大丈夫ですか」
プレシャスの声で視界が広がった。
「私は平気よ。上位魔物も透明感が増してきた。この調子で上位魔物を消滅させる」
胸元が熱い。集中しないと意識が薄らいでいく。
「アイ様の体が揺らいでいます。今すぐ魔法を止めるべきです」
今までにない強い口調だった。でも休むわけにはいかない。気持ちに反して、心の中で唱えるのも辛くなってきた。七色の光は単発になった。
睡魔が襲ってきた。周囲の動きが遅くなった。
魔法を唱えたい。でも呪文を思い出せない。
胸元が熱くなって眠りを誘っているようだった。
「――、起きてください。上位魔物の透明化が進んでいます」
眠っていたみたい。プレシャスの声で目を覚ました。
完全に魔法が止まってしまった。上位魔物に視線を向けた。理由は不明だけれど透明感が増している。
「ちょっとだけ休憩しただけよ。もう少しで上位魔物を倒せる。七色オパール。七色オパール。七色オパール」
心の中だとプレシャスに心配をかけそう。意図的に声に出して魔法を唱えた。
向こう側が見えるほどに上位魔物が透明になってきた。もう少しで消滅させられる。
「七色オパール。七色オパール。七色オパール」
上位魔物から淡い光が飛び散った。
霧が晴れるように上位魔物の姿が消えた。白い自素石のみが姿を見せた。
プレシャスが自素石に向かって飛んだ。落ちている自素石が、吸い込まれるように手の中へ収まった。蜜柑くらいの大きさだった。
「上位魔物は消えたよね」
「倒しました。アイ様の宝石魔法は凄いです。上位魔物の気配は完全に消滅しました」
「プレシャスが助けてくれたおかげよ」
マユメメイの状態が気になった。プレシャスが天幕へ向かって飛んでいった。
目を凝らすと少女が天幕の外にいた。手を振っている。マユメメイで間違いない。無事に回復できたみたい。自然と涙が溢れてきた。
私も手を振ろうとした。でも体に力が入らない。熱いのか寒いのかも分からない。意識が遠のくのが分かった。
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