第53話 大聖女の危機

 頭の中が熱くなった。マユメメイが大怪我を負った。考えただけでも鳥肌が立った。

「ターランキンさん、マユメメイが危ないの?」

 二人の間に割って入った。


「アイさんでしたか。大事な話になります。少し待って頂けますか」

「私も聞きたい。マユメメイの力になりたい」

 ターランキンさんを見つめた。困っている表情に変わった。でもマユメメイのことでは一歩も引けない。


「アイさんは大聖女様を名前で呼ぶ仲でした。わかりました。一緒に聞いてください」

 ターランキンさんが白魔道士の男性に視線を向けた。

「大聖女様が上位魔物を弱体化していました。ですが反撃を受けました。直撃は免れましたが危険な状態です。白魔道士も足りません」


「マユメメイは助かるの?」

 状況を早く把握したい。男性の体を揺すった。

「危険な状態です。それ以上は言えません」

 視線を逸らされた。この場では話せないのかもしれない。


「場所はどの辺? 教えてほしい」

「街から見て南の方向です。徒歩で半日程度の距離です」

「プレシャス、私を連れて行ける?」

「平気です。場所も近づけば分かるでしょう」

 プレシャスがいれば途中の魔物も怖くない。一秒でも早く到着したい。


「アイさん、如何するつもりですか」

「マユメメイの元へ行ってくる。私も回復魔法を使える。絶対にマユメメイを助ける」

「止めても無駄のようです。ですが気をつけてください」

 ターランキンさんは男性と一緒に神殿の奥へ向かった。


「プレシャスは私を乗せて移動できるよね。どの方法が一番早く到着できる?」

「空を飛ぶ方法です」

「神殿から飛ぶと目立ちそう。一旦家に戻ってからお願いする」

 急いで人目のつかない場所まで走った。転送魔法で収集部屋に移動した。


 家を出ると同時にプレシャスが大きくなった。

「背中に乗ってください。わたしの力によって落ちる心配はありません」

「マユメメイの元へお願い」

 プレシャスの背中に飛び乗った。


 羽もないのに宙に浮いた。加速して上空に向かった。重力も風圧も感じない。

 街が小さくなった。南側に向かって飛び立った。景色が後ろに流れていく。思っていた以上に速く飛んでいた。


 視界がよくて眺めもよかった。旅なら心ゆくまで楽しめた。でも今はマユメメイが心配だった。生きていてほしい。意識を集中させた。

「遠くに上位魔物がいます。もう少しです」


 飛んでいる前方に目を凝らした。私には草原や森が見えるだけだった。プレシャスが高度を落とし始めた。地上に動くものが見えてきた。

 草原に異質の場所があった。巨大で半透明な白い建物だった。ゆっくり動いていた。


 プレシャスが近づいた。巨大な建物は人の姿をしていた。足元に小動物がいる。よくみると人間と魔物が戦っていた。巨人は十階建てくらいの高さだった。

「巨人が上位魔物?」

「間違いありません。気配が他の魔物と異なります」


 上位魔物は体の一部をちぎって周囲に投げた。半透明の白い塊が地面に突き刺さる。ちぎった体の部分は回復していた。

「大きすぎる。街を破壊できるのも頷ける。それよりもマユメメイは何処か分かる?」

「気配を見つけました。今向かいます」


 プレシャスが方向転換した。森に向かって飛んだ。

 低空飛行で木々の間をすり抜けた。随所で人間と魔物が戦っている。上位魔物の破片は巨大な岩に思えた。状況を把握する余裕はない。前方に集中した。


「マユメメイが見つからない」

「もう少しです」

 プレシャスが地面を走った。周囲に魔物はいない。騎士や魔道士が驚いている。声をかける余裕はなかった。早くマユメメイの元へ向かいたい。


 タイタリッカさんの姿が見えた。天幕の前に立っていた。中は見えない。

 プレシャスが止まった。飛び降りてタイタリッカさんに走り寄った。

「マユメメイは何処?」


「驚いた。どうしてアイがいる。ここは強い魔物がいる危険地帯だ」

「マユメメイが危険と聞いた。プレシャスに乗せてもらって急いできた」

「街に連絡が届いたか。白魔道士はいつ頃来そうだ?」

「聞く前に出発したから分からない。でも私も回復魔法が使える」


「本当か。大聖女様自身は魔法を唱える力が残っていない。中に入ってくれ」

 天幕の中へ飛び込んだ。

 マユメメイが横たわっていた。傷だらけの顔に服は破けていた。腹部には血が滲んでいる。目を疑った。信じたくなかった。


「マユメメイ」

 名前を呼ぶのが精一杯だった。

 マユメメイの横で一人の白魔道士が回復している。傍から見ても疲れているのが分かった。不安な表情でキキミシャさんが立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る