第49話 宝石魔法の戦い方
「アイ様、中位魔物の気配です。気をつけてください」
リリスールさんとライマインさんの顔色が変わった。すぐに辺りを見渡した。
「あたいには気配を感じられない。どの方角か教えてくれるかい」
プレシャスが向きを変えて方向を示した。
「少し戻る感じか。俺が先頭で進む。ビッグポイズンフロッグの自素石は後回しだ」
ライマインさんが両手剣を構えながら歩き出した。
風で揺れる木々の音と足音があたりに響いた。
「魔物が分かったよ。メイジフェイクさ。厄介な相手だよ」
リリスールさんだった。ライマインさんは動きを止めた。私にはまだ魔物の姿が見えなかった。リリスールさんが手を使って魔物の位置を教えてくれた。
「何色でも俺では倒せない。たしかに面倒な魔物だ」
「凄く強い相手なの?」
「メイジフェイクは陽炎のような存在だ。物理攻撃が効かない。魔法にも耐性がある。相当数の魔法を当てないと倒せない。唯一の弱点は光魔法だ。光魔法なら倒しやすい」
たしかにライマインさんでは無理だった。私は光魔法を覚えていない。リリスールさんは白魔道士だから攻撃魔法はない。一つだけ解決策があった。
「プレシャスなら倒せるよね。今回もお願いできる?」
「アイちゃんの使い魔は強いのかい」
「俺だと勝てない。ギルドマスターでも難しいと思う」
「本当ならメイジフェイクは倒せそうだね」
プレシャスに視線を向けた。
「物理攻撃が効かないと難しい?」
「関係ありません。アイ様は魔物と魔法になれてきました。今のアイ様ならメイジフェイクを倒せます。如何しますか」
「魔物への恐怖心は減った。でも私で倒せるの?」
「光属性はありませんが、アイ様は連続で魔法が使えます。メイジフェイクに魔法耐性があってもダメージは入ります。圧倒的な数で攻撃すれば倒せます。でも知り合い以外の前では控えてください」
一回の魔法で複数の渦を作り出す。最初に出現したルースを使って、魔法を連続で唱える。宝石魔法に魔力の枯渇は関係ない。七色オパールのような危険もないはず。
「リリスールさん、私の攻撃魔法で試してみたい。倒すのが無理と分かったら、プレシャスが代わりに倒してくれる」
プレシャスは頷いてくれた。リリスールさんに顔を向けた。
「メイジフェイクは動きが遅いから可能性もあるさ。でも相手も魔法を使ってくる。手強い魔物だけれどアイちゃんは平気かい」
「大丈夫よ」
「アイちゃんに任せるよ。ライマインは他の魔物に注意しておくれ」
戦う準備ができた。ゆっくりと歩き出した。メイジフェイクの姿が見えた。大人ほどの人型で緑色の影が揺らいでいた。こちらに気づいていない。今なら先に攻撃できる。
剣と盾を構えた。水の渦を十個想像した。最大威力でメイジフェイクに当てる。
「涼球アクア。涼球アクア。涼球アクア」
水の渦が十個単位で三つできた。連なってメイジフェイクに向かった。水の渦がぶつかった。激しい雨のようだった。轟音が鳴り響いた。全ての水が地面に広がった。
メイジフェイクがこちらを見ている。あまり効いていないみたい。
「アイ様、相手に魔法詠唱の隙を与えてはいけません」
「涼球アクア。涼球アクア。涼球アクア。――」
出現しているルースから水の渦が湧き出た。声の続く限り連続で魔法を唱えた。
先頭部分がメイジフェイクにぶつかった。水の渦が四方八方に飛び散った。水の渦を切らせるつもりはない。最大威力となるように念じながら魔法を唱えた。
周囲に霧が発生して状況がよく分からない。でも魔法は止めなかった。
メイジフェイクが見えなくても、最初に姿を認識している。宝石魔法は想像による心の声で対応できた。最初の姿を思い出しながら魔法を唱えた。
急に水の渦が軌道を変えた。
「魔物の気配が消えました。アイ様の魔法で消滅しました」
プレシャスの声で魔法を止めた。
霧が晴れるとメイジフェイクの姿はなかった。
「魔法を唱えることだけに集中していた。私が倒したのよね?」
「アイちゃんにはいつも驚かされるよ。褒め言葉としてアイちゃんは常識知らず。これほど連続で魔法が使える黒魔道士はいないさ。アイちゃんの魔力は無尽蔵かい」
「宝石魔法は魔力と関係ないみたい。以前にキキミシャさんも驚いていた」
「連続詠唱だけなら中級ハンターを超えているさ。アイちゃんは疲れていないかい」
「体力的にはまだ平気よ」
「まだ日は高いから、自素石を集めたら次の魔物を探すよ」
メイジフェイクとビッグポイズンフロッグの自素石を回収した。自素石は三等分する約束だった。でもメイジフェイクの自素石は私に渡された。一人で倒したご褒美だった。中粒の無色だった。
日が暮れるまで魔物を退治した。途中で別パーティーに遭遇して情報交換した。魔物の数が多くなっていて、普段見かけない魔物もいたみたい。
五刻の鐘が鳴る前に街へ戻った。
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