第27話 魔法の訓練

 ライマインさんが私の家に来た。もう一人、横に女性が立っていた。肩には使い魔が乗っている。

「コララレさんまで来るとは、ギルド関連で用事でもあるの?」

「戦いの訓練と聞きました。せっかくですので、私が魔法を教えましょう」

「ギルドマスター自ら来てくれて嬉しい」

 今日は剣の使い方を教わる予定だった。でも魔法を学んで損はない。


「ギルドマスターはアイの魔法に興味がある。まだ見せていないだろ」

「異国の魔法には探究心をくすぐります。その前にアイは、一般魔法を何処まで知っていますか」

「神聖魔法と一般魔法がある程度よ。神聖魔法は神殿で教わってきた」

「基礎からですね。リリスールが話していた、常識知らずとは本当のようです」

「この国に来て間もないのよ。一般魔法の基礎を教えてほしい」


 一般魔法が分かれば、二種類の魔法が把握できる。イロハ様の世界を楽しむには必要な情報だった。ライマインさんから、戦い方を教えてもらえれば旅もできそう。

「魔法は精霊と契約して使える力です。精霊は代わりに、人間から魔力をもらいます」

「使い魔も精霊なのよね?」


「よく知っていますね。少しは常識も学んでいるようで安心しました」

「プレシャスに教わった。魔法や使い魔は一般精霊よね。さらに強さで三種類分かれると聞いた。魔法の威力にも関係するの?」

「勉強熱心で感心します。通常の一般魔法は下位精霊の力を借ります。特殊な魔法では中位や上位精霊の力を借ります。精霊の力に比例して魔法の威力も上がります」


 難しい魔法では強い精霊の力が必要みたい。魔法自体を覚えるのも難しそう。

「精霊との関係性が強いのね。一般魔法の特徴も知りたい」

「契約する精霊により魔法の属性が決まります。六種類あります。土属性、風属性、火属性、水属性が基本の四属性です。強弱関係があります。残りは光属性と影属性です。最初の四属性よりも上位です。光と影は相殺されます。使える人間も限られます」


 光属性と影属性はプレシャスに聞いていた。上位だから使える人が少なかったのね。

「誰でも練習すれば、六種類の属性を使えるの?」

「二属性が使えれば一人前です。四属性も使えれば優秀でしょう。ただし上位の二属性を両方使える黒魔道士はほとんどいません」


「コララレさんは何属性使えるの?」

「四属性です。知識ばかりでは退屈でしょう。実際の魔法を見せます。アイは防御魔法を庭の中央に出現させてください。可能ですか」

 やっぱりコララレさんは優秀ね。属性の種類が気になる。でも魔法も早くみたい。

「できるよ。防御力はどの程度でも構わない?」


「せっかくです。威力も確認しましょう。通常の防御力で出現させてください」

「庭の中央に半球の壁を作る。矢車サファイア」

 宝石魔図鑑が出現してルースが飛び出した。青い光が庭の中央に着くと半球の壁が作られた。壁の強さは宝石魔図鑑のままだった。


「知らない言葉です。手元に現れた本と宝石は何ですか? 探究心をくすぐります」

「宝石魔法よ。本に魔法が書かれていて、宝石は魔法が発動している証よ」

「触っても平気ですか」

 目の前まで来て触ろうとしていた。


「試したことがないけれど、たぶん大丈夫」

 コララレさんが手を伸ばした。宝石魔図鑑に触ろうとしたけれどすり抜けた。ルースも同様だった。私は両方に触れたから私以外では無理みたい。

「本人以外には無理なのでしょう。ますます探究心をくすぐります」

「私にも詳しくは分からない」


「もっと調べたいですが、今は魔法の説明でしたね」

 コララレさんが半球の壁に視線を移した。

「六属性とは異なるようです。最初は単体の攻撃魔法で、下位魔物を一撃で倒せる強さで唱えます。ウィンド」

 前方に出した片手から空気の塊が飛んだ。壁に当たる音とともに弾け飛んだ。


「宝石魔法は宝石魔図鑑が必要だけれど、一般魔法は何もいらないの?」

「精霊と契約するだけなので不要です。ただ木を介して契約すると魔法の効率や威力が上がります。黒魔道士は木の杖を所持するのが一般的です」

「白魔道士とは異なるのね。勉強になった」

 神聖魔法はイロハ様の加護だから木の杖は不要だった。


「不明点は都度聞いて下さい。次は強い下位魔物を倒せる力にします。ウィンド」

 先ほどと同じ空気の塊が飛んだ。速度が素早くなって壁に当たった。壁は庭の中央に残っていた。

「アイは凄い。今の魔法は街道沿いの魔物を一撃で倒せる威力だ。その魔法を防いだ」

「防御力が分かってよかった。今まで試せなかったのよ」


「次はダンジョン入口付近の中位魔物を倒せる強さです。ハイウィンド」

 空気の塊が大きくて色も濃かった。壁に向かって飛んだ。高音とともに壁が壊れた。

「耐えられる限度はやっぱりあったのね。壊れてちょっと残念」


「悲観しなくて平気です。初心者でここまでの魔法が使えれば充分です」

 一番強度を上げた状態でも試してみた。最後は壊れたけれど最初よりも耐えた。念じるだけで威力を調整できるのは嬉しい。


「防御魔法はこのへんにしましょう。リリスールから回復魔法も使えると聞きました」

「神官と同等の回復ができると、俺は聞いた」

「これで攻撃魔法も強ければ万能です。さっそく攻撃魔法を見せてください」


 コララレさんは、興味のある目で私を見ていた。せっかくだから攻撃魔法の威力も知りたい。今の逆を行えば分かるかもしれない。

「コララレさん、攻撃魔法の威力を確かめたい。防御魔法を使えば確認できる?」

「可能です。今度は私が防御魔法を使います。より実践的にしましょう。アイが魔法を唱え始めてから魔法を使います。ラミリーチュも一緒に来ますか」


「僕は空から魔宝石魔法を見るよ」

 コララレさんの肩から使い魔が飛び立った。緑色を基調に白色が調和した美しい使い魔だった。大きさもツバメからハトほどに変化した。庭の上空で舞っている。


 コララレさんが庭の中央に移動した。

「いつでも唱えてください」

 遠隔用の攻撃魔法は一つだけしか覚えていない。最初は宝石魔図鑑の威力で試す。

「宝石魔法を唱えます。紅球ルビー」

「ウィンドシールド」


 真っ赤に燃え上がる塊がコララレさんに向かった。真っ赤な塊がコララレさんの前で弾け飛んだ。半透明の壁があった。ただ前方に亀裂が入っていた。

「属性の相性はあるが凄い。アイは中級ハンターの力があるぞ」


「もう一度同じ魔法を同じ強さで唱えてください」

「同じ魔法を唱えます。紅球ルビー」

「ウォーターシールド」

 先ほどと同様に真っ赤な塊が飛んでいった。水の壁にぶつかった真っ赤な塊は、そのまま弾け飛んだ。亀裂が入っていない。コララレさんが近くに戻ってきた。


「今の差は相性の違いです。アイの攻撃魔法は、火属性の影響を感じました。火属性は風属性に強いですが、水属性には弱いです。でもこの威力があれば充分です。街周辺の魔物を一撃で倒せるでしょう」


 攻撃魔法も最大威力に念じてから試してみた。威力は上がったけれど、一撃で壊れない防御魔法もあった。

「アイの防御魔法と攻撃魔法は中級ハンターです。探究心をくすぐります。パーティーが前提ですが、最大威力なら中級ダンジョンも可能かも知れません。ただし魔物退治やパーティーに慣れてからです。無理はしないでください」


 最強ではないけれど、通常の旅なら問題ない強さはあるみたい。勇者になって世界を救うなどとは思っていない。私はイロハ様の世界を楽しみたい。

「アイは凄い。ただダンジョンは危険が潜んでいる。初級ダンジョンでも必ずパーティーを組んで行ってくれ。俺に声をかけてくれればメンバーは人選する」


「魔物退治やパーティーに慣れたらダンジョンに行ってみたい。そのときはお願いね」

 ライマインさんが頷いてくれた。

「宝石魔法は珍しいです。あまりに強力すぎると王族や貴族が近寄ってくるでしょう。他国に拉致される可能性もあります」

「力を持ちすぎるのは、よい点ばかりではないのね」

 世界を楽しむためには、ちょうどよい魔法の威力かもしれない。


「アイの攻撃魔法は他にも何かありますか」

「遠隔用の攻撃魔法は今のだけよ。もう一つは接近用ね。でも種類は同じ」

「火属性に耐性がある魔物もいます。もう一種類、別の属性を覚えると汎用性が上がるでしょう。一通りアイの魔法を確認できました。今日はこの辺までにしましょう」


「コララレさんの防御魔法は、詠唱が速かった。私も見習いたい」

「実践では速さも重要です。生死に関わります。でもアイは筋がよいです。頼もしいハンターが増えて嬉しいです」

「アイは一流ハンターになりたいのか」

 将来は考えていなかった。でもやりたいことは決まっていた。


「私の目的はこの世界を楽しむことよ。今はこの街で学びながら楽しみたい」

「異国から来たのに目的があるのはよいことだ。ハンターの知識なら俺に聞いてくれ」

「頼りにしている。今回の一般魔法も学べてよかった」

「アイには期待しています。私は用事があるので帰ります。ライマイン、戦いの基礎を頼みました」

 コララレさんを見送った。

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