第25話 ペンダントの宝石
神殿から戻って夜になった。マユメメイと護衛の二人が家に来た。さきほど音楽と踊りを披露した。今はいつものテーブルがある部屋にいる。
「アイの踊りは見事だったの。これも宝石魔法なの?」
「楽器と衣装で二つの魔法を使ったよ。でも踊りは独学だから下手でごめんね」
「綺麗な踊りでしたわ。それよりも魔法を詳しく教えてくれるかしら」
キキミシャさんだった。同じ女性だからか早めに打ち解けた。タイタリッカさんとは少し距離があった。でもマユメメイと呼んでも異論を唱えなくなった。
「異国の宝石を使った魔法よ。触れないけれど、今回使った宝石を見る?」
「宝石には多少の知識があります。見せてください」
宝石魔図鑑を呼び出した。トルマリンの頁を開いた。
「今回衣装に使ったパライバトルマリンよ。鮮やかな色でしょ。面白い特徴は静電気があることね。乾燥状態で金属に触ると手が痛くなる現象よ」
「同じ宝石とは驚きます。でもカットにも驚いています。見たことのない複雑なカットです。異国特有かしら。手持ちのペンダントで、似ている宝石がありますわ」
宝石魔図鑑のカットは、ブリリアンカットよりも面数が多かった。さすがに呼び名まで把握していない。でも最近のカットと思う。
「カット技術は日々進化しているのよ。私はこの国の宝石に興味がある。持っていたら見せてほしい」
「今は持ち合わせがありません。王都ザイリュムに来る機会があれば、お見せします」
「残念ね。宝石は眺めるのも嬉しいけれど、やっぱり触りたい。手持ちでは宝石が少ししかないのよ」
「どのような宝石ですか。見たいです」
「ちょっと待ってね。都合で渡せないから近くに行く」
席を立ってキキミシャさんの横に移動した。胸からペンダントを取り出した。
「魔法か何かで取り外せないのですか」
「私がいた世界ではお守りなのよ。だから身を守るために魔法をかけてある。手に取るくらいは平気よ。襲ったりしないから安心して」
実際はイロハ様の加護だった。お守りには変わりない。近くに椅子を持って行き、大粒のブラックオパールを見せた。
「不思議な宝石ですわ。初めて見ました。見る角度によって異なる色が浮かびます。輝きも素晴らしいです」
「キキミシャが知らない宝石なら、ワタシも見てみたいの」
今度はマユメメイが宝石を手に取った。うっとりしたような顔に見えた。
「マユメメイも気に入ってくれた?」
黙ったままだった。ペンダントを包むように握り直した。マユメメイの顔が、私のほうに向いた。
「異国の人間や品物は、イロハ様と関係があるの? このペンダントからもイロハ様の気配を感じる。神殿の祝福部屋よりも鮮明なの」
マユメメイはイロハ様に会っている。気配を感じ取れてもおかしくない。イロハ様の影響は大きすぎる。今は肯定できない。
「私にも分からない。きっと偶然よ。それよりもキキミシャさんに、この国の宝石を教えてほしい。どのような宝石が今は人気なの?」
マユメメイが何か聞こうとしたのは分かった。でも今は答えられない。笑顔を見せながら元の位置へ戻った。
「ルビーとエメラルドが人気かしら。最近ではサファイアが流行っています」
「人気の宝石は何処の国でも同じなのね。他の宝石では――」
積極的に宝石の話題に切り替えた。
夜遅くなる前にマユメメイたちは街へ戻った。近くにはプレシャスのみだった。
「アイ様の態度が途中からおかしかったです。何か気になったのでしょうか」
「マユメメイがイロハ様との関係を気にしていたのよ。ペンダントも家もイロハ様の加護で成立している。マユメメイの言う通り。でも本当の話をすれば大変になる。知っていて黙っているのが辛かった」
「気持ちはわかります。でも適切な判断です。イロハ様に会っていると言えば大変になるでしょう。直接加護を与えられたと知れば、国を揺るがす大事態です」
私の考えはプレシャスと一緒だった。イロハ様の世界における常識はまだ把握できていない。でもイロハ様が凄いのは理解できる。
「今後も発言には注意する。宝石魔図鑑はアイ様の品物だから、その点は救いね。でもマユメメイには隠し事をしたくない。私はマユメメイと一緒にいると元気を貰えるのよ」
「アイ様は大聖女を気にしているように見えます」
「年齢も近いからかもしれない。そろそろ眠くなってきた。今日はこの辺までね」
プレシャスと寝室に向かった。しばらくして眠りについた。
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