第24話 女神と踊り子

 街中の賑やかな雰囲気を感じながら、神殿前に到着した。神殿の中に入った。あたりを見渡すとターランキンさんの姿があった。知っている人がいてよかった。

 近づくとターランキンさんも私に気づいた。


「私を覚えている? 相談があって神殿に来たのよ。少しだけ時間は平気?」

「アイさんですね。ワタシに何かご用でしょうか」

 紹介状を見せる前に確認したい内容があった。


「先日神殿へ来たあとに家へ帰ったのよ。途中で誰かにつけられたみたい」

 笑顔で質問した。ターランキンさんが目を丸くした。驚いたみたい。プレシャスが気づかなければ、私は尾行を知らなかった。途中で後ろを振り向いていない。ターランキンさんは尾行に成功したと思っていたみたい。


「申し訳ありません。決して怪しい行動ではないです」

「きっとマユメメイが頼んだのよね。マユメメイとは友達になったから平気よ」

 険しい顔に変わった。理由はわかっている。私が大聖女様を名前で呼んだからだ。でも呼び方を変えるつもりはない。


「アイさんは異国出身だと聞きました。ですが大聖女様を名前で呼ぶのは問題です」

 マユメメイと出会って日は浅いけれど、私に温かい場所を求めてきた。私が他の人と同じ態度を取ると悲しむはず。ここは堂々とした態度が必要だった。

「マユメメイの許可は取っている。私とマユメメイは特別な関係よ。証拠に紹介状を預かってきた」

 マユメメイが書いた紹介状を渡した。怪訝な表情で中身を見始めた。


「間違いなく大聖女様からの紹介状です。呼び名についても説明がありました。でも信じられません」

「私の言葉には疑問を持つかもしれない。でも紹介状がすべてよ」

「大聖女様の言葉に嘘はありません。わかりました。見習い神官たちを音楽と踊りで楽しませてくれる。嬉しく思います。案内します」


 入口横の庭に案内された。一度に全部の見習い神官は呼べないらしい。三回実施してほしいと言われた。先ほど踊ってみて体力はあまり減らなかった。快く引き受けた。ターランキンさんが近くの人に声をかけた。


「今呼びに行っています。どのあたりで踊りますか」

 庭を眺めた。手入れのされた綺麗な庭だった。庭の中央にある石像で目が止まった。

「イロハ様の石像前でも平気? 神殿ならではの場所で踊りたい」

「構いません。イロハ様も喜んでくれるでしょう」


 ほどなくして人が集まった。子供たちは十名以下だった。付き添いで大人もいた。

「準備が整いました。アイさんも準備をお願いします」

「宝石魔法を使うから準備は一瞬よ」

「異国の魔法ですか。アイさんの判断で始めてください」


 石像の前に移動した。イロハ様にお祈りして、楽しんでいることを感謝した。向きを変えた。集まった人たちにお辞儀した。顔を上げて笑顔を見せた。

「異国の音楽と踊りを楽しんでね。音色トルマリン。煌めきトルマリン」

 体が青色の光で包まれて、踊り子の衣装に変わった。浮いているハープが輝く音符を出現させた。子供たちの驚いた声が聞こえた。


「故郷の歌よ。~花びら踊る街で~。オン」

 自然と体が動いた。二度目の踊りで周りが見えてきた。子供たちの楽しむ表情が私の踊りを後押ししてくれる。私自身も音楽を楽しみながら踊れた。


 踊りが終わると子供たちが近寄ってきた。年齢は私と同じ程度か幼かった。マユメメイは同年齢で大聖女をしている。特別なのだろう。

「お姉ちゃんの踊りはとても綺麗だった。もう一度みたい」

「心が温かくなって楽しかった」

「何処の国の音楽なの? 初めて聞いた曲なの」

「まるで女神様みたいだったよ」

 子供たちの感想が嬉しかった。みんな笑顔を見せている。青空の下で踊れて楽しい。


「私も神殿で踊れて楽しかったよ。あと二回踊るから他の子供たちも呼んできてね」

 人の入れ替えをしている間に休憩した。ターランキンさんが近くに来た。

「見習い神官たちが喜んでいました。アイさんの踊りも見事でした」

「楽しんでくれたみたい。私も踊った甲斐があった。あと二回も楽しく踊る」


「せっかくですので、一般の人も見学させて平気でしょうか。踊りの途中から見学したいと申し出がありました」

 思った以上に好評だった。

「本職の踊り子でないけれど、それで構わないのなら平気よ。当然、お金もいらない」

「助かります。さっそく知らせてきます」


 二回目も同様に踊った。三回目では囲まれるほどに人が増えた。緊張はしたけれど無事に踊りきれた。最後には大きな拍手をもらった。

 ターランキンさんと別れて、神殿をあとにした。今度はお祭りで私自身が楽しんだ。

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