第十五部 第3話 引き際と諦め
「ボルドール!持ち分はお互い25機だ・・・間違っても死ぬなよ?」
2人には相手の機体各所に示されている部隊章が、どのチームを意味しているかを理解していた。50機から成る大部隊の前面に出てきている機体についているソレは、各所が引き裂かれた翼を模している。
「まさか本当に堕天使とは・・・こっちの機体名といい・・・因縁を感じますね」
ボルドールとロン(ついでにミリア)の機体はそれぞれ
それぞれ横一列、HanielとUrielを中心に両翼に6機ずつが上下2列に並んでいる。Fallen’sから見て上がHaniel、下がUrielの部隊が各隊長機を先頭に上下に展開した。中心の隊長機の動きに合わせた全く狂いの無い規律的な動きだ。
「なんだありゃ?紐でつながってでもいるのか?」
「全機!細心の注意を払えっ!あんな動きをする部隊は、フツーじゃねぇぞ」
Fallen’sたちこそ百戦錬磨の猛者たちだ。これまで数々の戦場で様々な部隊と激しい戦闘を繰り返してきた。相対した敵部隊の数が、そのまま彼らの経験値として蓄積され、部隊としての強さが動きで判るようになった。そんな彼らの目に映った今回の部隊は、これまでにお目にかかったことがないほどに(あり得ないほどに)統制が取れているように見えた。
「全機散開して対応に当たれ。孤立するなよ?」
「了解。数でおしきりま」
それはFallen’sの部隊員ではないパイロットからの無線だった。互いに展開を開始したとはいえ、まだ戦闘開始という感覚になるには数秒の距離が互いの間にはあった。それでも、その言葉を聞いていたFallen’s隊長機の脇を掠めるように光が走った直後、後方で爆発音が聞こえた。もしもその光が狙ったのが自分だったとしたら、それを躱すことができていただろうかと考えゾッとする。
「やべぇヤツらだ!数の優位があるうちに押し切るぞ!!」
目の前で6機のMAが入れ替わりながらライフルのトリガーを引いている。その1発1発が的確に僚機を狙い定めていることが分かる。反応が遅れた機体から次々と撃破されていく様が、まるで悪い夢でも見ているかのようだ。
「数はコッチの方が多いんだっ!撃て撃てっ!!弾幕で押し切れぇっ!!」
Fallen’s部隊員からの声ではなかったものの、その判断は間違っていないと理解したFallen’sの隊長はその判断を支持した。
大きく2つに分かれたとはいえ、すでに何機かが墜とされているとはいえ、それでも総数40機を超えるMA大部隊からの一斉射撃は、Fallen’sは言わずもがな、さすがにオスクが連れてきたパイロットたちだけあって、的確に散開するNLBMに照準を合わせている。そのおびただしい光の数は、ただの一発も無駄が無いように思えるほどだ。
「冗談じゃねぇ!どこにすり抜ける隙間があるってんだっ!」
「あ、当たらねぇ・・・」
もちろん、たった1発すらも当たらないというわけではない。放たれた弾数からすればあり得ないほどに少ないのは事実だが、それでも何発かはNLBMを捉えている。ただNLBMの数が減る様子が無い。避けれない何発かは、装備しているシールドで的確に弾かれている。さらにFallen’sを驚かせたのは、直撃すると思われたNLBMがではなく、それとは別のNLBMが、まるでフォローに入るかのように機体と銃弾の間にシールドを滑り込ませていることだ。
「なんなんだ、コイツら・・・明確な役割分担があるってのかよ・・・連携ってレベルで済ませられるモンじゃねぇだろ」
「ああ、コイツらは本当にヤバい・・・オスク指令、残りの全機を出してください。コイツらは強い」
Fallen’sの隊長は、途中で後方で戦況を見ているであろうオスク准将に直接通信を繋いだ。本来高いプライドを持つ者たちで構成されたFallen’sが、増援要請をしたのはいつのことだったかと記憶を探ってみるが、それが格納されている記憶の箱は彼の内に無いらしい。
「・・・分かった。すぐに全機を出す・・・が、引き際は間違うなよ?」
オスクは優秀な指揮官だ。プライドにしがみつくような無能なマネはしない。そうであるからこそ、Fallen’sは彼に付き従っている。
1つ、また1つと、僚機のマーカーが消えていく。その中には、いよいよFallen’sのものも含まれだした。これだけの銃弾が文字どおり雨のごとく降り注ぐ中、相手の数が減らない最大の要因は連携だ。あれだけの高速機動の中、各機が場所を入れ替え、よく見れば役割を瞬間的にスイッチしている機体までがある。まさか全てに台本があるわけでもなく、瞬間的判断で実行できている敵パイロットは、間違いなくFallen’sのパイロットと同等、あるいはそれ以上のスキルを有したパイロットなのは間違いない。もしかしたら役割をスイッチしている機体があることに気付いていない者も居るかもしれない。それほどに自然なスイッチは見ていて美しいとさえ感じる。
「間違えようもない。あの2機が隊長機・・・全機!増援が来るまで耐えろよ?とは言えオレたちはFallen’sだ。2番から5番!オレについて来い。6番から9番を飛ばして11番はもう1機の指揮官機を叩け。いいか?チャンスは1アタックのみだ。それでムリなら・・・迷わず引け」
Fallen’sの僚機は正面全天周モニターに、視界の邪魔にならないようナンバーが表示されているが、その中で9番の表示は他と違いグレーアウトしている。すでに撃破された後のようだ。
「なんだよ1アタックって・・・と言いたいところだが、了解だ。7,8,10,11!オレがあの隊長機に突っ込む。道を開けさせろ」
狂犬ほどではないにしても、Fallen’sももともと好戦的な性格のパイロットが大多数を占めている。だがそれだけでFallen’sに採用されるわけもない。結局のところ彼らはオスクが望むパイロットたちであり、その根底にあるのは、いかなる状況であっても最大限の結果を導き出し、それを持ち帰るだけの冷静な判断のできる者だ。
今回の場合、本来の目的は新兵器のテスト運用であり、もっともあってはならないのはソレの損失だ。極論、MAを全機失おうが、艦隊を全て失おうが、新兵器を失うことさえ免れれば、サイアクの状況は回避できたと言える。
本来の目的に対して障害となったこの新型MA群は、このまま戦闘を続けたとして、負けなかったとしても勝てるとも思えない。その場合、Fallen’sの部隊は有限であり、対する敵部隊は無限とは言わなくとも、IEが後ろにある以上、増援の可能性は高いだろう。仮にこの敵部隊がもう1チーム増えたとすれば、MA戦闘においては負けが確定する。そうなった場合、艦隊ごと新兵器を失い、さらに
程度に差こそあれど、勝てる見込みのない戦場を覆すことができるとすれば、この連携の中心であろう指揮官機の撃破だ。連携に綻びさえ生じれば、Fallen’sが勝てない相手ではない。要するに、「ダメならダメでとっととトンズラ」戦法である。本人たちが理解しているかは定かでないが、その潔さもまた、彼らFallen’sの強さだ。
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