第242話・事は理由を持つ

 最初に見た基本的にレンガ造り家屋、その奥はさながら村だった。数種類の家が立ち並んでいる。これは、ほぼ全部ノラお姉ちゃんが作ったものである。狭い、とは思う。でも、たった一人で家を作る。そんなの現代人には無理な偉業だ。


 ひとつだけ、原始的に見えて、ハイテク気味な家がある。それだけは、建築業者が建てていて、電気が通っている。放送機材用の家だ。

 僕は、ママと一緒にそのうちの一つの家に入り、RTSに着替える。ただ、すごいのだ……。床はフローリングと言っても過言ではない。もはや、別の文明が起こり始めているとすら感じた。


 ママは、僕の前で下着姿になる。それは、未だに僕が見る中では最も裸に近いママの姿だった。


「ね、ねぇ……恥ずかしくないの?」


 でも、僕だってこのあと下着姿になることになる。


「リン君になら見られてもいいよ! あの本に書いてあったでしょ? ママとリン君はいつか、その何十倍も恥ずかしいことすることになるの」


 できれば『偽典:不死の月』には言及しないで欲しい。書いてあったことは、僕のリミッターすら突破するほど恥ずかしい。そして、僕が恥ずかしがることで内容に対する納得はさらに深まるのである。隠したくて、でもその先をせざるを得ない。なればこそ、枷が必要なのだと……。


 キャラクター的側面から迫る、人物への理解。文お姉ちゃんが、孔明お兄ちゃんと肩を並べる理由。それが、遺憾無く発揮されている気もする。だから、書いた理由も、未来に対する干渉である気がするのだ。


「うぅ……もう!」


 お約束の黒煙は、頭頂から吹き出した。


「ところでリン君。やっぱり、下着は女の子のを使わない?」


 僕が普段使っている下着はRTSを着るにあたって不都合がある。限界までピッタリとした服であるため、下着のラインが浮き上がってしまうのだ。

 Tバックのパンツはメンズもある。だが、キッズサイズのそれはない。だけど、女の子向けは存在するのだ。女の子ってすごい……。


 Tバックの役割とは、実は扇情的な要素と消すものとして使われることが多い。タイトなズボンを履くと、フルバックのショーツでは、そのラインが浮かぶ。それは、下着の姿を一部顕にする。だた、Tバックだとラインは浮かばない。下着の姿を、ズボンは完全に覆い隠すのである。銀さんから聞いた話だ……。


「うぅ……確かに……そっちのほうが逆にエッチじゃないのかもだけど……」


 上から服を着ている場合に限りその可能性はある。


「そっちのほうが絶対いいと思うんだ……。あんなの、エッチだと感じてるのは、元々えっちな人だけだもん!」


 ただし、そのエッチな人は誤解しているのだ。あれは、えっちな下着ではないのである。


「わかった……そうするよ……」


 エッチじゃない方に流れるのは、恥ずかしがり屋の僕としては当然のことである。至って自然な流れで、僕は女性の下着を使うことを受け入れてしまった。


「じゃあ、今度下着屋さん行こうか!」


 他のどこにいるのだろうか……。彼女や奥さんと一緒に自分の女性下着を選びに行く男性。いや、それは別に居ない訳ではないだろう。そういった趣向だったり、あるいは銀さんだって将来的に可能性があるのだ……。

 ただ、その売り場がキッズなのは多分僕だけだろう……。

 着替えが済み、僕たちは家を出る。ノラお姉ちゃんと、初めてのコラボまで秒読みになった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 家を出ると、とっくにノラお姉ちゃんは着替え終わっていた。


「おぉ! 二人ともオラと違って色っぺぇだ!」


 などと言うノラお姉ちゃんだが、彼女自身も大概だ。


「えー? ノラちゃんも色っぽいよ?」


 確かに、RTS一枚を隔てて筋肉を感じる。槌を振り下ろす鍛冶師な腕の逞しさもあるし、野生で鍛えられた腹筋の鎧もある。

 でもそれは、決して魅力を損なうものではない。ただ種類を変えるものだ。元気さと健康さを基盤に汲み上げられた魅力だ。


「と、ところで! 家……すごかったよ。フローリングなんてどうやって作ったの?」


 本当に一人でやったのかと疑いたくなる家だったのだ。ワックスすらかけられていた。


「カンナ作ってな、んでワックスは蜜蝋使っただよ!」


 スペシャリストだった……。文明を創造するスペシャリストがそこにはいた。それは、学問にすら重宝される知識である可能性すら考えた。


「ノラちゃん、すごいね! カンナは鍛造たんぞう?」

「んだ! 鋳造ちゅうぞうより長く使えるでよ!」


 ノラ、お姉ちゃんは胸を張って答える。それはすごいことなのだ。もっと誇示していいことなのだ。


鍛造たんぞうも体験したいなぁ……」


 そう、僕は思う。


あらあれは、きついでよ……。何度か、こっちさ来てからがええ!」


 でも、それは今は無理。納得できる。だって、鉄が真っ赤になる温度の炉のそばで、肉体労働をするのだ。楽なわけがない。所謂、特殊な訓練を受けています、というやつである。

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