第63話・ギャル達の参入

 午前の作曲が終わったら、次は午後の放送。これはもう、ルーチンワークだ。


「今日も来てくれてありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん!」


 挨拶は恥ずかしいものだけど、でもこれがまたウケるのだ。


 でも、その日の放送は勝手が違った。


みぽりん:まって、これマジで男の子?

お塩:ファンのあいだでも意見が割れてる。まぁ、すぐに些細なことだと気づくさ。

りあ:ぅち、歌ってほしぃ……

里奈@ギャル:まぁ待ってなって、すぐ歌ってくれるから。

さーや:男の子ならお嫁さんに欲しい……

銀:男の子はお婿さんだ!

みあ:男の子だけど女子じゃーん!

ダン・ガン:男の子が女子……とは?

りん:こんな可愛い子とHNかぶるとかアガるね!

チャイが好きィ!:ぶち上げた流れでバンドやろうぜ!

Ryu:お前いっつもそれだな。


 僕はこの日、新たな客層としてギャルな人たちを手に入れたのである。


「みんな、アモブロから来てくれたのかな? 来てくれてありがとう! お姉ちゃん達!」


 姉がいたことなんてない、だからお姉ちゃんなんて言うのは初めてだ。で、練習しようとしたのだけど、満さんからは一発OKが出てしまった。そのままがいいと。


 だから、逆に練習を禁止された。呼び慣れちゃったりしないほうがいいって。


みぽりん:なんか、胸が締め付けられる……

りあ:っらいこと ぁったの?

さーや:怖がらないでいいよ! こう見えておねーさんやさしーから!

みあ:なんかさ、キュンキュンに混じって、切なさが……

りん:リン君どしたの? もっと甘えていいんだよ?


「えっと、何にもないよ! みんなどうしたの?」


 こんなに慰められると、逆にみんなが心配になる。僕は今幸せだし、何もないから。


銀:本当に呼んでいいの? みたいな響きがあるんだよなぁ

デデデ:遠慮しながらも甘えてくる的な……

里奈@ギャル:だよね、一発でやられるよ。お兄ちゃんの方はかなり甘えん坊になったけどね。

ダン・ガン:そういうところも魅力だよなぁ……とびっきり可愛い義弟ができたみたいな

剣崎:魅力とは変化の動体なのです! 偉い人にはそれがわからんのです!

ベト弁:すまん、歌ばっかり意識しててその魅力見落としてたわ。

初bread:そだよな、歌ってなくても可愛いよな?


 僕の魅力は、かなり変なところにあるみたいだ。でも確かに、VTuberになる時に満さんから言われたことだ。


「えっと、そうなのかな?」


 ともかく変な気持だ。うまく説明なんてできないような感情がごちゃごちゃしている。


デデデ;薄幸属性よなぁ……

さーや:薄幸属性って言うんだ、センガクだから知らなかったよ!

剣崎:本当に浅学な人は浅学なんて言葉使わない。

みぽりん:さーやって頭いいでしょ! 裏切り者!

みあ:薄幸かぁ……。リン君ってどんな子?

りん:リン君の過去私も気になる。


 うーん、過去語りをするべきか否か……。でも、もうすぐ凍傷もみんなに聞いてもらえるレベルになると思う。それが過去語りでもいいかなって思った。


 じゃあ、僕のアピールポイントの話にしよう。


「身長138cm、体重37キロ! 歌うのが大好きな、VTuberだよ! あ、あとモデルもやってるよ! clockchildさんのモデルでRinAkihaの名前で活躍してます!」


 なんか、単純な自己紹介になった気がする。


Mike:ちっちゃい!?

Alen:あー、140も行ってなかったんだ?

みぽりん:マ!? かわ!

さーや:薄幸……栄養失調とか言わないよね?

デデデ:その疑惑あるんだよなぁ……。


 僕の身長が低い理由はよくわかっていない。ただ、第二次性徴期が来ていないのだけはわかる。


「多分、栄養失調ではないよ。小さい頃は、ご飯ちゃんと食べてたから! 小食だったけど……」


 体が小さいのは元々で、僕はあんまりたくさんは食べられなかった。だって、そもそも入るスペースがないから。


Mike:安心しました

さーや:栄養失調じゃないとするとなんだろ……。


 コメントは僕の体の小ささの理由を探るような流れになってしまった。でも、別に小さいことなんてもう気にしてない。


「まぁまぁ、今はそのおかげでモデルの仕事も出来てるし、この小さい体に感謝もしてるんだよ。だから、これはもう僕の立派な武器なんだ」


 開き直るって決めたから。利用するって決めたから。もう、小さい子の体に足を引っ張らせたりしない。


みっちーママ:一回、しっかり検査しよっか?

Ryu:まぁ、それがいいだろうな……。


「うん、そうだね! ママ! Ryuお兄ちゃん!」


 僕だって、その理由はちょっとだけ気になる。今更背が伸びることはなくても構わないけど、理由だけは知りたい。


りあ:ねー歌……


 それはさておき、視聴者さんのひとりが歌を待ちきれなくなってしまったみたいだから、次に行こう。


「うん、じゃあそろそろリクエストも募集していこうかな?」


 こうして、僕の枠はいつもの弾き語り枠に戻っていくのだった。


 リクエストされる歌は、オリジナルソングが多い。オリジナルソングに関しては、Ryuさんが僕にギターアレンジの譜面を書いてくれた。TAB譜というギター専用の譜面だったけど、僕には読みにくかったからヘルツに直した。


 ちなみに、その譜面、完全に僕用だそうだ。普通ヘルツじゃ弾けないって言ってた。


 練習もして、もう譜面を見なくても歌える。だから、オリジナルソングのリクエストには全部答えられる。

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