第58話・モデル撮影2

 みっちーママの配信は、無し。僕の配信の方が基本的に時間が長いから、満さんも疲れるようだ。


 僕自身はそこまで疲れたことはない。ただ何時間も歌っているので、念のため喉を休めたいというだけ。


 次の日……。今日はモデル撮影だ。


「今日もお願いします!」


「うん、こちらこそよろしくね」


 今回もカメラは安田さん。メイクはYuuziさんだった。


 メイクを済ませて、服を着替えて安田さんの前に立つ。やっぱり、僕といえばゴスロリでギターを持っているイメージらしい。ヴァイオリンも弾くんだけどなぁ……。


 そういうわけで、僕は今日もギターを構えながら歌っている写真を撮る。この時、練習をしっかりした歌は歌ってはいけない。安田さんが撮影を忘れちゃうから。


「うん、相変わらずリンちゃんいいね!」


 3カットくらい撮影を終えると、安田さんは僕を褒めてくれた。


 まぁ、満さんがずっと僕を褒めてくれてるんだけど。


「ありがとうございます!」


「さ、水分とって! 暑いでしょ?」


 そう、今は夏真っ盛り。なのに僕が着ている服は秋物だ。冷房をガンガンにかけてるけど、ライトとかが結構暑い。


「はい!」


 僕は返事して、満さんに駆け寄る。


「はい、パカリ」


 満さんは僕にスポーツドリンクを渡してくれた。


 それを飲んでいると、安田さんが雑誌を手に持って近づいてくる。


「でね、次の冬物の撮影なんだけど、とあるキッズモデルさんと姉妹コーデを撮りたいんだ。相手はSilverAirisちゃん」


 そう言いながら、安田さんが開いた雑誌のページには、僕の見たことがある人が写っていた。


「銀さん!?」


 それは、僕と同じclockchildの服に身を包んだ銀さんの写真だった。髪も、肌も、眉毛やまつ毛までまっしろで、すごく綺麗だ。アルビノって言ってたし、きっとこっちが銀さんの本来の色だと思う。


 アルビノは、先天的にメラニン色素を作る遺伝子が欠落して生まれてくることだ。人間の体はあちこちにメラニン色素がある。例えば髪の毛の黒はメラニン色素によるものだ。それが薄い、つまり白に近い色になる。


 見たところ、銀さんのアルビノはとても極端な例だ。完全にメラニン色素を持たない人。だから、体は真っ白で、目が真っ赤だ。目が赤いのは、虹彩にもメラニン色素がなくて血の色がそのまま映し出されているからなのだ。


 銀さんは、多分すごく苦労してる。紫外線を浴びると、すぐに肌が火傷してしまうような体質である。


「お? 知り合い?」


「はい、僕の視聴者さんです!」


 そういえば、前にコラボしたいって話をしてくれた。早速それを実行してくれたみたいだ。


「そっか! それで、コラボしてくれる?」


 そんなの、答えは決まっていた。


「もちろんです!」


 奇縁だ。キッズモデルおじさんなんて人種は、人類の中でも超希少種だと思う。それなのに、そのうち二人が出会った。こんな機会そうそうない。


「ふーん、これが銀くんなんだねー」


 横から、満さんがその雑誌を見ていた。


「そうなんですよ。白井プロの主力モデルです! まぁ、今はリンちゃんもいるんですけどね!」


「え!? 僕、こんな綺麗な人と並べられてるんですか!?」


 だって、銀さんはアルビノの人が持つ静謐な美しさを持っている。でも、実際は話すとすごく楽しい人だ。


「うん、だって同じくらい可愛いもの!」


 安田さんはそう言いきった。となると、僕の外見って、女の子としてはものすごく可愛いということになる。それはさすがに……。


「まぁ、リン君は世界一ですから!」


 そう、満さんが僕の思考を裏付けてしまった。


「ぼ、僕……普通だよ……」


 僕は恥ずかしくなって、頭を沸騰させながら顔を伏せる。


「次の撮影、ビデオ取れないかな……」


 その様を見て、安田さんはそう呟くのであった。


 撮影に戻る。今度は僕はヴァイオリンを渡された。


「え? 今度は、これですか?」


「そうそう、ヴァイオリニストなリンちゃんも推して行こうって話になってね」


「わ、わかりました」


 僕は、そのヴァイオリンを普段通りに構えた。


「お、すっごい! 色っぽいよ! キッズモデルがしちゃいけない顔してるよ!」


 それって、どんな顔なんだろう。


 ヴァイオリンの良さは音の色気だと僕は思っている。ヴァイオリンに比べれば、ギターの音は男声だ。


 どういうことかというと、ヴァイオリンは倍音倍の周波数の音が非常に多いのだ。女声は男声に比べて多くの倍音を持っている。だから柔らかく、そして高い音に感じるのだ。例えその、メインの周波数が同じでも。


 だから、ヴァイオリンの音は女性的な色気を放つのだと僕は思っている。


「それ、どんな顔ですか!?」


 でも、そんな言い方をされるのは初めてだ。えっちな顔なのだろうか……。


「え!? 凛くんこんな顔で演奏してたんだ……」


 満さんとライブで一緒の時の演奏はお互いに画面を見ている。だから、満さんからは横顔しか見えない。


 僕は、知らず知らずのうちに、色気のある表情をしていたんだろう。


「うん、いいね! 大人っぽい! 女の子たちの憧れの的待ったなしだね!」


 そう言いながら安田さんは何度もシャッターを切った。


 撮影はあっという間に終わってしまう。というか予定していたのは6カットだったのだけど、実際に撮影したのは10カットらしい。ヴァイオリンのカットを4カット余計に撮影してしまったと安田さんはホクホク顔だった。


 今日は屋内撮影だけで、かなり楽だった。だから、前回のようにはならずに済んだのだった。

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