第53話・撮影会になっちゃった
「おはよ、リン君。早いね」
しばらくして、満さんが起きてくる。一応、今日もマンケに行ける準備はしてあった。
「おはようママ! 今日はどうするの?
それに今は午前五時だ。今から行っても、マンケは十分楽しめる。
「マンケ行こ! 行くの楽しみだったんでしょ?」
そう言ってくれるのがとても嬉しかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
トライアングルサイトにはやっぱりタクシーで行った。
「えへへ、今日はお客さんだね!」
タクシーを降りると、僕は言う。すごく楽しみにしていたのだ。だって、マンケって自由だ。誰でも表現者になれる。
「リン君楽しそう! あ、このリストバンドつけといてね」
そう言って、満さんは僕にリストバンドをつけてくれた。なんだろう、このリストバンド……。
「何あの尊い二人組……」
「みち×リン、多分本人」
近くからひそひそ話が聞こえてきた。
しばらくして、マンケの開始時刻が訪れた。
『只今よりM104二日目を開催します!』
それと同時に列は早歩き気味で動く。僕はそれについていくため、二倍の速さで足を動かさなきゃいけなかった。
だけど、地面に片足がついていなければいけない。歩く、の定義は予習済みだ。
「二日目はゲームとかだけどなにか見たいものはある?」
「僕、コスプレ広場に行ってみたいです!」
「じゃあ、先に向かって! ママは着替えていくから」
どうやら、満さんは昨日と同じくDarkAliceのドレスを持ってきてくれたみたいだ。
僕はこれが普段着だ。だから考えてもみなかった、自分が撮影される側になるだなんて。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
コスプレ広場にたどり着くと、また結構僕がいた。そして……。
「秋葉リンのコスプレですよね?」
そう言われて、僕は振り返ると、声をかけた人がカメラから手を離してしまった。
「本人!?」
僕はその秋葉リンの中の人。言ってしまえば本人である。
「えっと……そういうことになります……」
その瞬間、僕の前にはあっという間に行列ができた。
「ギター構えてるところお願いします!」
こんなことならギターなんて持ってくるんじゃなかったともほんの少しだけ思った。だけど、コスプレイヤーとしての楽しむのも悪くないかもしれないなんても思った。
万が一ギターを鳴らしても大丈夫だ。今僕のギターは消音対策バッチリで、音は話し声より小さい。コミケでみんなが楽器を鳴らしたら迷惑だから、このくらいは対策しなくちゃだ。
「はい!」
なんか、モデルの撮影を思い出す。だから、あの時やったみたいにした。
少しすると、遠くで満さんの声が聞こえた。
「リン君! どこー!?」
どうやら僕を探しているみたいだ。
「ごめんなさい、ちょっといいですか? ミチルさんを迎えに行きたいです!」
「も、もちろんです!」
今撮影中の人が許可してくれたので、僕は満さんと合流しに行く。
その時、その人が小さくガッツポーズをするのが見えた。
「満さん! ここです!」
お互いに声を頼りに近づいていく。それと、満さん本人っぽい人が向こうにいると情報提供してくれる人もいて、すぐに合流できた。
「リン君、どこにいたのー?」
「えっと、向こうで撮影されてました」
そう、僕は何故か撮影される側だ。ただの私服姿なのに……。
それもこれも、満さんがギターを持っていこうなんて言い出したからな気がする。
「そっか、じゃあ今日はレイヤーとして楽しもうよ!」
でも、それもすっごくいい経験だと思う。レイヤーは表現者で、僕の憧れの人種だ。だから、僕がそうなるっていうのは嬉しいことだ。
満さん、そのことわかってたのかな……。
「戻りましたー!」
僕が撮影の列の前に満さんと一緒に戻ってくると、撮影の人俗に言うカメコさんは熱に浮かされたように呟いた。
「みち×りん、てぇてぇ」
それを見て、満さんは言った。
「ほら、カメラ構えて。ポーズどんなのがいいの? ママに教えて」
ずっと、そうしていると後ろから文句を言われちゃうからだ。だから、満さんのこれも優しさだ。
「あ、じゃあ、みっちーママがリン君を後ろから抱きしめる感じでお願いします」
な、なんてえっちなことを注文しちゃうんだろう……このカメコさん。
「はーい!」
「え? やっちゃうの!?」
「うん、抱きしめるのはえっちじゃないからね」
そうだった、僕のえっち基準はおかしいんだった。全然エッチじゃないことまで僕はエッチなこと扱いしている。
「う……あ、あわわ……」
僕は満さんに後ろから抱きしめられて、恥ずかしくてたまらなかった。
そのあとも、いろんな写真を撮ってもらった。僕のコスプレイヤーを集めて、集合写真を撮ったりもした。
僕のコスプレイヤーさんで一人すごく可愛い人がいた。もう、気絶するくらい可愛い。肌が真っ白で、お人形さんみたいな人。その人とはツーショットを撮ったりもした。あの人もモデルやってたりするのかな……。
もちろん、ローアングラーもいたけど全部満さんが追い払ってくれたのだ。
でも、多分、僕が男だっていうことはそういう設定だと思っている人が多いんだと思う。だって、かなり女の子扱いをされたから。
僕の夏マケは二日でおしまい。だって、やりたいことは全部出来たから。
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