第23話・太陽な月
ライブが終わって、僕は脱力していた。ありえない金額が飛び込んできて、頭はまだまだパニックだ。そこに、満さんが入ってくる。
「お疲れ様、凛くん。すごかったね! ママの半月分を一日で稼いじゃった!」
また僕はびっくりする。満さんは月二百万円稼いでる。そりゃ、服代なんてはした金なわけだし、ギターだってポンと買って当たり前だ。僕、すごい人に拾われちゃったな……。
でも、呆けてなんていられない。僕には伝えなきゃいけないことがある。
「ありがとうございます……。満月、聞いてくれました?」
「うん、聞いた! すっごくいい歌だったね! 初めてですごいよ! Ryu君も褒めてたし!」
興奮して、満さんは言うけど、僕は苦笑してしまった。満月だってヒントだったのに。秋月満さん、僕にはその名前が中秋の名月を連想させる。だから、満月という名前にしたんだ。
「実は、あの歌は、満さんに聞いて欲しくて作りました」
僕の人生を変えてくれた、僕の可能性を見つけてくれた僕の恩人。恋……はちょっとわからないけど、好きなことは間違いない。だから、僕は作った。そして歌った。
あの歌には、満さんへの感謝の一部が込められている。一部なのは、全部は収まりきらないからだ。
「え? 嘘?」
「嘘じゃないです……でも、気持ち悪いですか?」
歌を作って送るなんて、なんかすごく独りよがりな気もした。だけど仕方がないじゃないか。面と向かって言うなんて、恥ずかしくてできない。
次の瞬間、僕は満さんに抱きしめられた。
「気持ち悪くなんかない! もう……大好き!」
その言葉に、どれほど救われただろう。声は、涙声だった。だけど、嬉しそうな響きで安心する。
歌としての出来だって気になった。だけど、それはRyuさんが褒めてくれたことで安心することができた。満さんの言う通りだ。
「僕も……その……大好きです」
人に、こんなふうに想いを伝えるのは初めてだ。
好きな人はいた。でも、恋愛感情っていうのは僕にはわからなかった。だから、僕の好きはいつも友情の延長戦だ。でも、今回はもっと深い気持ちな気がする。
まるで、太陽を見つけたかのような。
でも、世界の何もかもを満さんが変えてくれたのだから、それも当たり前だ。これまでの日々は、今に比べたら白黒だ。無機質で熱のない日々だった。
「ねぇ、いつ作ってたの?」
聞かれると思ってた。それは、僕にとって予定調和で笑っちゃう。
「隙を見つけては……みたいな感じです。結構、上手く隠せてたでしょ?」
だって、満さんのための歌を作ってるところを見られるなんて恥ずかしすぎる。
満さんが買い物にいった隙に、この防音室に忍び込んでは、ギターを片手に作ってた。楽譜が見つからないように隠すのも大変だった。
最も、僕の書いた楽譜は数字の羅列だから、きっと見られてもバレなかったと思うけど。
そういえば、今日のライブ中はずっと、満月のチューニングにしてしまった。C
「全く気付かなかったよ……」
ただ、僕は満さんが喜んでくれるのが嬉しかった。
少しして、話が変わった。
「そうだ、今日から外出中は声出すの禁止ね!」
「え!? どうしてですか!?」
僕が尋ねると、満さんはスマートフォンの画面を僕に向けた。
画面には、僕のチャンネルが表示されている。
僕のチャンネルの登録者数は8000人になっていた。
「一気に三千人も登録者が増えるライブなんて、伝説的。それに、生放送のアーカイブも公開してるから、これからファンはどんどん増えてく。本人だって、バレたらどうなっちゃうかな?」
僕が有名人の仲間入りを果たすまでの秒読みはもう始まってしまったのだ。だから、有名人としての立ち振る舞いをしなくてはならない。
「わ、わかりました……」
外で自分の意思を伝えるのは、どうしたらいいんだろうか……。ボディーランゲージだって、限界があると思う。
「明日、スケッチブックを買いに行こう? 外では筆談ね!」
その答えをくれたのは満さんだった。
「はい!」
だから、僕は嬉しくなって、勢いよく返事をした。
僕が満さんと話をしている間。ネット上では満月が切り抜かれて、拡散されているのを僕は後から知る事になる。
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