愛情たっぷり! 歳下ママに産み落としてもらったから、僕弟Vtuberになります! ~僕を拾ってくれたママが全力で才能を見つけてくれたから億万長者! 帰ってこい? あなたたちは僕を捨てたんですよ!?~
本埜 詩織
不死鳥の歌姫
ターニングポイント
第1話・人生が変わった日
まだ寒さも残る、ある春の日。その言葉は突然告げられた。
「お前ももう27だ。出て行きなさい」
僕の部屋に突然顔を出した父に唐突に告げられたこの言葉に、僕は困惑した。
「え? ど、どうして?」
出て行って、僕はどうやって生きていけばいいんだろう。就活は連戦連敗、それも全部この容姿が悪い。僕の容姿は、まるで12歳くらいの女の子のようなのだ。
お小遣いも貰えず、床屋に行けず、髪が伸びてそれは余計悪化した。
「どうしてじゃない! なんでお前みたいな穀潰しをいつまでも養わなくちゃいけないんだ! このクズ!」
部屋に入ってきた父に、髪を掴まれて、僕は家の中を引きずられていく。
途中、母は引きずられていく僕を嬉しそうな目で見ていた。
「いたい! 痛いよ!」
どうしたらいいんだろう。スマホも財布も、部屋に置き去りになってしまった。
「うるさい、この軟弱者め!」
父は僕に浴びせる罵声のレパートリーが非常に多い。それだけ、僕を罵り慣れているのだ。
やがて、家の外に投げ出されると、内側から鍵とチェーンをかける音が聞こえた。
ここは都内、そこにある小さな一軒家だ。
いつか入れてもらえると思って、僕は家の前で待った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夜になると、扉はチェーンをかけたまま開かれた。
中にいたのは母だった。
母は僕に頭上から塩を浴びせたのだ。
もうここにはいられない。悲しいけど、僕はもう厄介者でしかないんだ。
だから、歩き出した。
生きる方法を、とにかく考えた。
女の子のようである、とはいえ僕の見た目は整っている。それを利用できないかと考えた。
ふと、援助交際という言葉を思い出した。僕の大好きなVtuber、みっちーママのチャンネルで出た言葉である。今では、パパ活やママ活と呼ばれるそうだ。
みっちーママにももう会えないのだろう……。
この時間なら、子供はもういないだろう。だから、最初に出会った女性に声をかけてみよう。
そう思って、とにかく人通りの多い場所を目指した。
警察署を目指せば家には帰れたかもしれない。でもきっとまた、追い出されてしまっただろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
都会の喧騒は僕には恐ろしくて、決めていたのに何人もの女性を見逃してしまう。
薄着で、裸足で、寒くて、凍えてしまいそうだ。
僕はこのまま死んでしまうのだろうか。
それは寂しくて、辛かった。
だけど、涙は出なかった。寂しさにも、辛さにも慣れていたからだ。
「こんばんわ!」
喧騒を切り裂いたのは、どこか聞き覚えがある気がする、綺麗な声だった。
斜め前で、ひとりの女性が立ち止まっていた。
「え、えと、こ、こんばんわ」
うまく言葉が出ない。
もう何年も家族以外と話していなかったから。
女性はしゃがんで、僕と目を合わせた。
「あら、可愛い声。ねぇ、お嬢ちゃん。こんな時間にどうしたの? パパとママは?」
笑ってしまう。27歳の男なのに、こんな子供に聞くようなことを聞かれてる。
本当に、この容姿が疎ましい。
「えっと、僕、お嬢ちゃんじゃないです」
僕の会話はいつも訂正から始まる。年齢を訂正し、性別を訂正して、やっと普通に話すことができるのだ。
「僕? 男の子なの? ごめんね!」
女性はとても優しい。
次に生まれてくるなら、こんな人がお母さんだったらいいなってちょっと思った。
「は、はい。それと、これでも大人です。つきましては、僕とママ活してくれませんか!?」
こんな誘い方が下策なことは、女性経験のない僕にだってわかる。
だが、その答えで、僕の世界は一変した。
「ママ活はダメだけど、ママになってあげてもいいよ! 大人ならだけどね」
この出会いが運命だったと、僕は今でも信じている。
「ほ、本当に!? 僕、大人です! これでも、成人してます!」
僕は必死にアピールした。ここで放り出されてしまったら、明日の朝には僕はもう生きていないと思ったから。
「とりあえず、うちこよっか」
この時、初めてその女性を見た。
髪は長く下ろしていて、格好はパーカーにGパン、靴はスニーカーを履いていて、なのにちょっとおしゃれだと思ったのが印象に残っている。
「い、いいんですか?」
「うん、警察署に連れて行っても家に戻されるのが関の山だからね。こんな時間に、そんな格好で出歩いてるってことは、追い出されちゃったんでしょ?」
大人だと言っているのに、彼女はいつまでも子どもに話すような喋り方を続けた。
でも、なんだかそれが心地よかった。
「はい、その通りです」
僕が答えると、女性はしゃがんで背中を向けた。
「乗って、おぶってあげる」
女性は、裸足の僕を気遣ってくれたのだ。
「で、でも!」
「いいから乗る!」
そう言われ、僕は女性に強引におぶられる。
「私、
女性、満さんは、歩き出しながら僕に質問をした。
「
「そっか、ねぇなんで僕っていうの? 大人なら、俺って言わない?」
「俺って言うと、偉そうだって殴られるので……癖になっちゃいました」
「そっか……」
その時の満さんの表情を僕は知らない。
ただ、優しい声に僕はどうしようもなく安心してしまった。
空を見上げると、丸い月が銀色に輝いていて、それが綺麗だった。
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