カラフル

しーちゃん

カラフル

青が好きだった。正確に空の色。淡い紺色が好きだった。幼稚園の友達のちなちゃんとふみかちゃん、そしてそれぞれのママ達と6人で服屋さんに行った。何色が好きか聞かれたがそこには私の好きな色はなかった。すると「女の子だからピンクにしなさい?」そうママ言われた。目の前にある青は私の好きな青ではなかったからママの持っている薄いピンクのTシャツを私は渋々着た。「みさきちゃんは本当に可愛いね」とちなちゃんママとふみかちゃんママに言われた。その日から何故か私の好きな色はピンクと認識された。

ピンクは嫌いじゃない。可愛いし綺麗。でも好きにはなれなかった。なのに私の持ち物はほぼピンクのものだった。筆箱、ノート、財布、服に靴、鞄までもが薄ピンクだった。そんな私を可愛いと「美咲らしい」と皆は口を揃えて言った。私らしいってなんだろ。この子達は私の何を知っているのだろ?そう思いながらも皆に認められないのは嫌だし怖いから皆に合わせた。好きな食べ物、趣味、好きな人など付き合う人、絡む人が変わるとガラリと好みが変わる。そんな私を見て「何考えてるかわからん子やね」とママは気味悪そうに言い放った。高校生になった頃からだろうか。色んな人に告白された。高校で1番仲良かった里紗が口をとがらせなが言う。「美咲モテるよね。まぁそのミステリアスな感じがいいのかなぁ」ミステリアスかな?「どんな感じ?」そう聞くと「いつも落ち着いててニコニコしてる。でも何にも興味さなそうな、少し寂しそうな?何考えてるか分からないというか本心が見えないというか。いつも心ここに在らず?みたい。まぁ、それが美咲らしいとも思うんだけどね」皆と一緒にいて楽しくないとか思ったことは無い。皆といる時、何も考えずに流れに身を任せているのはとても楽だった。ある日、拓哉先輩に告白された。彼はサッカー部部長でモテるんだと里紗が言っていたから何となく知っている。いつもならその場でYESかNOか答えるのに何故がその時は直ぐに答えず里紗相談してみた。「絶対付き合った方がいいよ!拓哉先輩ってサッカー部部長でめっちゃモテるんだよ?いいなぁ!!でも美咲とならお似合いだね!」そう言われて、付き合ってみることにした。先輩は優しかった。とてもいい人だし素敵な人なんだと思う。でも私たちは3ヶ月と続かなかった。「美咲はさ、俺の事本当に好きなの?何考えてるのかわ分かんねんだよ。」と言われ私は何も答えれなかった。そして、数日後彼に私は振られたのだ。悲しいとは思わなかった。何となく虚しいようなそのくらいだった。でも、こういう時は悲しむものと思ったとたん涙が溢れた。里紗に連絡したらすぐに会いに来てくれた。ずっと私を抱きしめ、「大丈夫だよ。美咲は可愛いから、いい人が他にもいっぱいいるよ。私は美咲大好きだよ」そう言ってくれた。「ありがとう」と何度も言いながら、何故こんなに泣いているのか理解出来ない自分がいることに不思議な感覚を覚えた。

次の日には何も無かったかのように普通に戻った。そんな私を皆心配そうに見ていた。「無理してない?」「大丈夫?」と何人も声をかけてくれる。私は少し微笑んで「大丈夫だよ!ありがとう。」そう言うと皆頭を撫でてくれたり抱きしめてくれたりした。「美咲って本当にいい子だよね」と遠くで話していた声が聞こえた。文句や愚痴は皆の前で言わない。愚痴の代わりに「どうしたら良かったんだろ」と弱音を零す。(そもそも彼に対する愚痴なんてないんだけど)そんな事を無意識に計算して行動するうちに私はどんどん意志を持たなくなった。『なんでもいい』と言い聞かせて期待はしない。そうすると悲しくなることも苛立つことも無くなる。それが楽だと思ったし、実際私は周りから『いい子』や『可愛い』と褒められる。学校の中で私は特別視されていた。皆に認められてることへの安心感が私を包んで穏やかな気持ちにする。少しでも分からないこと、知りたくないことは知らないフリを装う。分からないって顔で興味を示しつつ、聞きながす。ほんの少しの事でも、喜び笑顔でお礼を言う。そんな私を皆「純粋」と言う。子供のフリを続けるのは居心地が良かった。誰も私に難しい話はしない。当たり前に出来ることも、私がすると皆褒める。出来なければ笑って可愛いと口々に皆愛でてくれる。それでいいと思ったし、そうじゃないといけないとすら思っていた。

私は何も変わらないまま大学に行き、そして何も変わらないまま卒業した。会社という物に属し、私は学生から社会人という肩書きだけが変わった。

「城田!!何度言ったらわかるんだ!」突然後ろから大きいな声が聞こえた。ビックリした。何?そう思い後ろを見る。すると同期の城田夢香が上司に怒られていた。また、怒られてると思いながら席に戻る。なんとなく私は会社の空気に慣れずにいる。女性蔑視ってほど酷くないのかもしれないが上司の態度には色々不満があった。夢香は要領が少し悪いのか仕事の失敗が多い。でも彼女なりに頑張っているのは目に見えて分かる。だからこそ、いたたまれない気持ちになる。でも私は怒られないように気をつけようと気持ちを引き締め直してしまうのだ。そんな自分に嫌気がさす。そんな時「有末ちょっといいか?」と声がした。私の人生で最も嫌気がする声。「市村課長何でしょうか?」少しだけ口角を上げ振り返る。「この前頼んでおいた書類はどうなった?提出期限は今日だぞ。」そう言われ、「はい、もうすぐ出来ますので、後ほどお持ち致します。」そう言うと少し不満そうな課長の声。「期限ギリギリまで出来ないとはいつまで学生気分なんだ?女だからって笑ってたら許されるなんて甘い考えはやめてくれよ。本当に使えない部下達だ。」そう文句を良いどこかへ行ってしまった。目の前で夢香は悔しそうに唇を噛んで俯いていた。

『学生気分』社会人になるまで誰も私に『大人になれ』なんて言わなかった。なのに、急に大人を求められる。ニコニコして、自分の意見を言わなければ好意を持たれていた。なのにいつから、意見を言わなければ『約立たず』と烙印を押されるようになったんだろう。『女』そのイメージは良くも悪くも都合よく使われる。『女の子らしく』皆が思う通りに私は行動してきたはずなのに、何故今その女の子らしくが枷になっているのだろう。手元に目を落とす。私のデスクには相変わらず薄ピンクばかりだ。母親に選ばれてきたピンク。派手ではなく品のある薄い薄いピンク。「美咲はピンクが好きなの?」その声に我に返る。「え?あ、んー、どうだろ。」そう曖昧に返す。「なにこれ(笑)」夢香は少し不思議そうに笑う。夢香のデスクはカラフルだ。青のファイルにピンクのペン。黄色いマグカップに緑のノート。私の視線に気がついたのか夢香が言う。「私のデスクごちゃごちゃしてるでしょ?でも、それがいいの。あ、言い訳じゃないよ?」そう焦ってる彼女が少し可愛くて笑ってしまう。「お昼一緒に食べない?」そう言われ近くのカフェでお昼をすることにした。さっきの会話の続きが少し気になっていた。カラフルなデスクがいいと言った、それがいいと言い切った彼女の理由が知りたかった。「夢香ちゃん、デスクのそれがいいってなんでなの?」夢香は不思議そうな顔をしたけど、すぐに思い出したように、「あー、あれね!」と笑ってみせた。「色には力があるって知ってる?」そんな事考えたことない。私は首を横に振る。「青は冷静さとか、赤は情熱とか色って人の心情に大きく影響するの。」と教えてくれた。「薄ピンクは、女性らしさとか幸福感。それと、、、」そこで少し夢香は口を噤む。「それと?」「依存。」依存。口には出さず復唱する。「美咲とは違うなって思ってたの。依存してそうで、誰にも興味がないというか。だから本当に好きな色なのかな?って思ったの。まぁ、女子らしいはあってるんだけどね」「薄ピンクは昔からお母さんが選んで持ってたの。その名残で、、、」そう言うと「そっか。本当は何色が好きなの?」と聞かれて、初めて迷いがなく声がでた。「淡い空の青色。」「美咲は冷静だもんね!凄く美咲に似合う色だね」と言いながら夢香が笑顔で私を見る。「美咲はさ仕事のミス少ないもんね。本当は皆褒めてるんだよ?市村課長は怒る事が上司らしいと思ってるの。それが威厳ある姿って勘違いしてるの。上にはペコペコしてるくせに。でも美咲は怒る事ないから美咲には嫌味しか言えないのよ」そう口を尖らしながら言う彼女は何故か立派な社会人に見えた。ランチを終え職場に戻った。廊下の奥に市村課長がペコペコ頭を下げながら部長と話してるのが見えた。彼を見て思う。きっと彼らは自分の色に気が付かないまま会社と云う何かに色を吸い取られ染められてしまったんだ。私は大きく深呼吸をする。大丈夫。焦らなくてもいいから、ゆっくりゆっくり時間をかけて経験をつもう。私の意見にちゃんと私は耳を傾けよう。いつか、きっと。私らしい色を沢山見つけたい。遠くに見える彼に向けて呟いてみる。「ご愁傷さま」

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カラフル しーちゃん @Mototochigami

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