第17話

 ワクイの装備が壊れた。

 これは、ワクイがアーティファクトの代償を払えなくなったからだ。


 アーティファクトの中には自壊するものがある。ワクイの装備のように代償が払えなくなったら壊れるものもあれば、使用回数の限度を迎えて壊れるものもある。


 アーティファクトが壊れ、装備が無くなったワクイは茫然(白色)としていた。急に装備が壊れたのだから当然だ。


 ワクイの装備が壊れた時、エルは困惑した。戦闘相手の装備が壊れるなんて経験した事がなかったからだ。しかし、そんな経験はしたことがなくて当たり前だった。今までは壊れないような装備、木剣などで相手をしてもらっていたからだ。


 エルの攻撃は止まらなかった。戦闘時に攻撃する手を止めてはいけないと習っていたからだ。


 エルはワクイを切ることに躊躇しなかった。スラムの住民を殺したこと、いままで突っかかってきた恨み、様々な思いがあり、殺すべき敵だと捉えていたからだ。茫然としていたワクイを切ることは容易たやすかった。


 周囲の冒険者は不安だった。エルには殺すべき敵は殺せと教えてきたが、実際に人を切るのは初めての経験だったからだ。

 しかし、そんな不安はいらなかった。躊躇せずにワクイを切ったからだ。

 このことに対し、冒険者たちは驚いていた。


 ココは恐れていた。ワクイを切れないこと、切ったとしても躊躇せずに切ることだった。なぜなら切れないことは反撃の機会を与え、エルが負けるため、躊躇せずに切ると後々罪悪感にさいなまれることがあるからだ。

 最悪な展開にはならなかった。しかし、この後、エルがどうなるかはわからない。人を切った感覚がずっと残り続けるかもしれない。そうなると二度と戦闘ができなくなるかもしれない可能性があった。そのようにならないためにケアする必要があったのだ。

 ココはすぐにこの場を離れたかった。しかし、ギルドマスターからの命令で団体行動をとらなければならなかった。そのため、この後自分がエルにできることを考え始めた。


 ワクイは理解ができなかった。自分がエルに負けたことが。アーティファクトが壊れたことが。

 自分が負けることは考えていなかった。

 エルを殺せるということしか考えていなかった。


 (なぜ最初は勝っていたのに負けたのだ!なぜアーティファクトが壊れたのだ!)


 ワクイは自分の体の老化が進んでいたことに気が付かなかった。また、自分が最初からエルに勝っていたものはなかったことにもきがついていなかった。


 (なぜだ!なぜだ!なぜだ!なぜ・・・だ・・・)


 ずっとエルに負けた理由に疑問を抱きながらワクイの意識はなくなった。

 また、同時にエルの意識もなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る