第25話 view change 基本のキを学べ!
どんなに下手でも、やってみなくちゃ、ずっとできない――あのときジャスミンが口にした言葉は、今も愛佳の胸に深く刻み込まれている。
だから愛佳はホワイト・リリィとしてFHSの世界に降り立ち、この手に
「FHSというゲームの根幹にあるのは
愛佳――ことリリィがジャスミンに案内されたのは、メーン・キャッスルの大広間だった。そこは昨日リリィが初めてFHSにログインしたとき、ジャスミンと出会った場所だ。
「外見は
ジャスミンが指差すのは、二十メートルほど先に立つ一体の彫像。それはリリィやジャスミンといったFHSのプレイヤーたるスーパーヒロインを象っており、プレイヤーと全く同じ大きさということもあって、試し撃ちの的にぴったりだった。
「まずはあの像を狙って撃ってみて。コツは
リリィは手に持った
「えっと、えっと……」
しかしもちろんそこから先は手動で
「落ち着いて。まずはゆっくりでいいの。その代わり正確に」
リリィの耳許にこそばゆい囁きが響く。いつの間にかジャスミンはリリィにぴったりと身体を密着させ、
ディープスペースで知り合った人と気軽にボディタッチしないこと――そう言ったのは、ジャスミンさんじゃないですか!
緊張に頬がかあっと熱くなり、
「わわわっ!」
輝石弾を発射した反動で、
「今のが
ジャスミンに促されるがままに、リリィは再び
「す、すごい」
「FHSで戦えるようになるには、まずは
「
「えっとたしか――今のところ三十種類くらいかな。バトルロイヤル・ルールの
「さ、さんじゅう……」
このエレメールと呼ばれる
「もちろん、今日中に全て覚えるなんてことは不可能。コツコツと練習していく中で、少しずつ覚えていくしかない。まずはこのエレメールの特徴と
それから数分間、リリィはひたすら彫像に向かって
「これくらい当たるなら、付け焼き刃ながら最低限の
先程までリリィにぴったりと寄り添っていたジャスミンが急に跳躍し、リリィから距離を取る。大広間を素早く駆けていったジャスミンは、先程までリリィが撃っていた彫像の隣で立ち止まった。
「距離は約二十。ここであなたと私が今から撃ち合いをする」
「それってわたしとジャスミンさんが戦うってことですか?!」
「そんなに心配しないで。あくまで練習だから、大したことじゃない――せーので同時に撃つよ」
プレミアム・ランカーなんていう凄い称号を持っているジャスミンさんに勝てるわけがない――そう思いつつ、リリィは
「――せーの」
結果は明白。リリィが一生懸命に狙って撃った輝石弾は一発もジャスミンに命中せず、一方でジャスミンの放った輝石弾はあっという間にリリィのドレスが持つ耐久値をゼロにしてしまった。
「さて、どうしてあなたは私に勝てなかったでしょう」
この練習場では受けたダメージや消費した弾薬はすぐに回復するらしい。リリィのドレスはすぐさま輝きを取り戻す。自身が再び動けるようになったことを確認した上で、リリィはジャスミンの問いに答えた。
「ジャスミンさんが、わたしより強いからですか?」
「残念、不正解。もちろん
リリィはしばらく考え込んで、そしてあるひとつの可能性に思い当たる。
「もしかして――」
「そう。私はずっとこの彫像を遮蔽にしていた」
ジャスミンの隣には先程までリリィが撃っていた彫像がある。ジャスミンはこの彫像に隠れながらリリィを撃っていたのだ。リリィの撃った輝石弾は、彫像には弾痕を残していたものの、ジャスミンには一切命中していない。
「FHSにおける基本のキは、常に遮蔽を使うこと。どんなに上手いプレイヤーも、遮蔽がない空間に放り出されたら、四方八方から蜂の巣にされてそれでおしまい。遮蔽を使って相手の様子を窺いながら射撃することが大事なの」
続いて、リリィも遮蔽を使って撃ち合いをすることになった。なるほど、ジャスミンに勝てないのは変わらないものの、遮蔽に隠れながら撃つことで、リリィがやられるまでの時間は大幅に伸びた。少なくとも最初の撃ち合いのように、一瞬でやられてしまうということはない。
「実戦でも常に遮蔽を使って撃ち合うこと。遮蔽がない場所はそれだけでとても危険。遮蔽から遮蔽へと移動する意識を持つだけで、何もできずにやられるような展開は大きく減るはず」
「なるほど――なんだか勝てる気がしてきました!」
ジャスミンの言葉はいつも理路整然としている。右も左もわからないゲームの世界でも、ジャスミンが冷静に何をするべきかを話してくれることで、リリィの胸には不思議と自信が満ち溢れてくるのだった。
こんなに素敵でカッコいいジャスミンさんとなら、今度こそ勝てる――リリィがそんな確信を抱いたときだった。
「はーっはっはっはっ! 待たせたな、プレミアム・ランカー!」
リリィとジャスミンしか居ないはずの大広間に、どこかで聞いたことのあるような誰かの声が響き渡った。
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