第22話
幸福とは何だろうか?人にそう聞かれたとき、私はすぐに答えを出す事ができなかった。だけど、不幸な事に関しては理解する事ができていた。不幸とは、誰かかから馬鹿にされる事、お腹が空いて死にそうになる事、お風呂に入る事ができない事、他にも山のようにあるけど、代表的なのはこんなところだろう。
だからだろうか。美味しいご飯を食べて、ゆっりと本を読んで、温かいお布団で眠る。もうこれだけで私は幸せを感じていた。
(ああ...もう最高だよ~...いやいやいや、これじゃあダメだ!)
ベッドから起き上がって、軽くトレーニングを始める。体のダメージは完治していたが、まだ様子見が必要という事で、私はこの施設に入院していたのだ。
看護師さんに聞いた話だと、ここは世界でも有数の魔法を専門にした病院らしい。どこの国にも法にも属さない、徹底して医療だけを追求した魔法十字という組織の傘下にある病院なんだそうだ。
本来なら、底辺Fランク冒険者の私なんかが入院できるような場所ではないんだけど、どうやら師匠が口を聞いてくれたようで、なんと最高クラスの病室を用意してくれたのだ。...ここまでくると、逆に怖くなってくるのは私が小心者だからなのだろうか。
私にとって一番重要なお金に関する問題も、病院側は何の心配も必要ないと言ってくれた。というのも、費用に関しては全て師匠が支払ってくれたらしい。いったいいくら払ってくれたのか、私は怖くてその金額を聞くことはできなかった。少なくとも、今の私では逆立ちしたって返せない金額だという事は間違いない。それとなく師匠に聞いたところ、「金に関してはまったく困ってないから、好きなだけ居てもいいぞ」という恐ろしい発言が帰ってきた。師匠がよくても、私の心が持たないんですよ!
とにもかくにも、明日には退院する方向で話はまとまったし、今の私にできる事なんて体を動かす事しかない。両腕を軽く伸ばして、両足のストレッチを始める。
「ふっふっふう」
明日から再び過酷な冒険者生活が始まる。だけど私は、不安感よりも、奇妙な期待という感情を感じていた。今までは、ただあてもなく、暗い闇の中を歩いている感じだったが、今の私には光明という光が差している。なぜならば、師匠が私が強くなるために必要なダンジョンを教えてくれたからだ。そして、今後の活動に役立つ特別なアイテムもプレゼントしてくれた。私は部屋に置いてある、赤い腕時計に軽く触れた。すると、空中に文字が投影される。
・熱海ダンジョン 装備を整えて挑戦すること
(これって絶対魔法デバイスだよね?私なんかがこんな凄い物を装備していいのかな...。いやいや!何を弱気になってるんだ私!いいんだよ!そう決めたじゃない!!)
もう一度腕時計に触れて、文字を消し、部屋の明かりを消灯する。明日に備えて早く眠るのも、冒険者に必要な技能だ。
「...おやすみ~」
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