第141話 主人公の活用方法
チャイカは盾を構え、脚を踏ん張ってハヤシダの槍を受け止める。
「チャ、チャイカさん……! 来てくれたのですねっ!」
「もちろんです、レイア様。遅くなり申し訳ございません。チャイカ・フォン・シューンブルーマン=カイニス、ただいま御身の前に馳せ参じました!」
「──クソッ! 突然、なんでだッ⁉︎」
ハヤシダとシンクが、チャイカの盾を破らんとさらに攻撃を重ねようとするが、そうはさせないために俺が駆けているのだ。
「は、速っ⁉︎」
「ぜんぶ作戦通り──だ!」
俺は即座にハヤシダの目の前まで迫り、『雷影』を叩きつける。
「うおっ⁉︎ くそっ!」
「避けたか! でもまだ行くぞ……!」
俺はハヤシダめがけて猛攻を仕掛ける。チャイカさんにこれ以上手出しをさせる気はない。
「ハヤシダ、下がれっ! 僕が受ける!」
「ちっ……!」
2度目の『雷影』、それはハヤシダを庇うようにして前に出たシンクによって消え去った。
「ユニークスキルの『物理攻撃無効』は健在か……!」
「ハッ! お前らじゃ僕には勝てないぜ!」
防御するなんて思考をいっさいせずに迫り来るシンクの帯の攻撃を防ぎつつ、俺は後退する。ひとまずはこれでいい。みんなを逃すための隙を作ることはできたから。
「なっ……? チャイカたちはどこへ行ったっ⁉」
「消えたっ……? レイアもニーニャも、全員いなくなったぞっ⁉」
ハヤシダたちがようやく目の前の異変に気が付いたが、もう遅い。
「これでこの場にいるのは戦える者たちだけ、だな」
「あ、あり得ん……いったい何が……!」
その場に残った俺とガイ、ハヤシダとシンクが向かい合う。
「くそっ……! 王国のヤツらは卑怯なヤツばっかりかよ!」
シンクが地団太でも踏むのではというくらいに怒りに肩を震わせながら杖を握る。
「時間稼ぎなんてコスい真似をしやがる姫に、仲間を忍ばせて不意を突くグスタフ! コソコソと暗躍ばかり! 正々堂々と戦えないのかよ!」
「いや、人質を取るようなお前たちに言われたくはない。それに」
俺は槍を構える。狙うは、ハヤシダ。
「この戦いはスポーツじゃないんだよ。ルールなんてどこにもない。世界の命運を分ける場面では、正々堂々だったとしても負けてちゃしょうがないんだ」
「……それには同意だね」
大きなため息を吐くと、ハヤシダもまた槍を構えた。
「グスタフ、君とはたぶん……話が合う気がする。それゆえに、こうして敵対関係にしかなれないのは残念だよ」
「初対面でそんなに分かるもんか? 悪いけど俺には実感が湧かないね」
「それはそうだろうね。俺が一方的に君のことを知っているだけだからな」
「一方的に知ってる……?」
「お喋りはここまでだ。じゃあ、やろうか。悪いけど俺たちは勝つ。勝ってこの世界を救済する」
ハヤシダが俺へと向かって来る。その後ろからシンクの帯も伸びてきた。
「グスタフ、どきなっ!」
「うおっ⁉」
俺が横に逸れるやいなや、その場所を太く青い光線が突き抜けていく。
「飲まれろやぁッ! オレの『
「チッ……!」
帯の攻撃を粉々に弾き飛ばした光線にシンクは舌打ちしながら前に出る。その光線もまたシンクの前に無効化される。
「だぁーかぁーらぁー! そんな『かめ〇め波』モドキ、僕には効かないっての!」
「ケッ! 真っ向からぶつかってこねぇとは風情のないユニークスキルだぜ。ダッセェ!」
「ガイ、お前、マジでぶっ殺すからな……!」
……シンクのことはひとまずガイに任せることにするか。
俺は光線を免れたハヤシダの、その背後を取る。
「っ! いつの間に……!」
「槍の練度はどんなもんだ、ハヤシダ!」
俺の突き出した槍の穂先とハヤシダの振り回した槍の柄が交わる。その瞬間、
「んがッ⁉」
ビリッと来た。動きが一瞬固まった。
「かかったな? 俺の槍はね、触れる者を感電させる」
ハヤシダは柄をぐるりと返して俺の槍を弾くと、一転して攻撃の構えを取る。
「『
「ぬおっ⁉」
槍先に集中した炎に、俺の直感がマズいと告げる。槍の石突で地面を打ち、『千槍山』で守りを固めた。
「甘いッ!」
しかし、ハヤシダのその炎をの攻撃は一瞬にして俺の槍の壁を燃やし尽くす。
「ははっ、どうやら槍の炎スキルの獲得までは手が回っていなかったか⁉ この攻撃は『雷影』と同じ、防御不能技だよ!」
「なら、避けりゃいいっ!」
俺はハヤシダの槍の柄を弾くと、その懐へと体を入れ込む。
「なっ、なにをっ!」
「当て身だよッ!」
「ぐぁっ⁉」
腰を入れ、思いっきり肩をぶつけてやる。ハヤシダの体が吹き飛んだ。
「くそっ、ダーティーすぎるだろ!」
「槍を振るうだけが槍兵の戦いじゃないってことさ」
今度はこちらの攻撃ターン、と思いきや、側面からシンクの帯が迫ってきていた。
「まったく、面倒だなッ!」
「はは、無駄無駄。僕は無敵の魔術師さ。大人しく
「杖の戦士め! 正々堂々勝負しろ!」
「さっき正々堂々戦ったって負けちゃ意味ないって言ってたのはお前だろうが!」
シンクがこちらに近づいてくるが、その横からガイの極太の光線がぶつかった。やはりそれは無効化されていたが、シンクが舌打ちをする。
「おい、ガイッ! どれだけ撃とうが無駄だってのがまだ分かんないのかよ!」
「知らねぇ」
「この単細胞がッ! いい加減目障りなんだよ!」
ガイは光線を撃ち放ち続けながら俺の方へと視線を合わせると、パチリとウィンクをした。
「──っ!」
同時に、俺の服の裾が後ろから引っ張られる。
……これは、合図だ。
俺は槍を左手に持ち替えると右手にソレを握った。
「みんなは?」
「──チャイカと俺で入口まで運んでおいた」
俺の右手の先、何もないはずの虚空から返事が返ってくる。
「ありがとう。よくやってくれた……それで、覚悟はできてるんだな?」
「……いまさら訊くのかよ」
フン、と。ソイツは鼻を鳴らした。
「遠慮はするな。思いっきり投げろ。【利用されるだけの武器】であることが、今の俺の存在意義だ」
「分かった……そんじゃあ、行くぞッ!」
……スキル『カタパルト・アームズ』。人間を、コイツを投げるのはあの日以来だ。
「行ってこいッ! 聖槍『勇者アーク』!」
「『元勇者』だッ──って、うぉぉぉぉぉああああああああああああああああぁぁぁあああぃぃぃッ⁉」
盗賊職専用スキル『気配遮断・改』が解け、ひとつの投擲槍となった【元勇者アーク】の姿が現れる。それは一直線に、杖の戦士シンクへと向かって飛んでいった。
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