王城モブ衛兵に転生したので姫をさらおうとする魔王軍を撃退したら勇者のハーレム要員から次々に惚れられた件。あ、姫は俺が守ってるんで俺様系自己中勇者さんはどうぞ勝手に魔王退治の旅へ
第60話 株式会社ニューゲームズにて、会話
幕間の物語
第60話 株式会社ニューゲームズにて、会話
【現代:日本 東京都新宿区 雑居ビルの1フロア】
「先輩先輩! もう見ました? 例のコンテストの結果!」
「例のコンテスト……? なんだっけ?」
株式会社ニューゲームズ、その会社に設置された自販機前の休憩スペースにて。そこにいたのはふたりの男。フレッシュさにあふれた若い男が、遊び足りないワンコのように落ち着かない様子で先輩と呼ばれるもうひとりのくたびれた表情をした男に話しかけていた。
「えぇ、この前話してたじゃないっすかー! 今年の初めに発売されたウチのゲーム【ちょっと魔王シバいてきてやんよ】の話っすよ!」
「あぁ……なんかそんな話を前にしたような……? で、それで? そのゲームがどうしたって?」
興味なさげにコクコクと缶コーヒーを飲み下す先輩社員へと、新人はニヤニヤと「聞いて驚いてくださいよ?」と目をキラキラさせて言う。
「なんと、ウチの松谷ディレクターの趣味全開で送り出した渾身の一作、【ちょっと魔王シバいてきてやんよ】が今年の【クソゲーオブザイアー】を受賞したんですよっ!」
「……え、マジ?」
「マジもマジの大マジです」
株式会社ニューゲームズが今年の1月に世に送り出した作品、【ちょっと魔王シバいてきてやんよ】。その内容はファンタジーの王道である剣と魔法のRPG……なのだが、しかしその主人公である勇者は何ともクセのある男だった。
彼はさらわれた王国の姫を取り戻すべく魔王退治の旅へと出るのだが、ヒロインたちを強引に仲間に加えハーレムを築くわ、中ボス相手にイキりまくるわ、挙句の果てに魔王を倒したらこれまでのヒロインたちを全員捨てて、魔王から救った姫と駆け落ちするのだ。
「いやぁ……なんていうか前衛的っていうか、めちゃくちゃ斬新なシナリオのゲームだとは思ってましたけど、まさかのクソゲーオブザイアーですよ」
「ある意味で歴史に残る名作? になったわけだな……」
「今年1番のクソゲーっていう不名誉作ですけどね。さっきデスクで松谷ディレクターがヒステリー起こしてましたし。確か『私が最初に企画した通りのままのシナリオにしていれば、こんなことにはならなかったんだっ!』……とかなんとか」
「ああ、まだそんなこと言ってんのか、あの人」
先輩社員はそう言うと、呆れの込められた深いため息を吐いた。
「『まだ』って……どういうことっすか?」
「ああ、そうだよな。お前は新人だもんな、そりゃ知らないか」
意味深な発言をする先輩社員に、「えぇ、なんすか? 教えてくださいよー!」と新人がスリ寄る。
「まあ隠すことでもないし、別にいいけどな。実は……松谷ディレクターがの1番最初の企画案で作られた【プロトタイプ版】のゲームはな、もっとヒドい内容だったんだぜ?」
「【プロトタイプ】? なんすか、それ?」
「プロトタイプは【原型】って意味だ。ウチが発売するゲームはな、関係会社内部で発表するための【プロトタイプ版】と実際に販売することになる【リリース版】の2つがあるんだよ」
「え……? そうなんすかっ⁉」
「ああ。まず最初にウチが作るのはメインストーリー部分のみをちょこちょこっと実装したプロトタイプ版だ。それが完成した段階でゲーム開発の出資元になる会社のプロデューサーに見せて、開発続行にGOサインが出たらそのプロトタイプ版のゲームを元にして、本格的にリリース版のゲームを作り込んでいくって流れになるのさ」
「へ、へぇ~! 知らなかったす!」
新人はほげーっと大きく口を開けて驚き……それからまた好奇心に溢れたニヤつきを見せる。
「それで……そのプロトタイプ版はどんな内容だったんすか? プロトタイプ版とリリース版の内容が違ってたってことは、プロトタイプ版はプロデューサーに却下されたってことですよね? そんなヒドかったんですか?」
「そりゃもう、いろんな意味でめちゃくちゃだったよ」
先輩社員もその表情が緩み始めた。彼は長年コネ入社の松谷ディレクターの元で散々コキ使われてきた身。グチを吐ける相手ができた嬉しさに、その口は次第に滑らかさを増した。
「まず初期の登場キャラが違ったんだよな。確か……そうだ。【アグラニス】っていう女の魔術師が最初に勇者の仲間になるキャラなんだ」
「えっ? 【盗賊ニーニャ】よりも先なんですか?」
「そうそう。で、このアグラニスってキャラがさ……実は魔王討伐の舞台となる王国を仮想敵国にしている【帝国】の人間なんだよな」
「つまり……【味方のフリをした敵】ってことですか?」
「そういうこと。帝国は王城内での魔王軍襲来の報せをあらかじめ潜り込ませていたスパイから聞いて、いずれ王に招かれて現れるであろう勇者を帝国に引き込むためにアグラニスを王城へと忍び込ませたんだ」
「なるほど……あれ、結構おもしろそうなシナリオじゃないっすか?」
「ここまでの流れだけでは、な」
先輩社員はやれやれといったような大きなため息を吐くと、ニヤリとしながら話を続ける。
「……だがな、新人よ。この物語の主人公があの勇者アークだってことを忘れてないか?」
「あー……不安になってきたぞ?」
「物語の中盤で魔王を倒した勇者は調子に乗っていてな、帝国へと自分を勧誘してきたアグラニスにめちゃくちゃ腹を立てるんだ。『よくもここまで俺様を騙してくれたな!』ってな。それでアグラニスを殺そうとする」
「
「アグラニスは勇者の手から何とか逃れるも……もちろん帝国は黙っていない。もともとは自分たちが勇者を横取りするためにアグラニスを派遣したにも関わらず開き直って、『魔王討伐のために勇者へと貸し出していた我が国の宮廷魔術師を殺そうとするとは許せない! 即刻勇者を引き渡せ! さもなくば戦争だ!』って建前で王国に迫るんだ」
「ははぁ……それで今度は王国と帝国の争いが始まるというわけですか……ずいぶんと長大で、いろんな要素を含めたストーリーですね」
眉間にシワを寄せて首をひねる新人に、先輩社員は「チッチッチ……まだまだ甘いな、新人よ」と不敵な笑みを浮かべた。
「お前はまだ、松谷ディレクターという人を分かっていない」
「え? それはいったい、どういう……?」
「あの人はなぁ、その程度の要素じゃ満足できないクソディレクターってことだよ!」
「マジすか! なんすかっ? 他にいったいどんな要素があったんすかっ⁉」
息まいて説明する先輩社員に、新人も興奮気味に先を催促する。
「よし、聞いて驚けよ新人。なんと帝国はな……勇者に対抗するための戦力を用意するために【異世界人召喚】をするんだ」
「異世界人っ? それってもしかして現代日本から、ってことですかっ?」
「そうそう。いま流行りの異世界転移だ」
「ヤベー! もしかしてそれで召喚された異世界人が次のラスボスになるんすか?」
「いや、違うな。そいつらは中ボスだ。7人いる」
「7人も異世界転移しちゃったんすかっ⁉」
「ラスボスは帝国の皇帝だ。こいつが帝国の秘宝である魔装──ガ〇ダムに出てくるモ〇ルスーツみたいなのに乗って襲って来る」
「ガ○ダムwwwwwwww クソワロっすwwwwwwww」
「ヤベーだろ? 世界観グッチャグチャだろっ⁉」
自販機前で謎のテンションで爆笑するふたり。さすがになんだなんだ? と他の社員が覗きにきたのでふたりは声量を押さえる。
「ひぃーっ……ヤベーっすwww 笑い過ぎておなか痛いっす」
「笑っちゃうよな。プロトタイプ版発表の日はさすがに空気が凍ってたけど……いま振り返ったらもう笑い話にしかならねーよ」
話過ぎて疲れたのか、先輩社員は自販機で2本目の缶コーヒーを買って飲む。
「まあ、そんなわけでリリース版ではアグラニスってキャラを無かったことにして、魔王討伐までのシナリオにしたってわけさ。あの姫との駆け落ちエンドのイラストもプロトタイプ版ではまったく別の意味があったんだが……帝国って要素がまるまる無くなったからな。そのままただの駆け落ちってことになっちまった」
「なるほど……このゲームにそんな歴史があったとは。しかしリリース版も相当アレなシナリオに思えましたけど、よくプロデューサーからGOサインが出ましたね……?」
「……松谷ディレクターの親父がプロデューサーの会社の専務なんだよ」
「……あちゃあ」
新人は社会の闇が予想以上に深いことを知ったのか、それ以上はなにも突っ込んだ質問をしなかった。その代わり、
「いやぁ、でもなんでだろう……? なんか話を聞いてたら僕、無性にそのプロトタイプ版をプレイしたくなってきましたよ」
「え、マジで?」
「怖いもの見たさってヤツかもしれないです。でも……プロトタイプ版は修正されてリリース版になっちゃったから、もうどこにも無いんですよね?」
「いや? あるよ?」
「えっ? あるんすかっ?」
「ああ。たぶん、まだ上のフロアの【検証サーバー】に残ってたと思うぞ? ウチの社内からならアクセスできるし。業務時間外にやるなら誰も何も言わねーだろ」
「マジすかっ! やったぜっ!」
「──せ、先輩っ! た、大変ですぅっ!」
新人がガッツポーズを決めているその休憩スペースに、急に駆け込んできたのは若手社員であり、その先輩社員の部下の1人だった。
「ん? どうした? なんか障害でも出た?」
「違うんです……【林田くん】が、消えたんですっ!」
「はっ? 消えた? 消えたってどういうこと?」
「こう……なんか突然、林田くんが座っている検証サーバーの席あたりがボワッと紫色に光ったかと思うと、ヒュンって! ヒュンって一瞬で消えたんですよっ!」
「はぁ……?」
先輩社員は何がなんやらといった様子で首を傾げるばかり。若手社員の方は自分の説明が正しく伝わらないことに、なぜか非常に焦っているようだった。次第にまくし立てるようになっていく説明に、先輩社員は「ちょっと、いったん落ち着こうか」と諭す。
「……あの、そもそも林田くん? って誰なんすか?」
「あれ? お前は会ったことなかったっけ?」
「ないっすね」
その新人の問いに、先輩社員は若手社員を落ち着かせるために無理やり休憩スペースのソファへと座らせ、水を買って渡してから、天井を指さした。
「いっつも上のフロアにいる子だよ。検証サーバーとか、ソシャゲサーバーとか置いてる部屋あるだろ?」
「ああ、僕行ったことないですね。そういえば」
「じゃあ会わないわな。林田くんはアルバイトの子でさ、ゲームのデバッガー……つまりはゲームが正常に動くかのテストをやってもらってるんだよ。去年の、それこそ【ちょっと魔王シバいてきてやんよ】のプロトタイプ版のテストから働いてくれてる子だから、今の新人よりも断然先輩ではあるな」
「マジすかっ! じゃあ俺あいさつに行かないと!」
新人がそんな風におどけていると、
「だーかーらーっ!」
と、水を飲んで少し落ち着いていた若手社員が再び立ち上がる。
「その林田くんが消えちゃったんだってばっ!」
「ホレ、落ち着け落ち着け」
先輩が「どおどお」と諭すと、若手社員は再び座るが……その場で頭を抱え始めた。
「俺だって意味分かんないですよ……でもホントに消えたんだ、一瞬で……ヒュンって……まるでどこかにテレポートでもするみたいにさ……」
「分かった分かった……それで、上のフロアの他の人はどうしたんだ?」
「いや、さっきまで俺と林田くんの2人きりだったんで……」
「つまり目撃者は他にいない、と」
「はい……」
先輩社員は何か考えるように「う~~~ん」と天井を見上げ、
「疲れてるんじゃねーの? 今日は早く帰ったら?」
と、若手社員にそう告げた。
「そんなっ! 信じてくれないんですかっ⁉」
「いや、そんなこと言われてもな……見間違いだろ? そのうち帰ってくるって」
「あんまりだーっ!」
若手社員はそう叫ぶと、休憩スペースから駆け出していく。
「……なんだったんすかね?」
「……さあな?」
先輩社員と新人はふたりして首を傾げた。その後、若手社員のその言葉は『働きすぎによる疲労が見せた』幻覚として片付けられてしまうことになるが、しかし。
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