王城モブ衛兵に転生したので姫をさらおうとする魔王軍を撃退したら勇者のハーレム要員から次々に惚れられた件。あ、姫は俺が守ってるんで俺様系自己中勇者さんはどうぞ勝手に魔王退治の旅へ

第50話 一方のニーニャは～VS ガドゥマガン～

　衛兵とモンスターたちの戦闘音が響き渡る中庭。その中で、ひときわ大きな火花が散る。二度、三度。三邪天ガドゥマガンの巨体から繰り出される鋭く強力なツメでの攻撃を、小柄な少女──ニーニャは左手に持つクナイで、ギリギリのところでさばいていた。

「しつこいぞ小娘ッ！」

「アンタこそっ、いい加減にグスタフは諦めなさいッ、よッ！」

　ニーニャが地面へと手を当てるとスキルが発動した。『しびれ罠＋』、それがガドゥマガンの足元に現れて、その強烈な電撃を巨体へと流した。

「グ、ガァッ⁉」

「スキありよッ！」

　ニーニャはさらにスキル『クリティカルバッファー』、『身体能力向上+』を自身へと重ねてステータスを上げると、

「喰らいなさいッ！」

　自身の最大攻撃スキル『八影連弾（はちえいれんだん）』を繰り出した。目にも止まらぬ速さのニーニャによる8連続攻撃がガドゥマガンを再び大きく後ろへと吹き飛ばす。が、しかし。

　──ガリガリガリッ！　ガドゥマガンは中庭にその鋭いツメを立てて勢いを殺すと、すぐさま体勢を立て直した。

「この程度の攻撃でッ！　三邪天最強を崩せると思うなよォッ！」

　強く竜の翼を羽ばたかせると、ガドゥマガンが全速力でニーニャへと迫る。

「くっ……！」

　とっさに、スキル『変わり身』。近くにあったガレキに自分の姿を投影し、そして『気配遮断+』で自分自身の姿を隠すコンビネーションを使うニーニャ。

「ハッ！　ニオうぜ……！　仕掛けのニオイがプンプンとなぁッ！　1度見せた技が2度通用すると思うなよ、小娘ッ！」

　だが、ガドゥマガンはスピードそのままに直角へと折れて、身代わりではなくニーニャ本体へ迷うことなく突っ込んでくる。

「なっ⁉」

「『竜虎爪拳（りゅうこそうけん）・斬鉄爆衝波（ざんてつばくしょうは）』」

「ぐぅっ……⁉」

　横へと飛んでギリギリのところで直撃を避けるも、しかし、鉄をも切り裂く衝撃波がニーニャを襲う。鮮血が舞い、その体が大きく地面に転がった。

「くっ……」

　ニーニャは腕に力を込めて立ち上がろうとするが、しかし体が言うことを効かない。血を失い過ぎたか、あるいはダメージがピークに達したか……おそらくそのどちらもだった。

「はぁっ、はぁっ……お前は、よくやった方だ。だがあと一歩、オレには届かねェ」

「るっさい……まだ、アタシは負けてなんかッ……」

「虚勢を張るのはやめておけ。もう体も動かないだろォが」

「フンっ、でもそれはアンタも同じはずよ……。強がってるみたいだけどね……」

「……なんのことだ」

「グスタフからあれだけ攻撃を受けて、しかもアタシのあの攻撃を受けてダメージが無いわけがないわ……アンタもそろそろ限界が近いんじゃないの……？」

「……だがお前よりは動けるさ、小娘」

　ガドゥマガンはゆっくりと歩いてニーニャのすぐ側までやってくると、その大きな手を振り上げた。

「これで楽にしてやる。ひと足先にあの世で待ってると良い。そのうち大勢の人間どもがそっちに逝くはずだ」

「ヤなこった」

　ニーニャはベーっと舌を出すと、

「先にあの世に逝くのはアンタの方よ」

　そう言ってニヤリと口の端を吊り上げた。

「『グラン・ヒール』ッ！」

　唐突に聞こえる呪文。そして直後、ニーニャの体が緑の光に包まれた。

「──んなッ⁉　まさか、お前ェッ‼」

　ガドゥマガンは勢いよくその爪をニーニャへと振り下ろしたが、ガキン！　その攻撃はニーニャの両手のクナイによって受け止められる。

「ふぅ、体力全快よッと！」

　身軽に立ち上がったニーニャによる後ろ回し蹴りがガドゥマガンの顔面を打ち抜く。

「まだまだッ！　『クリティカルバッファー』、『身体能力向上＋』、『筋力増強＋』！　そぉら、飛んでけぇぇぇえッ！」

「ゴボォッ⁉」

　地面を支えにして全体重を乗せたもろ手突きがガドゥマガンの中心をとらえ、その体を地上数メートルへと大きく吹き飛ばした。

「今よッ！　スペラッ！」

「──ええ、よくやってくれましたニーニャ」

　いつの間にか立ち上がっていたスペラが、これまたいつの間にか用意していた大きく光り輝く魔方陣の中心からガドゥマガンへと狙いをつけていた。ニーニャがバックステップで離れたことを確認すると、スペラはスゥと大きく息を吸い込んで、そして詠唱を放つ。

「『ギガ・フェルティス・フレアード』ッ！」

「ガッ、クソがァァァッ！」

　ジュウッ！　と音を立ててガドゥマガンを包み込んだ巨大な青い炎のカタマリ。それは溜めが必要な炎属性最大威力の魔術だった。離れた場所にいるスペラとニーニャでさえ思わず顔を覆うほどの熱が辺りを支配し、そして肉の焼ける焦げ臭いニオイがあたりに立ち込めるが……しかし。

「まだだァッ！　まだ負けてねェッ！」

　ボロボロに焼け焦げた竜の翼を羽ばたかせて、ガドゥマガンは地面へと墜落（ついらく）してくるように炎の攻撃から逃れ出た。

「ク、クソがァ……！　魔術師、テメェ、気絶してたはずじゃねェのかッ⁉」

「まあ少しばかりは意識が飛んでいましたとも」

「なんてタイミングで目を覚ましやがる……！」

「いいえ？　ニーニャがグスタフを先に行かせたときには、すでに目覚めていましたよ？」

「なんだとッ⁉」

「──アンタがそれに気づかないように体を張った甲斐（かい）があったわね」

　ザッ、と。満身創痍（まんしんそうい）なガドゥマガンの背後を取ってニーニャが言う。

「癪（しゃく）だけど、アンタが言ってた通り、アタシたちじゃアンタに一歩及ばないってことは分かってたわ」

「ですが、だったら不意を突けばいいことです。ニーニャが命がけであなたへとダメージを与えつつ、時間を稼ぐ。その間に私が溜めの必要な強力な攻撃呪文の準備をしつつ、タイミングを見てニーニャを回復させる」

「そして最後にアタシとスペラの2人がかりで一気に畳みかければ……そうすれば絶対に、勝てる」

「ク、クソ……」

　ガドゥマガンは悔しそうに表情を歪めた。

「いつの間に……いつの間にそんな策を巡らせてやがった……⁉」

「策？」

　ニーニャとスペラは顔を見合わせると……不敵に微笑んだ。

「そんなもの、最初っから用意して無いわよ？」

「ですね。ただひとつ、『グスタフさんを1秒でも早く姫殿下の元へ』。それだけが私たちのゴールだということは分かっていました」

「だったら、やるべきことは自ずと分かるでしょ？」

「カ、カッカッカ……そうかよ……！　チームワークか……なるほど、そういや人間はそうやって生きてきた種族だったなァ……！」

　ガドゥマガンはヨロヨロと立ち上がり、

「だがッ！　一杯喰わされたからといって、そこで負けを認めてやるわけにはいかねェなァ！」

　最後の力を振り絞ってスペラへと飛びかかった。

「『セイント・シールド』」

　ガキンッ！　その攻撃は通らない。

「『ギガ・フレア』！」

　続けざまのスペラの魔術に、ガドゥマガンの体は大きくのけ反った。

「終わりよ……『八影連弾』ッ！」

　その隙を逃さず、ニーニャは再びその攻撃を仕掛ける。8つの影が一瞬のうちに8つの攻撃をガドゥマガンの一点へと叩き込み……その巨体はとうとう仰向けに倒れた。

　──『レベルアップ。ニーニャLv41→Lv43』

　──『レベルアップ。スペラLv43→Lv44』

「なんとか、倒したわね……！」

「ええ、やりましたねニーニャ」

　ニーニャとスペラは2人、手を合わせた。

「さて、それでは私たちもグスタフを追いますか？」

「そうね……でもその前に、あのクソ勇者を保護しておかないとだわ。忌々しいことにアイツがいないと魔王にトドメを刺せないらしいじゃない」

　2人はそれから中庭を見渡したが、しかし、勇者の姿を見つけることはできない。

「もしかしたら、すでに城の中へと避難しているのでは……？」

「ったく！　ホントに余計な手間ばっかりかけさせるわねあのクソ勇者はっ！」

　2人は激戦の中庭から城の中へと走っていった。