第5話 死にイベント~計画変更~
「せいっ!」
〔グギャアアッ⁉〕
襲い掛かってきた3体のガーゴイルの、最後の1体を倒す。
──『レベルアップ。Lv19→20』
「はぁっ、はぁっ、いってぇな」
肩で息をしつつ、額から流れてきた血をぬぐう。よし、とりあえず倒しきった。Lv14が2体と、最後の1体がLv17くらいで強かった。さすがにキツい。こっちの負った傷もそれなりに深いようで、ガーゴイルの爪で引き裂かれた背中に血が伝うのが分かった。
「でも、これでもう後は気絶したフリをするだけ……」
「きゃぁぁぁあっ!」
悲痛なレイア姫の叫びに、俺は思わずその方向を向いてしまう。
「姫と、王……」
視線の先にいたのは、ガーゴイルに肩を掴まれて空中へと連れ去られそうになっている姫と、必死になってその腰に抱き着いて連れて行かせまいとする王の姿だった。彼らを守っていたはずの衛兵たちはすでに血まみれで床に倒れ伏している。
「やめろっ、やめろっ! レイアを放せモンスター!」
〔ギャギャギャッ! 王よ、テメェは殺すなと魔王様から言われているが、邪魔するならそれ以外のことはさせてもらうぜっ〕
「なにをっ! 娘のことは死んでも離すものかっ!」
ギラリ、とガーゴイルの鋭いかぎ爪が王に向く。
「お父様、おやめくださいっ。危険です、どうか私を放してっ」
「むぅ……! 放すものか!」
〔腕を切り落とすぞ、王よッ! ギャギャギャッ!〕
ガーゴイルがかぎ爪を振りかぶった。それを見て、ズキンと俺の胸が痛む。
……俺はこのまま気絶したフリをして、王が姫を守る姿を見て見ぬフリをして、大勢が死んでいく中をひとりやり過ごして、本当にそれでいいのか? 俺はそれで平穏な日々を手に入れられるのだろうか……。一生、この胸の痛みを抱え続けながら……?
──無理だ。きっと。
「フンッ!」
俺はスキル『とうてき』を使った。ビュンと槍が風を切るように一直線に飛び、そしていままさに王を傷つけようとしていたガーゴイルの体を貫いた。
〔グギャッ⁉〕
ガーゴイルはしかし、まだ死んではいない。俺は近くに倒れていた衛兵の槍を借りると駆け出した。
「せぇぇぇいッ!」
俺はダメ押しとばかりにそのガーゴイルにトドメの『しっぷう突き』を喰らわせる。それでようやく息の根を止めることができた。
「……
「お、お主は衛兵かっ、助かった!」
「危ないところを助けていただきありがとうございます、衛兵様っ」
王と姫から礼を言われる。……一度は見捨てようとした身だからか、ちょっと心が痛むな。
「強き衛兵よ、お主の名前はなんという?」
「グスタフです」
「そうか、グスタフ。これからワシはお主に……酷な頼みをする」
「……はい」
「グスタフ、レイアを守ってほしい。お主の、その命に代えても」
……やっぱり、そうなるよなぁ。
我ながらバカだと思う。だって、こうなるってことは分かり切っていたじゃないか。王城の衛兵の使命とはすなわち危険を顧みずに王族を守ることなのだから。魔王軍が襲来しているこんな状況下で王や姫の前に出ていったら、この命が尽きるまで彼らを守らざるを得ない。
「グスタフ、頼まれてはくれんか……? ワシはどうなってもよい、ただレイアだけは、ワシとお主の命に代えても、どうか!」
「……分かりました。ですが、命には代えません。俺は生きたい。だから生きて、そして必ずレイア姫を守り抜きますっ!」
「っ!」
王と姫が息を飲むのが分かった。
ちょっとはかっこつけられたかな? まあ、これが正真正銘の最期の言葉になるのかもしれないんだから、少しくらいはいいよな。生きてたら黒歴史になるかもだけど。
〔ギャギャギャッ! いたぞっ、王と姫だッ!〕
〔さらえさらえッ!〕
〔衛兵が1匹生き残ってるぞッ!〕
〔殺せ殺せッ!〕
広間を飛び回っていたガーゴイルたちが一気にこちらに向かってくる。10? 11、12……いや、13体か。
「フッ!」
スキル『みだれ突き』で先頭の5体を地面に落とす。
「陛下! 姫! ふたりは俺の後ろでしゃがんでいてくださいっ!」
「う、うむっ!」
「はいっ……ご武運をっ!」
ご武運、か。あるといいな。地面に落とせなかった残りのガーゴイルたちの攻撃をまともに受けながら、そう思った。
「くッ!」
ブシュウ、と俺の体のあちこちから血が噴き出した。でも、そんなことで怯んではいられない。俺は攻撃を受けながらもスキル『溜め突き』の準備をしていたのだ。最後の1匹が攻撃し終わったあと、反撃の一撃をくれてやる。
〔グギャアッ⁉〕
〔ギョアッ⁉〕
槍はガーゴイルを2体同時に貫くと、その一撃で2体とも絶命させた。スキル『溜め突き』は攻撃に時間がかかるものの、その威力は他のスキルと比べ物にならないほど大きい。
──『レベルアップ。Lv20→21』
〔コイツ、やるぞっ!〕
〔ギャギャギャッ! おもしれぇッ!〕
ガーゴイルたちは仲間がやられたにも関わらず、余裕の表情を崩さない。まるで遊び感覚のように俺の周りを飛び回っている。
……ナメやがって。でも、好都合だ。
「どうしたよ、ガーゴイルども……ぜんぜんかかって来ないじゃんよ。今のでビビったか?」
〔ギャッギャッギャッ! 全身血まみれの姿でよく吠えやがるっ!〕
〔囲めっ! 全員で一気にやっちまうぞ!〕
……そうだ、全員でかかってこい。様子見しようとするな。お前たちが優位と思って数に物を言わせて突っ込んでくるというのが俺に見える唯一の勝機なのだから。どんな猛攻だって耐え切ってみせる。俺は何が何でも絶対に生き延びて、この世界で充実ライフを送ってやるんだからな!
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