第199話 1年目「試験結果」

 翌日。

 試験結果が張り出された、残酷な現実を突きつけられる。

 私は1位だ、100点満点のはずなのに120点になってる、何でだろう?

 あと、ステラちゃんが3位、ナルちゃんも5位に入っている、ナルちゃんは中等教育の問題と最後の問題に引っかかったんだろうな。

 なお、2位にはあの、態度の悪かった男の子が入ってる。 私を見てイライラしているけど90点だ最後の問題を解けなかったのかな。

 そして30……今は27人か、の生徒のうち7人が一桁の点数だ、明らかに落ち込んで席に戻っていく。


「さて、みんな自分の順位と点数を確認したかな?

 明日からは中等教育の授業を始めるよ。

 今回の試験が悪かった子は初等教育の復習をしながら中等教育の授業に付いてくるように頑張ってね」


 セン先生は優しく言っているが、個人授業の依頼をしないと追いつくことは難しいと思う。

 そして、そういう子達は自分の実力を把握していないのかお金を使い切ってしまって、それをしてこなかった。

 中等教育が始まると、ほとんどの生徒はその勉強で忙しくなる。 友人・知人同士で教え合う余裕は無いだろう。

 上級生も授業が始まって、個人授業の依頼が減っているし価格も上がっている。


「勉強の方法やこれからについては、今日から職員が相談に乗るから気軽に利用するように。

 今日は、返却する解答用紙を元に何が悪かったのか、振り返るように。

 それと、上位の5人は別室に移動してください。

 では、今日はここまでです」


 今日は試験結果の発表だけだった。

 そして、遠回しに職員との相談で進退を決めることになるのかな。

 私は私で職員と相談したいことがある、けど、呼び出されている、何だろう。



■■■■



 20名程度が入る教室に集められる、私たち5名。

 席はバラバラに座っているけど、私の両脇にはナルちゃんとステラちゃんが居る。


「さて、集まって貰った君たちは追加で中等教育の試験を受けて貰うよ、ここに居る子は中等教育も大丈夫なのかの確認だね」


「セン先生! その前に1位のマイってやつなで120点なんだよ、100点満点じゃ無かったのか?」


 セン先生は、相変わらず優しそうな顔をしている。


「それは最後の問題を正しく指摘したからですよ」


「それは一体どういうことでしょうか? 何度も解いても解けなかったのに」


 ステラちゃんが指摘する、私以外の全員が頷く。


「最後の問題は、問題に一部間違いを入れてあります、正解は”解くことが出来ない”です。

 そして、マイさんはその間違いの場所を指摘し回答不能であること、更に正しい問題に修正した場合の回答も記載していました、満点を超える答えですね。

 納得して貰えたかな?」


 あ、またあの男子が睨んでいる。

 他の子は、おーっと言う感じかな?

 しかし、あの問題はかなり意地悪な問題だった。

 問題文自体は初等教育の範囲だけど、教科書に書かれている解き方しか知らないと詰まる、そこで解けないと判断するのは難しい、そして間違いの部分を正しくすると、中等教育での解き方を知らないと解けないというものだ。


「そんなのズルいよ」


 男子が愚痴を述べるが、意図して間違いを入れたのなら、それは正しい問題だ。

 ステラちゃんが凄いと言ってたけど、偶然気が付いただけですと本当のことを言って置いた。


『問題の答えは1つじゃない、解決方法は幾つもある、そして問題自体が間違いの可能性も捨ててはいけない』


 これは、元上司の言葉だ。

 これを聞いたのは、確か雨の中で突然の遭遇戦になってしまった時、相手が友軍で同士討をしかねない状況だったの回避したときの言葉だ。

 試験の問題も、その問題が必ず正しい問題であるという先入観を捨てることが出来たから気がつけた。

 上官に感謝。


「さて、試験用紙を配るよ、あと、席の間隔を開けて貰えるかな?

 筆記具も出して置いてね」


 セン先生の指示で席の位置を調整して、職員が試験問題を配る。


「試験時間はそうだね、昼の鐘までとしよう、解き終わったら解答用紙を私に渡して退室して良いよ。

 では、始め」


 内容を見ると、中等教育の範囲全部のようだ。

 解いていく、特に問題は無い、何度も復習している所だ、あとは凡ミスを無くすために注意すること。


 解き終わって、更に見直しを2回して大丈夫なことを確認する。

 まだ誰も席を立っていない。


 私が席を立つと、視線が集中した。


「マイさん、もう良いですか?」


「はい、あと職員さんに聞きたいこともあったので」


「解答用紙は、はい大丈夫でしょう、ご苦労様です」


 セン先生は私の解答用紙を見て、ホウと息を吐いた。

 私が職員への相談をしたいというのは、昼の鐘が鳴っても居る場所をナルちゃんとステラちゃんに知らせる意味もある。


「くそっ」


 例の男の子が悔しがる。

 気にしていても仕方が無いので、そのまま教室を出る。



 教師棟に行って、職員へ相談したいとのことを伝えると、身分証を確認して直ぐに案内してくれた。

 幾つか机が並んでいて、衝立ついたてで仕切られている。

 しばらくして、困惑した顔の職員さんがやってくる。

 向かい合って座る。


「こんにちは、相談したいという事があるとのことですが、成績は最優になっています、中等教育の試験を受けていたのでは?」


「あ、終わったので退室してきました」


「あの、辞めたいとかそういう話でしょうか?」


「いえ、私は村の魔術師様に魔法学校の事を教えて頂いたんですが、2年前に教育方針が大きく変わったと聞きまして、変更点を教えていただけないかと、相談に来たんです」


 職員さんが、あからさまにホッとしている。


「そうですね、大きく2つあります。

 1つ目は、マイさんには関係ないですが、魔力量が特に多い生徒や魔法を使うのが上手い生徒に対しては在籍猶予が用意されています。

 優秀な魔法使いや魔術師になれる可能性がある生徒を拾い上げる意味があるのですが、授業自体は普通に行われるので、3組の生徒に対してはあんまり機能していません。

 初等教育が終わっていることを入学条件にして貰いたいのですけどね、失礼。

 2つ目は、魔法が使えるようになった時点での実習授業の追加ですね。

 魔術師になれなくても実践で使える魔法使いを多く排出しようという試みです。

 実際、実践に使えそうな時点で領軍へ引き抜かれる事もあります。

 他は、初等教育・中等教育と基礎魔法の知識の授業に魔術師ではなく一般の教師が何名か入っているとか、直接関係しそうなのは無いですね」


 うーん、戦闘系魔法使いや魔術師の人手不足は深刻のようだ。


「あと、私の得意とする魔法を知りたいのですが、何時になりますか?」


 これも、前の魔法学校では、基礎魔法の知識を習得してから鑑定していた。


「はい、あ、これは5年ほど前に変わった所だったかな?

 魔法が使える事が判った生徒は順次鑑定して貰っていますよ、今は1組が行われて、終わったら2組で魔法が使えるようになった生徒の鑑定を行う予定です。

 3組は、申し訳ありません、魔術師になれる生徒は少ないので、魔法が使えても初等教育・中等教育が習得できてからになります。

 で、ですね、マイさんを含む追加試験を受けている生徒で魔法が使える子は1組の生徒が終わり次第鑑定を受けられる予定です」


「その5人は、毎回上位5人ですか?」


「いえ、点数です、それと中等教育の問題がどの程度解けているかも加味されていますね。

 今回は、上位だけだっただけです」


 そうか、どちらか言えば私に有利な方向に変わってる可能性が高いな。


「最後です、私が魔法の練習をする場所はありますか?」


「えっと、場所が必要なほどの魔法ですよね、となると今は無いです。

 魔法学校の練習場は基礎魔法の授業を受けて、先生の許可が出てからです。

 また、領都内では空き地で小規模な魔法は黙認されていますが、魔法学校の生徒は問題が起きた時の事を考えて実質禁止ですね。

 ただし、領都の外ならば自己責任ですが使用できます。 ただ、お勧めできません」


「そうですか、仕方ないですね」


 森への移動にも時間が掛かる、馬車を使わないとならないけど、そうなると有料になる、森や平原での依頼を受けないといけない。

 現状は難しいな。


 カーン、カーン。


 あ、昼の鐘が鳴った。


「相談、ありがとうございます」


「こちらこそ、期待していますよ、マイさん」


 ニコリと笑って職員さんが戻っている。

 私は少し席に座っている、他の席からは泣き声や、混乱した話し声が聞こえてくる。

 うん、出よう。



 相談室? 打ち合わせ室? を出た所で、ナルちゃんとステラちゃん達と合流できた。

 そのまま、食堂に向かう。


「マイは兎も角、ステラはどうだった? 私は何とか埋めたけど半分解けていれば良いかなぁ」


「はい、私も一応全部解きましたが、やはり何問かは自信がありません」


「私は兎も角なんですか?」


「だって、中等教育の教科書よりわかりやすいノートを書いている人が解けないはずないじゃない」


 ナルちゃんが少しふて腐れて、前屈みになって私を見上げる。

 うん、あざとい。


「所で、何を職員さんに聞いていたの? 辞める訳がないし」


「2年前から変更になった教育方針の確認ですね。

 あと、魔法の練習を出来る場所を探していました」


「魔法を使える場所?

 あ、そうかマイは水の魔法を使っていたもんね」


「残念ながら無かったですが」


 ステラちゃんが少し考えてる。

 何か心当たりがあるのかな?


「私の父が勤めている商店の馬車が定期的に近くの町へ1泊で行く用があるのでそれに相乗りすれば安く移動できます。

 何度か利用させて貰っていますが、領都の外なら自由に練習できると思います。

 検討できないでしょうか?」


 うん、難しい。

 可能なら、時空魔術の私だけの魔術の訓練をしたいし、いろいろな検証もしたい。

 個人で出たいのでその申し出は難しい。






「ありがとう、休日を使える様になったら検討してみますね」

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