第198話 1年目「チーム」

 いけない、取り乱した。

 冷静にならないと、ここは戦場……じゃないし、危険でもない。

 あれ? 冷静になる必要あるのかな。

 ああぁ、だめだ混乱が収まらない。

 深呼吸だ、とにかく落ち着かないと。


 すーはーすーはー。


 何度か深く息をして、なんとか落ち着いてきた。

 不味いな、冷静になりたいときになれないのは。


「落ち着きました?」


「まだ顔赤いよ、お茶飲んで落ち着いて」


 ナルちゃんとステラちゃんが心配してくれているけど、追い打ちに近い。

 何とかお茶を飲む。 苦みがやや強めのお茶だ。

 うん、大丈夫、うん。


「慣れない所では緊張するものですね」


 何とか落ち着いた。

 2人は私を見て微笑み合っている。 うん、ちょっと恥ずかしい。

 ショートケーキを食べてみる、添えてあるフォークで食べるのかな?

 ステラちゃんの食べ方を見ると、先端の方から一口分切って食べるようだ。

 フォークを入れる、柔らかい。 パンじゃ無いのか、弾力を感じるけどそのまま小皿にフォークが当たる。

 予想外柔らかかったので、カチンと音が出てしまった。

 一口、口に入れる。

 柔らかい、そして甘いすんごい甘い、始めて食べた甘さだ。

 驚いた、こんなに甘いのは、蜂蜜をなめたとき以来だね。

 お茶を飲む、うん、この甘さに合わせるために少し苦みが強めにしてあるのか。


 あ、また2人が私を見て微笑んでいる。

 うー、今度は動揺しないぞ。


「こんなに甘いのは初めてです、なんでこんなに甘いのでしょう?」


「この白いのは、牛乳にゼラチンと砂糖を入れて泡立てた物らしいわ。

 スポンジ、この柔らかいパンの所も、卵と牛乳と砂糖を入れて焼いた柔らかいパンみたいなのね」


 砂糖。 かなり高価だ庶民は普通は購入しない。

 宿屋タナヤでも、依頼されない限り砂糖を使う料理は作っていなかった。

 とはいえ、お店に行けば胡椒などの香辛料と同じように買うことが出来る。

 メニュー表を見ると、お茶に入れる砂糖が1サジ単位で提供されている。

 ここ、庶民向けといってもそれなりに裕福な人向けだよね。

 ケーキの感想を言いながら、食事を進める、お高いスイーツなのでゆっくり味を楽しみながら。


 で、気が付いた。 ステラちゃんがこちらを時々伺うように見ている。

 冷静になってきた事で気が付いた、なんでステラちゃんは私を誘ったのだろう。

 学生向けの安い飲食店は、寄宿舎の近くにもある。 それをあえて商業区域の特別なお店まで連れてきた。

 何か目的があっての事かな?

 ナルちゃんが付いてくることも拒否しなかった、うん?

 やはり勉強についてだろうか。

 私のステラちゃんへの視線に気が付いたのだろうか、ステラちゃんは持っていたカップを置いて、目を閉じて一呼吸する。

 そして、まっすぐ私を見て話し始めた。


「マイさん、今回はお願いがあって お誘いしました。

 ナルさんも同じです。

 お2人とも中等教育まで習得されていますよね」


 ほぼ確信を持って言っている。

 自習中に勉強している内容は中等教育から基礎魔法の知識に関する物だ、横で見る機会は多かったはず。 ではナルちゃんは?


「マイさんが、自習中にすでに1年の範囲を超えた部分を勉強されているのは気が付いていました。

 ナルさんも、マイさんにノートをお借りして勉強されていましたし、試験後の様子から初等教育は既に終わらせている物と思います」


 私とナルちゃんが顔を合わせる、隠すようなことでは無いので別に構わないが、風潮されるのも困る。


「ええ、確かにそうですが、あまり触れ回らないでください」


「はい、ですから生徒が来ないここへお誘いしました。

 あ、私がお誘いしたので、お金は私が支払います」


 うん、かなり大盤振る舞いだ、3食分のお金となれば子供には大金だ、領から支給される手当を考えても安い物ではない。

 少し警戒を強めよう、内容によっては断る必要がある、断り難くされてもこまる。


「いえ、お誘いに乗ったのは私です、自分の分は自分で支払いますよ」


「うん、私も大丈夫」


 ナルちゃんも警戒しているのかな? 商人特有の品定めする目をしている。


「あう、そのそんなに心配しないでください、無理なら断っていただいても構いませんし、まずは話だけでも聞いていただければうれしいです」


 ステラちゃんが肩をすぼめる、うん、そういえばどちらかと言えば臆病な性格だった。


「お願いというのはですね、私とチームを組んで欲しいというものです」


 チーム?

 確かに魔法学校ではある程度進むとチーム単位での授業も出てくる。

 でも、それはまだ先の話で今必要とは思えない、何でだろう。


「なるほどね、ステラも中等教育を済ませている、そして、飛び組も狙っているのね。

 だから、今のうちに信用できて能力のある人とチームを組んでおきたいと」


 ん? ナルちゃんは理解したようだ。

 でも、私の記憶ではチームを組むのは少なくても、初等教育・中等教育と魔法が使え、基礎魔法の知識の習得が出来てからのはず。

 つまり、1組の生徒でも2年目の後半からになるのが普通だったはず。


「マイさんは知らないのかもしれないけど、個人の成績と能力次第で、本来2年目以降に受ける授業を受けれるようになれるんだよ」


「それでも、基礎魔法の知識の習得後のはずで、習得には1年は掛かると思っています。

 今から考えることでしょうか?」


「マイさん2年前から魔法が使える生徒がチームを組んで実践授業を受けるようになったと聞いています。

 恐らくマイさんが聞いていたのは、それ以前の授業の進め方ではないでしょうか?」


 うん、確かに私の知っている魔法学校は何年も前になる。

 眠っていた2年と冒険者の1年そして辺境師団にいた5年だから、8年前か。

 それに魔物の氾濫で魔法使い、魔術師もかなり減っている、人員を増やす方向で方針が変わったのかな。

 魔法が使える段階で実践授業が入るようになったのか。

 となると、他にも変わっている可能性は高いね、調べておこう。


 あれ? となると、魔法が使えるの? 2人とも。


「2人とも魔法が使えるのですか?」


「私は、ほんの少し風を起こすことが出来る程度ね」


「はい、ナルさんが風を起こして自分に当てているのを見ています。

 そして、私は光を灯すことが出来ます。

 マイさんは、基礎魔法の自習をしている所から使えると思いました」


「うん、マイちゃんは水魔法をかなり上手に使っていたわね」


 ナルちゃんは魔法が使えたのか、魔力量の測定で入学許可を得ている。

 確かに、微風程度では魔法学校への入学は許可が出るか難しい。

 ステラちゃんも光を灯す程度だと同じなので、魔力量の測定で入学許可が出たんだろうな。


 少し悩む。

 確かにいずれはチームを組む必要がある、その時に能力が近いだけで組むと苦労することになるので、この提案は悪くはない。

 2人の性格もこの3ヶ月で大体判っている。

 それに一度組んだら解散できないというわけではない。

 ただ、退けない所もある。


「私は魔術師、魔導師を本気で目指しています、つまり1年目のうちに自分の得意とする属性を鑑定して貰い、基礎魔法の知識と技術を習得します。

 そして、遅くても2年目の最初に基本魔法6属性の習得を開始するつもりでいます。

 その速度について行ける覚悟はありますか?

 ナルさんは、魔術師を本格的に目指しては居ないと聞いていますが、大丈夫ですか?」


 私の気迫に気圧されたのか、2人が喉を鳴らす。

 うん、正直言って、この予定はかなり無茶だ、でも魔導師を狙うのならそれくらいでないと、たぶんダメだ。


「私は、そこまで本気になれない、領都で伝を得るのが目的だったしね。

 だから、私は駄目かな。 でも、魔法をちゃんと使えるようにはなりたい」


「その、マイさんがそこまで本気だったとは知りませんでした。

 私も、魔術師はもしかしたら程度の感覚でした」


 うん、1年目から覚悟を決めているのは多分、私か1組と2組の中でも何人居るのか。

 多少の妥協は必要かな、高い目標を押しつけても意味が無い。。


「では、基礎魔法の習得までの間で良ければ、でどうでしょうか?

 基礎魔法に関しては、ある程度は教えることが出来ます」


「うん、それで十分すぎるよ」


「マイちゃんよろしく。

 当然だけど、基礎魔法の勉強は依頼させて貰うわ」


 2人は、ホッとした感じで提案を受け入れてくれた。

 とはいえ、これから習得する基礎魔法は、魔術師になる上で大きな壁だ。

 学ぶことは幅広い、魔法を技術として使用するために必要な、魔力の特性を、自然現象の振る舞いを、物質の特徴と効果を学ぶ必要があり、高等教育かそれ以上の知識が求められる。

 ここで魔法が使える生徒のうち魔法学校を半数以上が退学する。

 とはいえ、昔の魔法学校でも基礎魔法の習得にみんなで取り組んだものだ、ちょっと早いけど良いかな。






「では、よろしくお願いします。 ナルさん、ステラさん」

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