第165話 追憶「北のダンジョン」

 ダンジョンの発生。

 以前なら大騒ぎになっていたが、役場や冒険者ギルトで少しだけ問題になった程度だ。

 今は、魔物の氾濫の影響があって、ダンジョン程度では慌てる余裕が無い。

 対応は、視察団のチームに一任されることになった。


 直ぐにギム達は私の元に向かったが、到着した時には既に日が傾き始めていた。

 野営をしながら、情報の共有を行っている。


「うむ。 シーテ、今判っていることを話してくれ」


「ええ、まず発生は今日の午後、発生した時の魔力を感じたから間違いないわ。

 魔力の反応もダンジョンで間違いない。

 奥行きは判らない、少なくても300メートル以上はあるわ、中位種や上位種が何時生まれてもおかしくないと、考えられるわね」


「だとすると、直ぐにでも攻略してしまいたいですね。

 見た限り、直径3メートルの円筒状です、全員で入っても大丈夫でしょう。

 それに、中に入ってしまえば夜でも関係ありません」


 ブラウンが周囲の確認を済ませて、考えを言う。


「見たが、確かにダンジョンではあるのだが、微妙に違和感がある、多少慎重になった方が良いと思うが、どうか?」


 ジョムが、ダンジョンの様子を確認した結果を言う。

 違和感、という言葉に疑問を持つ。


「ジョム、違和感とは?

 これだけ大型のダンジョンは確かに我々でも初めて見ますが、形状としては特に変わりないダンジョンに見えますが」


「判らん、ただの感だな」


「うむ。 それでは決め手に欠けるな。

 少し休んだら突入するぞ」


「「「はっ」」」


 私を含めた視察団の皆は準備を整える。

 今回のダンジョンは奥行きが判らない、魔物が何処で発生して居るかもだ、慎重にかつ長い時間入っていないように迅速な行動が求められる。

 ダンジョンの中に居ると、何らかの影響を受けて、人が魔物のような生物に変質してしまうのだから。


「では、浄化魔法をかけます」


 ハリスが、聖属性魔法を行使して、全員に浄化魔法をかける。

 これで、ダンジョンからの影響は最小限になるはずだ。

 全員の体が淡く光る。


「では入るぞ」


 ギムの言葉で、何時もの隊列を組む。

 先頭は、探索技術を持つ大盾使いのジョムだ、光を放つ魔道具で道を照らす。

 次に斥候の技術を持つブラウン、武器は弓を装備している。

 中央に魔術師のシーテ、私だ。 光の球を自分の頭上と後方に浮かべる。

 そして、聖属性魔法使いのハリス。

 最後に殿を務めるのはリーダーのギム、大剣使いだが、今回は普通の剣と腰のショートソードを用意している。


 ダンジョンの中に入る。

 真っ先に異変に気が付いたのはハリスだ。


「あれ、おかしいです。

 ダンジョンからの影響を感じません」


「ええ、私も魔物やそれに近い雰囲気を感じ取れない」


 私も、探索魔術を行使して周囲を確認して、異変に気が付く。


「うむ。 悪い情報では無いが、今までのダンジョンとは異なる、より注意して進むぞ」


 返事は無い、狭いダンジョン内で声は反響して遠くまで響く、この会話も小さい声だが、それでも響いているのが判る。


 500メートルは進んだ所だろうか?

 地下に続く緩い斜面が現れた。

 こんな事は初めてだ。


「ハリス、ダンジョンからの影響は?」


「ありません、不思議なほどに何も」


「うむ。 進むぞ」


 岩の斜面を慎重に下る、高さで10メート程下ると、また洞窟が続いている幅は少し広いか、そして脇道がある。


「シーテ、探索魔術を頼む。 気配が無い」


「やっているわ、でも本当に何も無いわね」


 ブラウンからの要請に私は直ぐに探索したが、動く物が全く無い。

 慎重に脇道を見る。

 道では無かった、部屋だ。

 これも今までのダンジョンでは無かった現象だ。

 脇道と誤解したのは、入口が天井まで広がっていたからだ。


「部屋だ、出入り口はここだけのようだな、扉も何か仕掛けのような物も無い」


 ジョムが入口付近を調べて報告する。

 廃棄された都市の人工的なダンジョンでは、侵入者に対しての罠が設置されていることがある。

 これは、侵入防止の為や別の冒険者が奥のお宝を奪われないように設置したりする。

 しかし、自然発生するダンジョンでは罠のような物は普通無い、慎重を期しての判断だろう。


 部屋の奥には何かがある。

 私が新たしい光の球を飛ばして確認する。


「なに? 武器かなそれもボロボロの」


「上位種のオーガが持っていた武器もありますね」


 私とブラウンが不思議がる。

 自然発生するダンジョンで、何か物が見つかることがあるが、それは大抵はどうでも良い木の実や石とか動物の死体などだ。

 こんな物が見つかることは初めての経験だ。


「うむ。 回収は後回しだ、他の部屋も確認するぞ。

 シーテ、魔物の発生には警戒してくれ」


「判ってる、私達以外の動く物も、探索するわ」


 その後、全部で20部屋を確認したが、空の部屋やボロボロの防具が見つかっただけだった。


「ギム、この武器や防具、国の標準規格の量産品で出所は判りません。

 それにかなり使い込まれて、ほとんど寿命で使い物になりませんね」


 ジョムが幾つかの武器と防具を手に取る。

 どれもボロボロだ。


 そして、ダンジョンはここで行き止まりになっていた。


「ギム、ダンジョンコアの反応が無いわ。

 普通なら一番奥にあるはずなのに」


 私が、一番奥の壁付近を中心に探索魔術を行使する、ジョムも一緒に探すが、ダンジョンコアが有る様子は無い。


「そうか。 入って時間が経っている、今回はここまでで出るぞ」


 ギムが宣言し、ダンジョンから出る。

 途中、心配になった冒険者が入口付近にいて戦闘になりかけた位だった。


 ダンジョンから出ると、空が白み始めていた。


「うむ。 全員何も問題が出ていないな、ハリス、浄化魔法だ」


 全員の体調を確認すると、ハリスに浄化魔法を指示する。

 全員の体が淡く光る。


「本当に、影響を受けた感じがありません、何なんでしょうか?」


 ブラウンが不思議がる。


「魔物が発生して居ないというのもおかしいわね。

 この規模なら、ゴブリンやコボルドのような低位種は発生して居たっておかしくないのに」


 私は不思議に思う。

 10メートル程度の自然発生したダンジョンでも数日で低位種の魔物が生まれる。

 こんな事は初めてだった。



「うむ。 兎も角、ここで休憩とダンジョンを監視する。

 守衞にここの入口の監視を依頼しないとな」


 ギムは、このダンジョンは今は危険性が少ないと判断した。

 だが、自然発生したダンジョンだ、いつ魔物が生み出されるのか判らない当面は監視するしか無いだろう。




 私は、何か引っかかる物を感じた。


「あの武器はどこから来たのかな?」

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