The discussion begins like a trial.

「たっだいまーーー!」

「お帰りやがれ」


 備瀬君の元気な挨拶が返品される。

 まだ女性3人は戻ってきていなかった。天岸さん&風子信&羽衣治がこっちに手を振って出ていくのを見送り、


「……あれ?」


 視覚的な違和感。咄嗟に振り返って、すれ違ったメンバーを確かめる。

 巨人とセカンドチビと錆。合ってた。


「一緒に行かなかったんだ? 翁君」


 トリオだと思っていた内の1人に声をかけてみる。

 翁君はちょっと視線を泳がせてから「なんでもいいじゃないすか」と誤魔化した。それで深入りすることもできなくなる。


 備瀬君と喋ったり桂樹葉月を揶揄ったりして時間を過ごしていると女性陣が戻ってきた。ちょうど次の男達、公英鼓&翁君&蝋梅剛志が下へ向かうタイミングだ。

 その3人が帰ってくるまでも大した時間はかからない。


 全員が着席して、それから。



「……逃げらんないか……」



 石蕗艶葉の言葉が、全体に重くのしかかる。

 彼女はさっきよりもフワフワしている髪に触れた。気まずそうに髪の尻尾を撫でる。


 やがて。


 手を鳴らす音が2回。

 それはまるで、開廷の合図。


「皆」


 苦しそうに。それでも裁判官は毅然として起訴内容を繰り返した。


「雪下ちゃんが死亡したことについて、詳しい内容を理解していない人が多いと思う。それは多分、これから愉快じゃない状況を作り出す」


 口にはしない。けれど概ね読める。


 誰が犯人なのかという疑心暗鬼。

 は自分ではないのかという切迫感。

 結局、全員の武器が何なのかを知ることができていない恐怖。


「ボクはそれを望まない。皆で生きてここから出るために、出来る限りのことをしていたい」


 だから。

 力強く、自らを鼓舞するように。

 12時に座する不敗の女王は宣言した。



「大岩雪下が死亡した理由。

 ……原因を作った存在があるのか否か。


 話し合おう。全ての疑念が消えるまで」



 さて。そうは言われたものの、すぐに口を開く人間はいなかった。場の空気に圧倒されている者、興味のない者、思考を巡らせている者。様々な要因があるんだろう。


 問題は。


「……」


 不安げに何度も手を組み替える、石蕗艶葉。

 きっと。彼女はまだ、迷っている。


 自分の一存で誰かの立場を悪くすること。犯人を傷つけること、事実に傷つけられること。


 なら。


 真実を求めることでの人命救助を体験させておいてあげようか。


「そーゆーことなら、まずは俺からいい?」


Q.俺が意見をしたら100%つっかかってくるのはどこの白純のお嬢様でしょうか。


「自白ですか。黄百合のくせに、随分と遅かったですね」


A.問題文が答えだった。


 口を開いてもらったついでに根拠を述べてもらっておくか。

 俺の考えが通じたのか、石蕗艶葉が「陽太が犯人だと思う理由は?」と尋ねてくれた。


「黄百合が信用ならない一族であることと、当時その男が亡くなった子供と同じ場所にいたであろうことの2点です」


 1つ目は無視しておく。キリがないので。

 2つ目は充分に反論が可能だ。自分で発言しようと、頭の中で日本語を組み立てる。

 でも。


「それは違います」


 羽衣治が矛盾をぶち抜いた。


 歯向かわれたと感じたのか、真顔の多い白純百にしては驚いていたように見える。

 けれどそれも一瞬。すぐさま鉄仮面に戻って「違いません」と柔らかな声で告げた。


「まずは話を聞いてください」


 返事を待たず、テノールがゆっくりと言霊を並べていく。


「これは前提ですが。人が事件を起こす時は、計画を立てた人物の意志が必ず介入するものです。遺伝子の構造だけでは犯罪を犯せません。

 2つ目。同室にいるはずだったのは黄百合さんだけではありません。更に付け加えるならば、その2名も当時密室だったと思われる〖調理室〗の外側にいました」


 この手の議論では蚊帳の外であろう相方も、さすがに自分のことを言われていると気づいたらしい。


「……あたし、何か変なことした?」


 チアキリンは戸惑いを隠さずに羽衣治を見つめた。

 彼は首を横に振る。そのまま自分の中で情報を整理するように、空中に目を向けた。


「僕は黄百合さんの指示を受けて、当時チアキさんと合流しました。その際にドアが開かなかったことも確認しています。

 この2人は現場に入れなかったんです。だから、それらだけを動機に黄百合さんを疑うことはできません!」


 白純百は眉をひそめて黙った。年下の一般市民に論破されたこと、それが気に食わないんじゃないかな。


 なんか本当の裁判というか、それに近いゲームをリアルにした感じの雰囲気になってきた。

 そう思っていると桂樹葉月の「逆転する裁判みたいな感じになってきた……」という呟きが聞こえる。やっぱそうだよね。


◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 裁判のように議論が始まる。

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