This will solve the case.

「おわっ」


 視界にアメリカのヴィランみたいなピエロが飛び込んできた。

 ビックリして変な声が出たけど、道化はすぐさま引っ込む。それから並べられたのは黒い背景に対する白い文字の羅列。



『能力名:〖偽る〗


 1日1度1項目、発動時から次の役職再配布まで以下の表示画面を変更することが可能。


 〖役職〗〖投票〗〖能力(偽るを除く)〗』



 ……うん、つまりどういうこと?


 風子信に指摘されていた通り、〖マスター〗ってメチャクチャ説明が下手だな。理屈的になりすぎて感覚的理解が及ばない。

 まあ、やってみれば分かるか。そう結論づけて次の表示まで待ってみる。


 新たに出てきたホーム画面はさっきと違い、背景でピエロが笑っていた。地味に腹立つ面をしている。まあいいや。

 現れた項目は3つ。前述されていた〖役職〗と〖投票〗、〖能力〗だ。


 もしかして、という予想が浮かんだ。これであの調査が大幅に短縮できるかもしれない。


 俺は躊躇いなく〖能力〗に触れる。すると、11枚の手札が液晶舞台へ躍り出た。



『〖換える〗〖止める〗

 〖変える〗〖伝える〗〖訪ねる〗

 〖引きよせる〗〖巻きこむ〗〖起きる〗

 〖尋ねる〗〖使う〗〖眠る〗』



 「へえー」と間抜けな声が溢れる。1行目の妙な空白は気になるものの、これはそこそこ有利な〖能力〗を貰ったみたいだと気づいた。


 言葉から効果を推理しろってか。上等だ。

 喉に指を走らせて集中する。


 何分か考えて、1枚の手札をタップしてひっくり返した。

 それによって、誰に何を証言してもらうべきなのかを確信する。


 その瞬間。

 あまりにも唐突に、終わりはやってきた。


 バヂッと。

 閃光が頭の遠くで鳴る。

 ヤバイ、と気づいた時には手遅れで。


 景色はスウッと、黒に染まっていった。


――――――――――――――――――――


 そして始まりも突然だった。


 バヂッと。電流音と後ろ首からの痛覚で、強制的に目覚めさせられる。


「ったい!!」


 勢いよく全身で重力に逆らった。ドッドッドッ、脈が爆走しているのが分かる。


 何が起こった? 襲われた? いや違う、今は密室のはず。天岸さんが裏切った? いやいやこの時点で何かやるくらいなら協力とかしないでしょ。〖マスター〗からの干渉? だとしたら個人じゃなくて全体にも同じことが起きたかもしれない。


 何はともあれ合流を急ぐべきだ。

 今度こそタブレットとバインダーをしっかりと握って、部屋から出た。



「誰かいるー?」


 出来得る限り平静を装って呼びかける。それなりに急いだつもりだったけど、ほぼ同着と見られる人間が向かい側に2人いた。


「黄百合!? お前、怪我は無いか?」

「おお、黄百合さん。進捗はどうだ?」


 公英鼓と柊さん。全く異なる内容のバスバリトンとアルトが俺を出迎える。


「怪我は無いっぽい、進捗はまあまあ。そっちは? それぞれどう?」


 隣室らしい二人はお互いに顔を見合わせた。それから別々の事柄を同時に喋る。


「パッと見た感じだと何とも無さそうだな」

「こいつは聞き手として中々優秀だったぞ」


 これが桂樹葉月で言うところのすれ違い通信か。実際見てみると面白いなー。


「そのままお互いに喋っててよ。面白いから」

「俺らはエンタメか!!」

「え? 違うの?」

「んな訳あるか!!」


 公英鼓に怒られちゃった。

 そっちを放って、柊さんがこっちに歩み寄ってくる。それで俺も中央へ足を進めた。


「先ほど……否、約8時間30分前に起こった現象については後にしよう。あなたにはまだまだ知るべきことがあるんじゃないか?」


 彼女の台詞によって、タブレットの時刻を見るということを思いつく。

 指紋認証をパスして確かめれば『AM 6:02』という数字を認識できた。


「へえ? そんなことを言えるってことは、君は真実に近づいたって解釈していいのかな?」

「ああ。そちらと違って、慈愛の暴君からの証言という味方があるおかげでな」


 慈愛の暴君が指す人物は、予想できる。

 公英鼓は頭痛が痛そうな顔で近寄ってきた。苦々しい色で彼は日本語訳してくれる。


「チアキの話のことを言っているんだよな? 何だよその慈愛の暴君って、中二病か」

「そうか? 見てとれる印象をそのまま名付けたつもりだったが」

「…………少なくとも慈愛ってのは対象が限定されているだろ」

「そこで初手の言葉を弱くするのが貴様の悪い癖だな。フォローするには詰めが甘いぞ」

「うっせ」


 ポンポン飛び交う会話を眺めていた。やがて俺の存在を思い出した天才は微笑む。


「寂しいなら一声かけてくれよ。あるいは、何か聞きたいことでも?」


 分かっているくせに。意地悪な王子様に対して口角を上げた。


「圧倒的に絶望的。原点にして頂点、最序盤の殺人計画犯は、一体全体どれほど豪華な装飾品を身につけていたのかと思ってね」


 公英鼓が本格的に置いていかれている。キョロキョロと俺達の間で視線を彷徨わせていた。

 対して柊さんは、楽しげに笑って回答する。


「触って確かめたところ、は鉄製らしい。磁力に引き寄せられる金属の代表格だな」


 ……なるほど。台詞の中にあの動詞を混ぜたのは、彼女なりの補足でヒントだろう。



 誰が大岩雪下を殺害したのか。

 俺達の容疑はどうすれば晴れるのか。

 なぜ、羽衣治は事件を理解できたのか。


 ――推理に必要な要素は、出揃った。


◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 これで事件を解決できる。


◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 筆者の緋衣蒼です。


 今回の話をもちまして、推理要素の提示を完了とさせていただきます。


 次の話にて読者参加型ミステリギャンブル探偵部門・第1章編の受付を行います。そこで推理要素の整理も致しますので、よろしければご確認ください。


 皆様の推理力がどれほどのものなのか、誰がどれだけ賭けられるのか――疑われるのか。


 期待してお待ちしております。それでは。

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