She died.

「ん?」


 やり方を間違えたのか?

 そう思って、様々な回し方を試す。


 上。ガチッ。右。ガチッ。左。ガチッ。垂直。ガチッ。平行。ガチッ。斜め。ガチッ。押し。ガチッ。引き。ガチッ。捻り。ガチッ。ガチッ。ガチッ。ガチッ。ガチッ。ガチッ。ガッ


 その音が、変な感情を呼び起こす。


 異常に気づいたチアキリンがやってきた。

 彼女は俺を押し退けて、扉をノックする。


「セッカちゃん? そっちに入ってもいい?」


 優しい高音が、柔く虚しく反響した。

 返答はいつまで待っても訪れない。


「セッカ、ちゃん……?」


 不安げにソプラノが揺れる。

 その背中の情けなさを眺めている内に、一種の覚悟を決めた。


 踵を返し、喫煙所の仕切りを勢いよく開く。轟音が終わるのも待たずに螺旋階段へ足を踏み入れた。


 カンカンカンカンッと一気に昇り終える。蹴るようにして〖運動室〗へ押し入り、すぐさま右へ体を捻った。


 〖図書室〗へのドアに体をぶつけて開く。重く鈍い音は、室内の3人へ事態を伝えてくれただろうか。


「黄百合さん!? 何事ですか!?」

「分からない! 治君は下に行ってチアキさんのフォロー! 翁君は俺に借りられて!」

「えっ、え、え?」


 錆色の優等生と赤茶色のヘアピンが2人で会話しているところだった。割り込む形になったけど、気にしている余裕はない。


 視界を遮るほど高い本棚の隙間を確認していく。やがて、学ランの背中を見かけた列の左隣……〖図書室〗の左端にドアが見えた。


 すぐさまドアノブを捻る。案の定、ガチガチと音が鳴るだけ。


「どいて!!」


 バリトンの発声と同時に出口が蹴撃される。

 ――ドォォォン、と。今まで聞いたこともない、崩壊の音が轟いた。


 力ずくで開かれた扉を跳び越えて、再び階段を駆け降りる。

 ふと、足音が増えたのに気づいた。


「剛志君は〖PC室〗に行って、石蕗さん達を呼んできて!」

「っ、りょ、了解です」


 震え混じりの返答を聞き届ける暇も惜しい。並走していた翁君を先へ向かわせ、未知の入口を攻略してもらう。

 〖調理室〗の扉も開かなかったのか、確認する時間を省いたのか。それは後ろからじゃ分からなかったけど、また凄まじい衝撃が俺達を殴ってきた。



 息が止まる。


 現実にならなければいいと、思っていた。

 邪推であれば、それでいいと思っていた。

 こんな時、本当に俺自身の勘が恨めしい。

 昔から、ろくでもないことしか教えない。


 現状の理解を拒んでいる様子の翁君を置いて、俺は分かりきった結論を確かめにいく。


 ドアの右横でうつ伏せに倒れ込み、ピクリともしない、シアン色のチョーカー。

 変な角度に折れ曲がった首筋へ手を当てる。


 反応は何も返ってこない。


「は?」


 翁君の現実拒絶は、俺以外に聞こえない。




 大岩雪下は死んでいた。


◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 彼女は死んだ。


◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 筆者の緋衣蒼です。


 今回は少々短かったのですが、この話を持ちまして、読者参加型ミステリギャンブルの勝者部門及び死亡者部門の応募を打ち切らせていただきます。


 続きまして、ミステリギャンブル探偵部門・第1章編の開催を宣言致します。


 ……とは言いましても。推理をするためには、まだまだ材料が足りない状況ですね。

 そこで、1週間に1度の更新だった本作を、推理要素が出揃う話数まで毎日投稿させていただこうと思います。

 推理要素の提示が終了いたしましたら、その際にまた詳細をご連絡します。


 読んでいただいてありがとうございます。お時間ありましたら、この後の賭博ゲームへの参加をよろしくお願いいたします!

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