開幕
ようこそ
「ふう……」
賭博説明を終えて俺はため息を吐いた。
ギャンブル中毒のアホ共が。日本が日本だから金が無いってのは分かるけど、それにしたって客の質が低すぎる。
今回は特に熱を入れて企画した。デスゲームの在り方を思い出させる、そのために。
〖マスター〗の服から運営としての衣装にチェンジしていく。
上着を脱いでインバネスコートを羽織った。リストバンドと胸部のブローチ、トゥーリングとチョーカーを追加する。鹿撃ち帽を被る時はさすがにイヤーカフが鬱陶しかった。
太いベルトを締め、ネックウォーマーを着ける。縁の大きい黒の眼鏡をかけてから靴下を選んだ。最後に茶色の革靴を履いて、完了。
退室する直前に同僚へ手を振る。彼はツンデレ枠でもないのに、アタシにだけ冷たい。追い払うような動作をされた。
肩を竦めながらエレベーターに乗る。発注通りで狭かった。同乗は2人が限界という設定にしてあるはずだから、どんな組み合わせで来るか楽しみだな。
チーンという音と同時に、休憩室へ足を踏み入れる。そのまま喫煙スペース行きの襖を開けた。奥ではドアが顔を覗かせている。
力を込めると、扉は悲鳴を上げつつ階段へ導いた。
螺旋階段を駆け昇り、B3の運動室も素通りする。B2のPC室まで歩を進めた。
苛立ちを発散するために開け戸を蹴る。入室し、12台のパソコンの中で最も手近にあった物へ手を伸ばした。
しばらくそれを弄る。やがて、運営権限の監視閲覧モードへ入った。
画面の右下を見る。時刻はPM6:01。
……遅刻だ。ネットのバカ連中のせいで。
挑戦者エリアには小柄な少女が1人で映っていた。周囲を見回し、エレベーター前まで移動していく。ペタペタとその辺りを触り始めた。
こちらはこちらで放送機器の接続を開始する。途中でよく分からなくなったけれど、パソコン内のデータを探したら説明書があった。それに従って作業を進める。
「あー……テステス。
参加者の皆さん、こんばんは! 俺のことは〖マスター〗って呼んでよ!
今は大半の人が状況を分かってないよね? 現状や参加してもらうゲームのルールを説明したいから、ひとまずエレベーターを使って上まで来てくれないかな? 中央4階にある〖会議室〗で待ってるよ!
……分からない場合は赤髪を探しておけばなんとかなるから、安心してね」
そこまで言ってスイッチを切った。私もB1の会議室に向かう。
12脚のパイプ椅子と、それに対応する配置の机。最奥には巨大モニターが1台、左隣にはホワイトボード。ペンは赤と黒が1本ずつで青色が2本の計4本。
要求通りのシンプルな舞台を見て満足した。
ここだけの罠や仕掛けはない。あるのだとすれば参加者が仕組んだ場合だ。とはいっても、手段はそう多くしていなかったはず。
まあ、向こうが予想外の方法を用いてくれることなんかザラにあるけどね。
説明をホワイトボードに書き込みながら、参加者の到着を待ち続けた。
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