子供嫌いの俺がパパになる
四方川 かなめ
第1話
「臭い」
時刻は午後4時頃。
辺りには下校中の小学生の元気な声が響き、公園の遊具が
普通なら微笑ましい、そんな風景。
しかし────
今日も今日とて、俺はハンカチで鼻を覆っていた。
風に乗って漂ってくる臭気が鼻孔にツーンとしみて、深く呼吸をするものならば激しい吐き気を
全く…このクソッたれなアーツのせいで。
俺は誰にも聞こえない様な声量で悪態を着いた。
ーー僕が5歳か4歳のころ。
物心つき始めたその頃には、もう僕は
初めはこれが普通だと思って普通に暮らしていたのだが、何故かこのアーツは僕が年齢を重ねる度にその力を増していた。
そして僕の、6歳の誕生日、事件が起きた。
「誕生日おめでとう、レオン」
「ありがとう、ママ」
普通なら喜ぶべき、誕生日ケーキ。
あれはチーズケーキだった。
晩御飯を食べ終えて、母親がケーキの入ったハコを冷蔵庫から持ってきてテーブルに置く。
ハコはよく梱包されていて、およそ幸せな家族がサプライズでもするのかという程だ。
しかし。
今後一生の間、僕の黒歴史となる事件が起きたのは、その時だった。
「ゔぷっ…!おぇぇぇぇぇ…!!」
チーズの
バターの
俺はその匂いを嗅いで。
「ちょ…!大丈夫?!」
吐いてしまった。
「ご…ごめんなさい…」
「いいのよ〜掃除すればいいだけなんだから!それより大丈夫?!もう気持ち悪くない?!」
「うん、もう大丈夫。ありがとう」
母親にはこう言ってあるが、それは真っ赤な嘘だ。
本当は今にも吐きそうだし、あの箱を見るだけでも食道から酸っぱいものが上がってくる。
うぅっ…。
その後も何度か────家で、幼稚園で、学校で、吐き気を催す事があった。
それは体育の前の着替えの時間に漂ってくる汗の匂いだったり、トイレに行く時の尿の匂いだったり、給食の時の様々な食材の混ざった匂いだったり。
日常の様々な匂いが自分にだけ臭っているのかと思うほど鮮明に漂ってきて、またもや俺の胃をひっくり返した。
…ある日。
さすがに心配になった両親が、俺を病院に連れて行ってくれた。
そしてそこで、世界人口の約4分の1の確率で覚醒する
なんでもその能力は、普通の人間の約200倍の嗅覚を持つのだとか。
嬉しい?
逆だね。
だって分かってしまったから────このクソッたれアーツが、永遠に治らないと言う事が。
ーーそして現在、俺は23になった。
高校受験を抜けて、晴れて社会人。
親がこのクソッたれなアーツのせいで友達の少ない俺に気を使って連れて行ってくれたハワイや、こんな俺に告白してくれた憧れのあの人。
人生とは刺激的なものだ。
匂いの意味でも、様々な
その過程で分かった事を完結に────結論から言おう。
俺はこのクソッたれなアーツの次に、子供が嫌いだ。
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