第13話【開店初日2 大盛況】

 露店の場所は相変わらず人で賑わっていた。

 

 ここで声出しをするのは2回目だ。前回とは比べ物にならない緊張感を感じる。しかし、身体のこわばりは感じない。成長したのか、慣れたのか。原因はわからないが、この緊張感を楽しんでいる自分が確かにいた。


 俺は声を張り上げる。

 

「さぁさぁ皆様お待ちかね! 先日、ここで勝ち抜き戦を行ったリバーシが! ついに、今日! 店頭で販売されるよ! 200個までの数量限定販売だ!」


 よどみなく、声を出すことができた。声に自信を乗せられているのがわかる。やっぱり楽しい。


 道行く人がリバーシという言葉に反応する。先日の宣伝が効いているのか、だいぶ知名度が上がったようだ。


「先日は売り切れてしまって買えなかった人も多かった! 今ここにいる皆様はラッキーだよ! リバーシの販売はなんとすぐそこの店舗で実施するからね! クランフォード商会の看板が目印だ!」


 俺は支店を指さした。数人が、俺が指さした方を向く。やはり、宣伝場所と支店が近いので、宣伝しやすい。


「さぁ、今大人気のリバーシ! 流行に乗り遅れるな! 店頭へ急げ!」


 俺は言い切り、支店へ向かう。その場にいた半数以上が支店に殺到した。


(あれ、これ200個なんてすぐに売り切れるんじゃ……)


 予想以上の反響に驚きながら支店に戻ると、すでに店舗の外まで列ができていた。


「1グループ1セットまでです! 購入を希望される方は列に並んでください!」


 ユリの声が聞こえてくる。初めてこの町に来た時には人の多さに参っていたユリにこの人数の対応はきついだろう。俺は慌てて支店に入る。


「お待たせしました。1セット1000ガルドです。あ、購入を希望される方は列に並んでください!」

「ユリ! 大丈夫か!」


 店の中ではユリがレジを操作しながら列を管理するという離れ業を行っていた。


「お兄ちゃん! 助けて! 人が多すぎて追い付かない!」

 

 一目瞭然だった。というより、この状況で混乱を起こしていないことが凄い。人の多さに参っていたユリが、この人数の対応しきっているのだ。ユリの成長が凄まじい。


 しかし、ユリの成長を喜んでいる暇はない。


「ユリ、1分だけ持ちこたえて。父さんを呼んでくる!」

「1秒でお願い!」

「無茶言うな!」


 そう言いながら店舗を飛び出し、今来た道を逆走する。


 10秒もせずに父さんが見えてきた。


「父さん!」

「アレン!? どうした? 何かあったのか?」


 まだ距離があったが俺に気付いた父さんは何か問題が起きたと思ったのだろう。心配そう顔でこちらを見ていた。


「お客さんが多すぎて対応しきれない。とりあえずここは案内板だけおいて支店に戻って!」

「おぉう!? わかった!」


 展示していたリバーシを持って支店にもどる。俺と父さんが支店に戻ったときには、列はさらに伸びていた。最後尾はもう完全に敷地の外に出ている。


「俺が最後尾でお客さんの対応をする。父さんはユリのところに行ってレジを変わってあげて。ユリには俺のところに来るように言って」

「わかった!」


 俺は列の最後尾に付いて、声を上げる。


「リバーシの最後尾はこちらです! お求めの方はこちらにお並びください!」


 最後尾が敷地外に出てしまったことで、列に乱れが生じていたが、混乱が起きる前に何とか立て直すことができた。列が変な方に伸びないようにコントロールしていると、ユリがやってくる。


「お父さんに言われてきたよ。列の整理を手伝えばいいの?」

「いや、ユリには整理券を作ってほしいんだ」

「整理券?」


 聞き覚えが無いようで、ユリは首をひねった。俺は整理券について説明する。


「うん。このペースだと2時間もしないで今日の分が売り切れる。仮に明日の分を販売したとしても。閉店まで持たない。だから、来てもらった人に順番に数字が書かれた券を配って後日来てもらうんだ。整理券があれば後日、優先的にリバーシを販売する。整理券には数字ごとに色を変えて偽造防止をしておいて」

「整理券……偽造防止……。うん、何とかなりそう! 何枚くらい作ればいい?」

「とりあえず100枚作ってくれ。作り終わったら父さんと交代して、今度は父さんに俺のところに来るように言って」

「わかった! 作ってくる!」


 ユリが支店の中に戻って行く。俺達の中で、物作りはユリが一番上手い。即席でも偽造しにくい整理券を作ってくれるだろう。


 20分ほどで、父さんがやってきた。


「ユリと変わってきたぞ。何をすればいい?」

「今すぐ荷車を持ってフィリス工房に行って来て! 4日後に納品予定の1000個のリバーシのうち、完成しているリバーシがあったら納品してもらおう。支払いのために商会証を渡しておくね。最後に、明日までに追加で何個納品可能か確認してきて欲しい。2000個までならすぐに追加発注して! あ、今日はお酒なしでお願い」

「なるほど。わかった! 行ってくる!」


 父さんが一度、店内に戻って、空の荷車を持ってフィリス工房に向かう。


(今のペースなら1日1000個売れるかもしれない。おそらく3000個作っても売れ残ることはないはず。その後のことは後で考えよう)


 予想以上の大盛況だ。父さんの言う通り、ガンジールのことなど考えている暇がない。


「リバーシ販売の最後尾はこちらです! 順番にならんでお待ちください!」


 心の中で嬉しい悲鳴を上げながら俺は列の整理を行った。

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