第6話【リバーシ販売3】

 何人かが5連勝を達成し、食料品の大半を買っていった。皆、前回リバーシを買ってくれた人達だ。


(やっぱり前回買ってくれた人は強いな。ユリのライバルが、「前に買って対戦してた」ことをアピールしてくれたからか、リバーシも半分以上売れたし、いい流れだ! あとは、残っている人と観客にリバーシを買ってもらえれば完璧だ!)


「賞品の食料品が残りわずかとなりました! 対戦の募集は締め切らさせて頂きます。次に5連勝を達成した方が現れましたら、本日は終了とさせて頂きます。5連勝を達成した方が現れなかった場合、最後まで勝ち残った方に食料品を半額で販売します。なお、本日対戦して頂いたリバーシの販売も行っていますので、ぜひご覧になってください」


 あらかじめ、早い者勝ちと言っていたので、文句は出なかった。皆、最後の達成者になろうと盛り上がっている。


 そんな中。白いヴェールで頭と顔を隠し、侍女をつれた女性が5連勝を達成した。連勝中だった数人ががっくりと項垂れる。


 その女性は、前回の露店にはいなかったはずだ。顔も髪型もわからなかったが、ゆったりとした服を着ていても存在感を主張する胸部は、一度見たら忘れられないだろう。前回リバーシを買った人達の中にはいなかったと断言できる。


 胸部に視線がいかないように、耐えていると、女性が立ち上がってこちらに歩いてくる。俺が目のやり場に困っていると、女性が顔を近づけて俺の耳元でささやいた。


「面白いゲームやね。あんさんが一番強いんか?」


「え、、あ、はい! 僕が強い一番です」


 ドキドキして変な言葉遣いになってしまう。


「あはは。子供が色気づきおってからに。まぁええわ。ほんなら、わてと対戦してもらおか」


「え?」


「わてはな。食料品には興味ない。一番強いんと戦いたいんや。そやさかい、あんさんと対戦するんを賞品にしてくれんか?」


 こちらとしては問題ない。あるとすれば、隣でユリが冷たい眼をしていることくらいだ。


「かしこまりました。では「私がやる!」、、え?」


 ユリが割り込んできた。


「私も強いよ! お兄ちゃんとやりたければ、私に勝ってからにして!」


「ちょ、ユリ! お客様に「ほほほ、かまへんかまへん。ほんなら前哨戦といきましょか」、、、、」


 女性が机に戻り、その前にユリが座る。


「よろしくお願いします!」


「はい、よろしゅう」


 2人の対戦が始まった。俺はユリの後ろで観戦する。他のお客さん達も集まってくる。突然のエキシビションマッチに、皆、注目していた。


 序盤はユリが白駒を増やしていく。順調そうだが、女性はあえて黒駒を増やさないようにしているように見える。実際、中盤になると、白駒は置けるところが限られてしまい、ユリは自由に動けない。置きたくないところに置かされて角をとられてしまう。そこからは一気に返されてしまい、最終的に盤面は黒駒ばかりとなっていた。女性は最初からこの展開を狙っていたようだ。


「はい、はばかりさんどしたお疲れさまでした


「…………ありがとうございました」


 ユリはなぜ負けたか理解できないのだろう。茫然としていた。


「負けちゃった」


「相手が強かったな。敵はとる」


「……うん! お願い!」


 ユリが立ち上がり、代わりに俺が席に着く。


「真打登場やな」


「よろしくお願いします」


「よろしゅう頼んます」


 序盤、女性は黒駒を増やさないように戦っていた。先ほどと同じ戦法で来るつもりのようだ


(それなら!)


 俺は女性より、少しだけ多めに駒を返す。半分以上は白駒だが、置けるところは十分残す。中盤に入ったとき、俺はあえて女性に角をとられる位置に白駒を置いた。すかさず、女性は角をとる。


(食いついた!)


 俺は角の隣に白駒を置いた。


「!」


 女性は気付いたようだがもう遅い。角はとられたが側面は俺がもらった。そのまま反対の角も取り、最初に取らせた角以外の全ての角をとる。勝敗は決した。


「……ここまでやね」


「ありがとうございました」


「おおきに はばかりさんどしたなぁ。最初角をとらせたんはあえてやね?」


「はい。罠を張りました」


「いけずやねぇ。ま、楽しませてもろうたさかい、賞品としては十分やわ。またやろな」


「喜んで! あ、よろしければ、リバーシいかがですか? 1セット1000ガルドです」


「商売上手やねぇ。ほんなら3セット買わせてもらいましょか」


 女性が侍女に視線を向けると、侍女が荷物から3000ガルドを取り出す。


仲間・・内で遊ばせてもらいますわ。幾人かが・・・、そのうち買いにくると思うから気張りや」


「ありがとうございます!」


 侍女からお金を受け取り、リバーシを3セットを渡す。


「あんさん、名前は?」


「アレン=クランフォードといいます」


「アレン=クランフォードな。覚えとくわ」


 女性はかみしめるように呟いた後、立ち上がっる。


「ほなまたな」


「「「ありがとうございました!」」」


 俺とユリだけでなく、父さんもお辞儀をした。女性を見送った後、父さんに声をかけられる。


「やったな。あの方はアナベーラ商会の会頭、ミッシェル=アナベーラ会頭だ!」


 父さんが珍しく興奮して言う。


「ここらでは一番大きな商会だ! あの方のお墨付きがもらえれば、リバーシは一気に広がるぞ!」


 どうやら想像以上に偉い方だったようだ。無礼がなかったか心配になったが、帰り際の様子を見るに大丈夫だろう。


 その後、リバーシはすぐに売り切れた。1人で3~5個購入された方が何人かいたためだ。


(一人で複数買ってどうするんだろ。まさか、転売!?)


 前世で転売のせいで嫌な思いをした俺は、父さんに聞いてみた。


「いや、あの人達の目的は転売じゃない。そもそも国法で許可のない定価以上での転売は禁止されている。多分、仲間や部下の教育に使うんじゃないかな。アナベーラ会頭が仲間内で遊ばせてもらうっておっしゃっていたしね。アナベーラ商会の影響力は大きいんだ」


 優れた商人は常日頃から情報収集を怠らない。アナベーラ商会の会頭がリバーシを気に入って「仲間内で遊ぶ」と宣言したことは、すぐに知れ渡るだろう。リバーシのルールを理解し、感想を言えるようになっておかないと、「情報収集力が低い」もしくは「アナベーラ商会を軽視している」と取られてしまう。


 リバーシの未来が一気に開いた気がした。


「こうなってくると、露店じゃなく、支店を開いた方がいいな。後で相談しよう」


 その後、残っていた食料品は最後まで連勝していた人達に半額で販売した。1人当たりの量は少なかったが、皆嬉しそうだ。楽しんでもらえたようで何よりだ。


 最後の挨拶のため、俺は声を張り上げる。


「皆様、ありがとうございました。本日はこれにて店仕舞いです。リバーシの販売については、近々ここで発表を行います。楽しみにしてください!」


 最初の挨拶とは違い、声に自信を乗せて喋れたと思う。


「「「ありがとうございました」」」


 俺達はそろってお辞儀をした。観客から拍手が巻き起こる。前回以上の大成功だった。

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