第1話 4/15

野次馬の喧騒の向こうからコツコツという音がした、次いで曹長の声で「通して、通して下さい」と聞こえてきた。王立迷宮管理組合ギルドの横の道を野次馬を掻き分け戻ってきているらしい。もう一度「通してください」と声がした、野次馬をかき分け現れた彼女の後ろには大荷物を抱える軍曹も見えた。


「ごくろう!二人とも!」


先頭の曹長がツウのもとに駆け寄り「はっ」と敬礼する。


「憲兵本部より入電、測定魔法および大杖ロッドの使用を許可する旨の命令書をお持ちしました」


ツウが返礼し曹長から一枚の紙を受け取る。もう片方の手で懐から懐中時計を取り出し開く。


「よろしい。マルキュウヨンハチ時、命令書確認」ツウが曹長に紙を戻す。


「軍曹!」


「はっっ!憲兵本部の命により戦術級大杖ロッド聖ノーヴァスオーモお持ちしました」


「確認する!」


ツウが軍曹から荷を受け取る。革の包みに仕舞われた棒状のそれはツウの背丈に匹敵するか、彼女を上回るものとテオには伺えた。

軍曹が荷を支えツウが包みを解く、しばらくして曹長の「もう少し下がらせて下さい」という声が飛ぶ。

カチャカチャという荷を解く金属音とポロ警察の「下がって!」というガナリ声や警笛の音がこだましていたが、それらは群衆の「おぉー」という感嘆でかき消えた。杖の先端が現れたからだ。

杖に着いたこぶし大の魔石をみた群衆から「でかい」「つよそう」「かっけぇ」などの声が聞こえる。ツウが杖の魔石が付いた台座の下、杖の首元あたりを左手で掴みおもむろに引き抜く。

彼女は杖を右手に構えなおすと魔石を天に掲げた、魔石がツウの魔力に反応をしたのか、淡い緑色に光を放ち始める。光を見た群衆からは感嘆の声がつよくなり拍手をする者さえ現れた。


「これより! 戦術級大杖ロッド聖ノーヴァスオーモを使用した魔力残滓の測定魔法を発動する!」


群衆は盛り上がり口笛まで聞こえてくる。

革製の包みを小脇に抱えた軍曹がツウから距離を取るように下がり始め、テオの隣に並ぶように立つと言った。


貴方あなたが噂のアイン先生ですか?」


「先生なんて、やめて下さい。僕はツウの…… いえ、中尉の学友だったテオ・アインです。よろしくお願いします」


ツウが小さな声で詠唱を始めると野次馬の声も術者に気を使ってか小さくなる。


「こちらこそですよアインさん、アインさんには何度か憲兵本部が事件解決でお世話になったとか」


「いえいえ、それはただ彼女が困っていたから助けただけで、たまたまですよ」


「たまたまですかね…… 貴方が居なければ解決できなかった事件も多いと聞きますが」


「僕が居なくとも他の憲兵や地元警察の刑事が解決したでしょう」


「どうですかね『今の憲兵隊には高度化する犯罪に対応できるものは少ない』それが以前の上官の口癖でした。今や中尉は平民出身の数少ない尉官の一人ですし、ましてや女性では初の平民出身尉官です。そう考えると上の評価は高い、彼女なら難事件でも解決する、そういう評価です」


「いやー、評価が高いのは彼女であって、私ではありませんよ」


「でも、彼女が困っていれば助けるのでしょう?」そう言った彼は懐から懐中時計をとりだした。


「それは、まぁ。できるかぎりは」


「そういう事でしょう」


「彼女の評価は僕次第と?」


「その限りではありませんが、評価の一部かなとは私は考えてますよ…… お?」


ツウが掲げる杖の先が強く光りだす。つよまる光と同調する様にひゅいーーんと音がました次の瞬間、ふと野次馬が息をのむように静まった。すると彼女の呪文のささやきのような声がテオにも届いた。


「役割を終えし力の源よ、最後の力を振り絞り光れ」


声と共に冒険者の亡骸が光りはじめる、しばらくして遺体は薄く輝くもやのような物を放ち始めた。そのもやは遺体を離れ浮遊を始める、するとゆっくりとツウの方に動き始め、最後は杖の先の魔石に吸い込まれるようにして消えていった。


「軍曹!」


「はっ」と返事をした軍曹が手元の時計に目を落とす。


「まぁ私の出世も貴方の頭脳にかかっておるようですから! 頼みますよ!」


はははと笑った後「5秒!」とカウントの声を上げツウの方へ歩き始めた。


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「はてうぬよ。少し疑問であったのだが」


「なんでしょうか」


テオがベットに入って暫くの後であった。


「あのような地味な魔法があんなにも受けるものなのかのう」


ベットサイドの猫が毛づくろいをしながら言った。


「うける? ですか」


猫娘ねこむすめの魔法、野次馬どもがくいいるように見ておったであろう」


「あぁ、みなさん魔法なんて見る機会少ないですから」


「であるか?」


「杖の類も無しで魔法仕える人なんて少ないですしね、街中で勝手に使っても最近では簡単につかまりますし」


「で、あるかぁ」


大杖ロッド使用者オペレーターなんて子供の憧れる職業ですし。勇者一行のひとり、それも賢者様出身の街ともなれば、なおのことですよ」


「なるほどのぉ」


ワンドの所持が免許制じゃなかった一昔前ならいざしらず、今の僕ら世代なんかは特に、ふぁあ、魔法は見る機会が少ないから…… 眠たくなってきました」


「昔でもあの賢者コワッパに憧れる奴はおったがな、今ならなおさらか。よし、続きは明日にするか」


「そうしていただけると助かります」


テオがベッドサイドのランプを消す。


「おやすみなさいネコさん」


「うむゆっくり休むがよい」

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