第5話『紅茶と閃き』
冷蔵庫には昨日、桜を愛でながら食べようと思い買っておいた桜餅が入っていた。
それを取り出し、喉に詰まらせるとよくないと紅茶を淹れてやった。
「ほら、これでも食べなさい」
「あざーっす。 おや? ほんのりと桜の香りがするっすね」
「桜を愛でながら香りを楽しむ。 良いものだろう?」
「まあ、オイラは食べれればなんでもいいんすけどね」
そういうやいなやエドガーは桜餅を口へ放り込む。
こいつは本当に風情というものを分からん奴だ。
「エドガーよ、日本には『侘び・寂び』というものがあって……」
「うグッ!?」
詰まらせやがった。咄嗟に背部叩打法を試す。
「ゲホッゲホッ! フゥー。ヤバかったっす! 死ぬかと思ったっす」
「ほら、お茶を飲みなさい」
こいつはお約束は必ずといっていいほどやる奴だな。
「ゆっくり味わって食べないからそうなるんだ。」
「いやぁ、いけると思ったんすけどねぇ」
「だいたい桜餅の葉はどうした? 付いてないようだが……」
「え? もちろん取りましたよ。 葉っぱなんか喰うわけないじゃないっすか」
「あのなぁ、桜餅の葉は塩漬けされていて食べられるのだぞ」
「マジっすか!? 葉っぱを喰うなんて気持ち悪いっすね」
こいつはたった今、全国の桜餅の葉愛好者を敵に回したな。
「だいたい桜餅の葉は貼り付いていて取りづらかっただろう?」
「そうっすね、最初は取りづらかったっすけどなんとか取れましたよ」
ん!? くっついた物が取れる……
……貼り付く……取れる……。
そうか!!!
「おい!! エドガー、解ったぞ!! 給料袋の消えた謎が」
「えッ? どうしたんすか? 急に」
「私の推理通りなら、さっきの袋はあの引出しからもう消えているはずだ!!」
「えッ!? マジっすか?」
「ヒントは桜の木と桜餅にあったんだ!!」
「??? オイラにはさっぱり解らないっす」
「フフフ…… 紅茶を飲みながら事件を解決とは、私は探偵に向いているかもしれないな」
そう呟きながら私達はさきほどの机の引出しを目指すのだった。
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