ハザマ教授の受難

OBAR

第1話 『消えた……』

 私の名はショウ ハザマ。太古に滅んだとされる文明を研究して20年、によりパトロンからの追加出資をやっとの思いでもぎ取ったしがない大学教授である。

 この追加出資で探索中にをみせた助手のエドガーにも未払いの給料を出してやれることだろう。


 ふと研究室の窓から外を眺めると満開の大きな桜の木が見える。

 私の研究室はキャンパスでも一番奥まった不便なところにあるのだが、この桜の木が見えることが唯一の自慢なのだ。

 春の暖かな風に花弁が舞いとても綺麗だ。研究と探索に追われ、ささくれた心が和む……。


「教授! 教授ッ!!! 追加出資が出たってホントっすか?!」


 せっかくのが台無しである。


「五月蝿いぞエドガー! そんなに大きな声を出さなくても聞こえている」

「声も大きくなるってもんすョ! オイラもう限界っす! 早く給料払ってくださいっす!」

「分かった、分かった、今出してやるから慌てるな」


 私は研究室の奥にある自室の机に向かい一番上の引き出しを開けるための鍵を挿す。


(おや? 鍵を閉め忘れていたか?)


 閉めたと思っていた鍵が開いている。日々の疲れで忘れたのだろうか?


「教授? どうしたんすか?」

「いや、閉めたと思っていた鍵が開いていて……!? 無い!!!」

「え? 無いって何がっすか?」

「君に渡そうと思って此処に入れたはずの給料袋が……」

「えぇぇッー!!! ウソでしょ教授ッ!!!」

「こんなことで嘘をつくはずなかろう!!」

「そんなぁぁぁッ~」

「えぇい!! 泣くな!! 鬱陶しい。すぐに代わりの給料を用意してやるから」

「ホントっすか?」


 エドガーの奴め、ウソ泣きしやがった……。


 兎に角、これは研究室始まって以来の大事件である。

 すぐに警察へ通報すべきだが、我が研究室は学内での立場が弱い。

 警察沙汰にしては下手をすると研究室の存続にかかわる事態になりかねない。


(大事にせずに解決しなければ……)


 私は先程までいた窓際へ行き、ヒラヒラと舞う桜を見ながらこの手で事件を解決しようと心に決めたのだった。




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