片腕のドラゴニスト

クロノパーカー

第1話 絶望と出会い

「今日は何のクエストに行くよ?」

ギルドリーダーの言葉に対して仲間のみんなはクエストボードを見る。

「このクエストなんか良くない?」

仲間の一人が一枚の依頼書を指差す。そこには『王令依頼おうれいいらい:ドラギス島の竜の活動調査』と書かれた依頼書があった。

「ドラギス島ってあれだろ?ドラゴンばっかいる島だろ?」

「そうだな。人間は基本立ち寄らないドラゴンが大半を占める島。かなり危険だな」

仲間の質問に対し俺は自分の知っている情報を言った。

「しかもこれ『王令依頼』じゃないか。なんでそんな危なそうなクエストにしたんだ?もっと安全な奴にした方が良くないか?」

「でもただの調査よ。島のドラゴンの様子を少し見るだけよ。そんな危険なことはないわ」

「そ、そうか?で、報酬はいくらなんだ?」

「金貨11枚よ。一人2枚で1枚みんなで使えばいいと思わない?」

リーダーとクエストを勧めた仲間が受けるか受けないかで相談をしている。個人的には受けてもいいとは思っている。俺が所属しているギルドは同じ村で育った友達同士で構成されている。

ギルドリーダーのレギアス

アタックのキリル

タンクのコラル

マジックのフィララ

そして俺がサポート、まぁ攻撃もできるし防御もできるっていうバランス型みたいな感じだ。みんなみたいに特化しているわけではなく少し微妙な立ち位置だがそれでも必要な存在になれていると思う。

「まぁ俺らならなんとかなると思うよ」

タンクのコラルがのんびりとした様子でレギアスをなだめる。

「まぁコラルがそう言うなら受けてもいいか。クストも問題ないな?」

レギアスの言葉に俺は頷く。ギルドの図鑑でしか見た事がなっかたので普通に楽しみである。

「じゃあさっそく準備して向かおう!」

フィララの言葉で各々が動き始める。

レギアスはクエストを受注しに行く。

キリルは宿に戻り愛武器のガントレットを手入れしている。

コラルは盾と鎧を新調しに行く。

フィララは魔法店に行きいろんなポーションを作っている。

そんな皆の様子を見て俺は何をするか考える。ドラギス島に行くんだ。それなりの準備は必要だな。そう思いあるところに向かうことにした。


「やぁいらっしゃい。クスト君か、買い出しかい?」

「あぁちょっとクエストに行くからな」

店に入ると店員にそう声をかけられたので軽く返事をし店を見て回る。俺は食料を買いに来た。

ドラギス島はドラゴンしか住まず人間が住めないのはその環境の悪さが原因だ。地の質が良くないので草木が生えることがないので農作物を育てる事が出来ない。結果的に環境に耐えることが出来る強い魔物、すなわちドラゴンが多く住むようになった。他の魔物もいる事にはいるが大体は環境に耐えれず死ぬかドラゴンに食われて死んでいる。

「これくらい買えば充分か」

五人分の食料を買い店員に会計してもらう。

「お願いします」

「あいよー」

会計をしてもらっている間、次に何をしようか考える。武器の手入れをしようか、防具の見直しをしようか…そんなことを考えていると

「今回は何のクエストに行くんだい?討伐?採集?」

「今回は調査だよ。『王令依頼』だが…」

「『王令依頼』だと?危険なクエストなのか?」

「ドラギス島の龍の活動調査だ。まぁ様子を見るだけだ、そこまで危険というわけではないだろう」

「そうか…気をつけろよ」

「あぁ任せろ」

店員から会計を済ませた商品を受け取る。

「あんがとな」

そう言って店を後にした。


「次はどうしたもんかねぇ」

今回は調査であるため戦うことが少ない。武器の手入れをするよりも防具の見直しをした方が良い気がする。龍以外は多分戦えるが龍には苦戦を強いられる気がする。だからこそ龍に見つかったときは逃げれるように動きやすい装備にした方が良いか。 

「じゃあ防具屋行くか」

そう考え足を動かし始めた瞬間

『汝…同胞に注意せよ…』

突然後ろからかすれた声が聞こえ鳥肌が立つ。

「っ!?誰だっ!?」

後ろに振り向くが誰もいない。人がいたなら気配で気づくはず…。気のせいだったのか?

「なんだったんだよ…」

アンデッドの類でも気配はある。東の国に存在するらしい忍者というものや王族や貴族が雇っているスパイなどでも少なからず気配はあるのだ。

「なんか…ちと怖ぇな」

そう感じながらもまた防具屋へ足を進め始めた。


「これでいいな」

少し時間がかかったが防具屋で防具を整えみんながいるであろう宿まで戻る。

「ただいまー」

「あークスト、おかえり」

出迎えてくれたのは飯を食べていたキリルだった。

「あんたはは何をしに行ってたの?」

「俺は島で飯が不足する可能性を考えて食材を揃えてきたのと防具を整えてきたよ」

「防具なんて無くても私のガントレットさえあればドラゴンなんて敵じゃないわ」

「そりゃ心強い」

昔からキリルは力が強く喧嘩も強かった。だからこのメンバーではかなり重要な立ち位置にいて攻撃は一人で六割程度任せている。危険な役ではあるが文句を言わずに動いてくれる。

「他のみんなは?姿が見えないが…」

飯を食べ終わり満足そうなキリルに聞くと

「レギアスとコラルは自室で寝てる。フィララはなんかレギアスに頼まれたポーション作ってる」

「なるほどな」

レギアスは何をフィララに頼んだんだろう。きっとドラギス島で役に立つものだろうな。

「レギアスがクエストは明日は朝早くから行くんだって。だから早めに用意をして寝とけって言われた」

「分かった。何時くらいに起きればいいんだ?」

「なんか6時にはここを出るんだって、早いよね」

「てことは5時くらいに起きればいいか」

「私は起きれる気がしないから起こして」

「了解した」

キリルの言葉を聞き俺は店員に晩飯を頼み腹を満たしてから自室に戻ることにした。


自室に戻った俺は明日持っていく装備や荷物をまとめ始める。現在は20時程、早めに寝ろとは言われたが流石にまだ早い。

「まだ寝むくもないし、どうしたもんかねぇ」

余った時間をどう過ごそうか考えていると

「…日……行だ……、…ギ……」

「そ…だ。……でク……………るぞ」

「これ…無………いつ………さら……な」

隣のレギアスの部屋からかすかに声が聞こえる。この声はレギアスとコラルか?いったい何を話しているんだろうか。

「ちょっと聞きに行くか」

少し気になった俺は部屋を出てレギアスの部屋に向かうことにした。

部屋を出るとレギアスの部屋からコラルが出てきた。

「あ、コラル。レギアスと何を話していたんだ?」

「あ、あぁクスト。まだ寝てなかったのか」

「流石にまだ早くて眠れなくてな。で、何を話していたんだ」

「あ、あぁ…それは…」

コラルがしどろもどろになっていると部屋からレギアスが出てきた。

「どうしたクスト、キリルに伝えられなかったのか?」

「いや、聞いたけどさ、まだ寝るには早くてさ。そしたらレギアスの部屋から声が聞こえたから気になってな。何を話していたんだ?」

レギアスに聞くと一瞬表情が固まったがすぐにいつもの顔に戻り何を話していたか教えてくれた。

「明日はあくまで調査だからな、下手にドラゴンに喧嘩を売って死にたくはない。だから万が一に備えてタンクのコラルの装備を俺も確認していたんだ」

「なるほど、なら良かった」

「何がよかったんだ?」

レギアスの問いに対して俺は

「いや気にしないでくれ。普通に何を話しているのか気になっただけだから」

「そうか。明日は早いんだ、眠くなくても何とか寝てくれ」

「うい、分かった。お休み」

そう言ってレギアスとコラルと別れて自室に戻った。


「まぁ流石にないよな」

自室に戻った俺はベッドに横たわり言葉をこぼす。

俺の中で思ったのは昼間のあの出来事

『汝…同胞に気をつけろ…』

この言葉がどうしても頭に残っている。仲間を疑う訳ではないがそれでも気になってしまった。

もしもあの二人が俺らを裏切ったりすることがあるかも…そんなことを考えてしまった。でも十何年も一緒に過ごし成長してたんだ、裏切るってことはないだろう。

そんなことを考えていると少しずつ眠気が襲ってきたので抵抗することもなく俺は眠りについた。


「…くわぁぁ」

窓から朝日が入りその光で目を覚ます。

「今は何時だ?」

ベッドから腕を伸ばし時計を確認する。そこには4時50分と書いている。

早めに寝たとはいえ眠いことに変わりはない。まだだるさを感じる体を動かし目をこすりながらベッドから出る。

「そういえばキリルが起こしてとか言ってたな」

確か自分で起きれないからとか言ってたな。昔から早起きが苦手だったがまだ直っていなかったのか。

「じゃあ起こしに行きますかね」

そう言い着替えて部屋を出た。


「キリルー、起きてるかー」

キリルの部屋の前まで来てドアをノックする。中からは唸り声しか聞こえなかった。

「入るぞー」

俺はそう言ってキリルの部屋に入る。床には今日持っていくであろう荷物とガントレットが置かれており、そして乱雑に脱ぎ捨てられた衣服が転がっていた。

「相変わず雑いな」

思わずそんな声をこぼしてしまう。

「おーい、キリル起きろー」

キリルの寝ているベッドに近寄り体を揺さぶる。

されど反応はない。返ってくるとしたら唸り声くらいだ。

「いい加減起きろよー」

俺は少し強く揺さぶる。これで起きなければ少し困る。

「…うーん」

「お?」

少しの間揺さぶっているとキリルが瞼を少し上げた。

「…あれ~?どうしてクストがここにいるの~?」

「いや、お前が起こしに来いって言ったんじゃないか」

「そうだっけ~?」

寝起きでまだ全然頭が回っていない様子のキリル。

「なんで起こしてなんか言ったんだっけ?」

「今日はドラギス島行くだろ?早く起きないといけないから起こしてって言ったじゃんか」

「あー、忘れてた」

「マージかよ、お前」

キリルは俺の言葉を聞き、勢いよく体を起こす。おいおい、心臓に悪いぞー、それ。

「今何時!?」

「今は5時ちょいだ」

「良かったー」

安堵した様子で胸を撫で下ろす。きっと遅刻したと思ったのだろう。

「じゃあ朝ご飯食べに行こ」

「分かった」

その提案に返事をするとキリルが部屋を出ようとする。そんなキリルを俺は静止した。

「お前はその格好で行くのか?」

「え?」

俺の言葉を聞いてキリルは部屋にあった姿見に視線を移す。そこにはパジャマが着崩れ胸元が見えそうになっている。そしてズボンも脱げかけておりパンツが少し見えているキリルが映っていた。

「…ひゃっ」

そんな謎の声を出すとみるみると顔が赤くなっていく。

「どうした?大丈夫か?」

パァン!

心配して声をかけるとビンタが飛んできた。めっちゃ痛い…。

「何すんだよ!?」

「何すんだよ、じゃないわよ!なんで起こした時に言ってくれなかったの!?この変態!」

「変態ってなんだ!気づいていると思ったから言ってなかったんだよ!そしたら着替えずに出ようとしたから言ったんだよ!」

俺が言っていなかった理由を言うとキリルはとんでもないことを言い出した。

「私の体を見ていたかったから言わなかったんじゃないの!?」

「お前の体なんか見慣れている。今更見ても何も思わん」

キリルの言葉に冷静に答えると

「なんかそれはそれで腹立つわね」

少し不服そうな顔をしてそう返した。落ち着いてきたか?

「で、そのまま行くのか?着替えていくのか?」

「着替えるわよ」

「そうか」

俺がそう言ってキリルが着替えるのを部屋で待とうとすると

「え?なんでまだいるの?」

と言われたので

「え?いちゃダメなの?」

と返す。

「私、着替えるんだけど」

「そうだな」

「見られたくないから出て行ってほしいんだけど」

「あー、そういうことか」

「別に見られても恥ずかしいもんだと思わなかったから気付かなかった」

「そりゃ見慣れていて何も思わないならそう感じるでしょうね。とりあえず出て行ってくれない?」

若干不貞腐れたような声で言われたが

「分かった」

と、だけ返してキリルの部屋から出た。


「お待たせ」

部屋の前で少し待っているとそう言ってキリルが出てきた。

「じゃあ食いに行くぞ」

「了解っ」

そう言って俺らは食堂に向かいだした。

「そういえばさ」

「ん?」

歩いているとキリルが声をかけてきた。どうしたんだろうか。

「あんたって異性に興味ないの?」

「…え?」

突如そう聞いてきたキリルに困惑する。

「どうしてそう思うんだ?」

「だって私の体は見慣れているって言ってもそれはもう何年も昔のことでしょ?流石にいろいろ成長したと思うんだけど…」

キリルが少し俯いてそう言う。

「そうだな、お前の体は成長したが結局はお前であろう?見た目がいくら変わろうとキリルがキリルであることに変わりはない」

「そ、そう…」

「異性に対して興味があるかないかでいうとある。ただ俺はお前たちと遊んだり冒険したりの方が大事だ」

「あるんだ…じゃあ私には魅力がないだけ…」

キリルが小さな声がそう呟く。その呟きを聞き逃さなかった俺は

「お前に魅力がないわけではないぞ。俺は一緒にいる時間が長すぎてそういう感情が沸かない。ただそれだけだ」

「なる…ほど…」

「俺を基準にして自信を無くすな。客観的に見てお前は可愛い。きっとモテる。安心しろ」

「うん…」

俺の中ではフォローしたつもりであったが微妙な反応だ。どこか間違えただろうか。

「まぁ相手がフィララでも同じ反応だから気にしないでくれ」

「わ、わかった」

少しは納得したような声を返した。

そんなこんなしていると食堂に着いた。ドアを開け中に入るとそこには既にみんなが朝食を食べ始めていた。

「おー、二人とも遅いよー」

俺らの姿を見つけたフィララが声をかけてくる。

「悪い、キリルを起こしに行ってた」

「なるほどね。クストってキリルの親みたいだよね」

「そうか?」

「うん。昔からキリルの面倒見てる気がする」

「なによ、私がだらしないみたいじゃない」

「事実そうでしょ?」

「そんなことはない!」

フィララとキリルが言い合い始めたのでそこを抜けレギアスとコラルのとこへ行き朝食を取ろうとする。

「おはようさん、クスト。またキリルを起こしに行ってたのか」

二人のところへ行くとコラルが挨拶をしてきた。

「あぁ、昨日起きれないから起こしてって言われてな」

俺が何故起こしに行っていたかの理由を言うと

「あいつはいい加減自分で起きれるようにならんのか」

と、レギアスが食べる手を止めずに言う。確かに関わり始めて時間が決まっているとき自分で起きた様子を一度も見たことがない。大体俺かフィララが起こしている。

「正直起こしに行くの面倒くさかったりするから、そうなって欲しいよ」

俺がそういうと一瞬レギアスの目つきが変わった気がしたが…

「クスト、お前は何を食べる?」

「あ、あぁ。メニューを見せてくれ」

気のせいか。普通に話しているし。メニューを受け取り目を通す。まぁ軽いものでいいか。

「サラダとパンでいいや」

「分かった。俺はまだ食べたいものあるからついでに注文してくるよ」

「ありがとう」

コラルが俺の食べたいものを聞いて店員のところへ向かった。

コラルは気遣いが出来てすごいなと思う。昔から一番大人びていたので俺やキリル、レギアスがなんかやっているとき収拾をつけていたのはコラルだった。

「クスト、少しいいか?」

「どうした?」

飯を待っていると食べる手を止めたレギアスが何か聞いてきた。

「今日のクエストだが…お前なら大丈夫だと思うが、油断するなよ」

「分かってるよ。日頃から魔物やらには気を付けているし、今回はドラギス島だ。メインはドラゴンだがまだ見ぬ魔獣もいるかもしれんからな」

「ならばいい」

そう言ってレギアスはまた手を動かし始める。何故こんなことを聞いてきたか不思議だったが心配してくれただけと思い、気にしなかった。

「二人して何の話をしているんだ?」

注文して帰ってきたであろうコラルが手に水の入ったコップを持ち戻ってきた。

「ちょっと今日のクエストに関してな。コラルこそ遅かったな」

「ついでにクストとキリルの分の水を持ってきたからな」

「あー、そりゃありがとう」

礼を言ってコラルが俺の前にコップを置いて座る。コラルからキリルの名前が出たのでさっきキリルとフィララが言い合っていた方を見ると

「あいつら切り替え早いな…」

思わず声が漏れた。俺らと少し離れたところに座った二人を見るとそこには笑って話している二人がいた。っていうかキリルは最初からスイーツかよ…。

「昔からあんな感じだよね、二人は。軽く言い合いになってもすぐに話したり遊んだりして笑いあってる」

「そうだな。本当に喧嘩していたのか疑問に思う程切り替えがすごい。多分その場その場の優先事項が両方とも似ているからあんな感じなんだろうが…」

そんな二人を見てコラルとレギアスが昔の様子を思い出しながら話している。

あの二人は昔からに似ていないようで似ている。好きなものが同じようなものだったりする。日頃活発なキリルと落ち着いているフィララ。お互い人間性は逆だがともにいるときはキリルが落ち着いていたりフィララが活発になっていたりと影響しあっている。今回はキリルに影響されている場合だな。

「お待たせしました」

店員が飯を持ってきてくれて食べ始める。うむ、今日も旨い。


「ごっそさん」

食べ終わりそれぞれが自室に戻り準備をする。今は5時50分。もうすぐ出発だ。

「…待っておくか」

用意が終わってしまったので宿の前で待つことにし、自室の扉に手をかける。その瞬間

『汝…同胞に注意せよ…』

「っ!?」

またあの声が背後から聞こえ背筋が凍る。人間恐怖を感じると反射的に振り向いてしまうことを身にしみて感じた。

「お前は…お前は何を伝えたいんだ!?」

「…」

謎の声に問うが返事はない。一度だけでは気のせいと思えるが二度来るとそうは思えなくなってくる。しかも昨日のように外ではなく自室だ。

同胞…すなわち仲間。あいつらに注意?…長年ともに過ごしてきて疑う余地はない…そう感じるがこの声はきっと何か伝えたい、そう思える。

「…疑いたくはないが、少し気をつけるか」

そう心に留め再度扉に手をかけた。


「クスト、早いね」

「お、来たか」

宿前で待っているとキリルとフィララの女子二人組が来た。

キリルは昨日手入れしていたガントレットを装備している。

フィララは魔石を腰に付け魔導杖を手にしている。

「キリルが時間道理に来るの珍しいな。フィララが迎えに行ったのか?」

「失礼ね、自分で来たわよ」

「この子自分で来て私とさっき合流したのよ」

「あ、あの、キリルが…成長したな…」

「な、何でそんだけで泣くのよ!?」

「ぷっ…」

俺が感動して泣いていると、キリルが文句を言い、フィララが吹き出して笑っている。

「なんか賑やかだな。なんかあったのか?」

そんなやり取りをしているとレギアスとコラルが宿から出てきた。

「聞いてよコラル。キリルが時間通りにここに来たから感動してクストが泣いちゃって」

「なんだそんなことか」

「そんな事とはなんだ、キリルの成長を身にしみて感じたんだぞ」

俺がコラルに訴えると

「流石にこの年にもなって時間が守れんはまずいだろう」

レギアスにド正論を返された。確かにそうだけど…十何年一緒にいて成長を感じたらうれしいもんじゃん。

「全員集まったことだし、そろそろ出るぞ。忘れ物はないな?」

レギアスが指揮ってそれぞれ自分の荷物を確認する。俺はないな。

「俺はない」

「私もない」

「私も大丈夫」

みんな大丈夫なようだった。

「じゃあ向かうぞ。ドラギス島へ」

『おー!』

みんなで活き込んでドラギス島へ向かうことにした。


旅の途中で魔物に出会うことが何度かあったが俺が襲ってくる気配に気づいて、キリルとレギアスとがメインで倒し、倒し損ねたものをフィララが倒す。誰か(特にフィララ)が攻撃を受けそうならコラルが守る。

そんな風にいつもの連携で戦い、安定して動く。

長年ともにいるからこそ出来る戦い方。こいつらに「注意せよ」ってもしかしたら誰かが危険な目に合うからとかそんな感じかもしれないと思い始めた。そう思ったのはこいつらに対して疑う事こそ自分が愚かなことだと思えたからだ。そう考えたらあの声の主は別に敵だとかそんな感じではないのかも知れない。

出てくる魔物を倒し、採集したり、いくつかの街を渡り、海を渡ること10日程度、ドラギス島に着いた。


「着い…むぐっ…」

到着した喜びの声を上げようとするキリルの口を塞ぐ。

「むぐむぐ…なにすんのよ」

「下手に大きな声を上げたらドラゴンに気づかれるかもしれないだろ?」

「あー、そっか。ごめんごめん」

軽い感じで誤ってくる。本当に大丈夫か?

「ヒヤッとしたわ。もうここで戦闘になるかと」

少し焦った様子でフィララがそういう。そりゃあこの島にまだ陣を張っていないのに戦闘が始まれば圧倒的にこちらが不利だからな。

「もう少し気づかれなさそうなところに行こう。下手に大きな洞窟などに陣を張るとドラゴンの住処であることが多い。ドラゴンが入らなさそうな小さな洞窟を探そう」

レギアスの指示で慎重に島を探索し始めた。キリルが疲れたというので途中で俺がおぶった。流石にガントレットまでは背負えなかったのでコラルに任せたが。

「あ、あそこなんてどう?」

少し探索したときフィララが声を上げた。指さされた方を見るとドラゴンは入れず人間には少し余裕がある位の洞穴を見つけた。

「じゃあそこに陣を張るか」

洞窟内に入り危険がないかを確認し陣を張る。各々荷物を置き、これからどうするか話し始める。

「とりあえずこの島の水は安全かどうか確かめてくる。これは俺とコラル、クストで行ってくる」

「分かった」「了解した」

「キリルとフィララはこの島で食べられそうなものがあるか見てくれ。クストがある程度持ってきてくれたが緊急時として知っておく必要がある」

「分かったわ」「任された」

「もしドラゴンを見かけたら刺激せずここに戻れ。もし見つかれば地龍グラウンドドラゴンは強靭な足で追われて逃げきれないし、飛龍スカイドラゴンは飛んで追われて逃げられない。全員でいれば戦えるが今は分担するんだ、気をつけろよ」

レギアスの指示に従い動き始める。

俺らは水の確保か。一応自分たちで水は持参したし、極論フィララに魔法で生成してもらえば良いが下手に魔力を減らしてドラゴンと対峙した際に魔力が足りませんとかは困るからな。それを考えての行動だろう。

「行くぞ二人とも。さっき探索中に水の音が聞こえた。そちらの方に向かってみよう」

そうしてレギアスについていくことにした。


「あったな」

水の音のする方へ向かうと川を見つけた。

「二人は周囲の警戒をしておいてくれ」

「分かった」「任せろ」

二人に背後は任せて俺は川の安全を確認する。

「色的には大丈夫そうだな…」

俺は川を覗き込み呟く。色からして変だったら判断しやすかったんだがな…。毒素が含まれているかもしれないし酸が含まれている可能性もある。少し調査する必要があるか…。そう考えた俺は近くの木の枝を川に浸けてみる。これで色が変色すればただの水ではないからな。

「色は変わらないか…毒も酸もなさそうだな」

二人にこの水は安全だと伝えるか。

「レギアス、コラル。この水は大丈夫そう…だ…」

二人に安全だと伝えようと後ろを振り向いたがそこに二人の姿はなかった。

「おい…二人とも…どこ行った?」

大きな声を出して二人を探したいが下手な行動をしてドラゴンに見つかれば助からない。

俺は困惑し警戒しながらも陣を張った洞窟に戻る事にした。先に二人が戻っていると信じて。


その頃、レギアスとコラルは…

「あいつは来てないな?」

「あぁ大丈夫だ」

二人はクストが見ていない内に離れた。何故二人がクストから無断で離れたか。

「これであいつともおさらばだ」

「そうだね。ようやく目障りな奴がいなくなる」

二人が取り出した物は昨日フィララに頼んでいた炸裂ポーション。

「これをクストの方へ投げれば煙と強い衝撃波、爆音が起こる。そうすればドラゴンがあいつの元に向かう」

「あいつは対して強くないから、一人でドラゴンには勝てない」

「作戦通り行くぞ、コラル。俺が投げるからすぐに洞窟の方へ行く。お前が先に行ってドラゴンに見つかったと言って洞窟に逃げるんだ」

「そしたらキリルとフィララが戻るまで俺がドラゴンの攻撃を防げばいいな」

「そうだ。これでようやくクストが死んでキリル達が俺らを見てくれるようになる」

「そうだね。村の頃からフィララ達は何故かクストを好いていたからね」

この二人は昔からキリルとフィララに恋心を抱いていた。しかしその二人がクストを好いていることを気づていた。当のクストは気づいていなかったが。キリルとフィララの気持ちが自分に向かないことに嫉妬し二人はクストが事故で死んだことにするため計画を立てていた。

「じゃあ行くぞ」

「あぁ、ミスるなよ」

そうしてレギアスはポーションを構え、コラルは洞窟へ走り出した。


「二人とも居てくれよ」

川を離れ洞窟に向かい始めた時


ドカーン!!!


「…げほっ…げほっ」

突如煙と強い衝撃波が体を襲って来た。

な、なんだ!煙で何も見えないぞ。

5秒ほどで煙が少し晴れ周囲が多少見えるようになった。

周囲を何が起きたか確認するため見回していると


ギリャアァァォォゥゥ!!!


突如煙が一瞬で晴れた瞬間、聞こえて欲しくない声が聞こえた。これは…まさか…。大量の冷や汗が全身を伝いながら俺は上空を見る。

そこには…

飛龍スカイドラゴン!?」

そこには巨大な翼を羽ばたかせながら巨大な体躯を空中に維持する、飛龍がいた。

その姿を見た俺は絶望していた。俺の前に姿を現したのは通常の飛龍の2倍はあるであろう巨大な個体であった。もしかしてこの島の主なのか…?

ギャアォォゥゥ!!!

耳をつんざくような咆哮をしながら陸上に足をつける。その時の翼の風圧で体が動かない。

俺と飛龍の距離、わずか10m。こいつがブレスを吐く事が出来れば距離による威力軽減無しの最大火力が飛んでくる。直撃どころかかすっただけでも助からない。

「…もう終わりか」

内心既に死を覚悟している。ドラゴン相手に逃げることは出来ない。今思うことはあの爆発の原因はレギアスとコラルだ。何故あの二人がそんなことをしたかは分からないが…昨日と今日に聞こえた謎の声、あれが言っていたのはこのことだったのか…。

「…最後の足掻きくらいはするか」

そうだ、何もせずにただ死ぬのは嫌だ。もしかしたら倒す事が出来るかもしれない。そんな事が出来たら奇跡か。

シュウウゥゥゥ…

俺が戦う決意を固めるとドラゴンが口を開け息を勢いよく吸う。その喉奥は赤く光りつつあった。

まさか…ブレス!?

それに気づいた瞬間、左手に持ち武器の短剣を構え俺は動き出した。このまま消し炭になる前にあいつを怯ませればブレスは防げる。

「いっけー!」

俺は飛龍の首の根元に飛び込む。脚や胴体は固いはず。それを考え首に飛び込んだ。

しかし標的がただ俺一人。それはドラゴンの注意を分散できないということ。周りに気を取られる存在がいない。

「…ぐがっっっ」

ドラゴンのフリーになっていた左前脚が俺を潰す。飛龍なのに足を使うのが上手なこった。

「くっ、この…」

俺の上にある左前脚を切りつける。しかし予想通り全く歯が立たない。傷一つ付く様子がない。

「ま…ずっい…」

体を潰されているので呼吸がしにくくなる。このままだと窒息で死ぬ。

「くっそ…」

どうにか退けるため残る体力を使い飛龍の顎へ短剣を投げる。

「…おっら!」

投げ込んだ短剣はうまく顎に刺さる。

ギャッオ!!!

飛龍は少し怯み俺の上から脚を退ける。よしっ。すぐさま体を起こし距離を取ろうとする。

しかし…

「あっがっっっ」

一瞬背を向けた際に左腕を噛まれ、そのまま宙に持ち上げられた。う、うで…が…。

俺が声にならない声を出していると

メキメキッという音を立て俺の左腕が嚙み砕かれた。

「ウガァァァ!!!」

あまりの激痛に大絶叫が出る。そのまま左腕がなくなり地に落ちる。

地面に打ち付けられた全身を激痛が駆け巡るが、それ以上に左側を見る。そこには俺の左腕はなく赤い血液が大量に流れている。

…あっあぁ。放心し空を見上げる。そこには俺を覗き込む飛龍の姿があった。

死んだな。最初から分かっていたが俺一人で勝てる相手ではなかった。下手に抵抗せずブレスを食らっていればこんな痛みを味合わずに死ねたのかな。そんなことを考えていると、キリルとフィララの姿が思い浮かぶ。その後は今までの人生が爆速で駆け回る。なるほどこれが走馬灯か…。

ガァァァ…

飛龍は口を開け俺に近づく。こいつ…俺を食うつもりか…。まぁいい。どうせこのままだと俺は失血死する。どのみち死ぬのならお前の腹の足しになればいいさ。

俺は食われる覚悟を決め目を瞑る。じゃあな、みんな…。

……………。

あ…あれ?食われない?

一向に食われる様子がなく目を開ける。

すると…

『ふっ、面白い』

間近に迫っていた飛龍から声が聞こえる。…え?喋った?

『このままだといけないな』

そう飛龍は言い、突如体が光る。な、なんだ?

「人間。私はヒスイ。貴様達の言うドラギス島、五大龍王が一匹だ」

先程まで目の前にいた飛龍は光の中、女の子へと変化した。

これが飛龍の王、ヒスイとの出会いだった。

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