dropkiss

棺桶屍乃

短編

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この地には昔から吸血鬼がいると噂がある。それを信じないものもいたし信じる者もいた。だが、ある事件をきっかけに信じていなかったものも、信じざるを得なくなった。


女性が次々行方不明になる事件があったのだ。そして、その女性は2日後の朝になると森の入口に捨てられたように遺体になって捨てられるのだ。そしてその遺体の特徴は血が一滴もないということ。干からびているのだ。これは人間がしようとしてできることでは無い。だから吸血鬼の存在が知れ渡ったのだ。


それを聞いた村の祭司はある儀式を行った。次に村に生まれる子に吸血鬼を殺す能力をと神に祈った。しっかりと聖水の中に鏡をひとつ落とし、朝日が反射し、女神像にあたるようにと儀式は上手くいった。これで吸血鬼を退治できる子が生まれるはずだ。



3ヶ月後、この村に1人の娘が生まれた。

だが、その子はとある病気を持っていたのだ。吸血鬼と出会わなければ寿命が永遠に少しずつ縮む。それから、吸血鬼退治が上手くいかなかった場合寿命がその度に縮む。

本当に吸血鬼退治のために生まれてきたのだ。


少女はくろすという名前を祭司から授けられた。聖なる少女は小さいときから祭司と村の護衛団に剣技の稽古をさせられていた。

だが、少女は本を手に取っては外国へ行きたい、吸血鬼のいない世界に行きたい。


そう願っていたのだ。


少女が10歳になったとき吸血鬼がいるとされる城へ連れてかれることになった。

吸血鬼の城へは生きて帰ったものはいないから少女1人で行くことになった。


「私はここで死ぬのかな、でも私が行かなきゃダメなんだ。」


そう言ってドアをノックする。

コンコンっ


何も返事はなかったが、ギギギ…とドアが開く。


中は暗かったがいきなりロウソクが着いた。


「俺の城に何の用だ小娘」


玉座に座った吸血鬼がこちらをジロっと見下ろしてる。


その威圧感に少し後ずさったがこちらも引き下がれないのだ。


「私は吸血鬼殺しのために生まれた人間」


淡々と話す。


吸血鬼がふふっと笑うと玉座から降りてくる


「こんな嬢ちゃんが吸血鬼殺しなんてもんを俺に言うのかい…?」


顎に手を添えられる。ふわっと甘い香りが漂う。頭がクラクラする。


「離れて…下さいっ!!」


祭司の防衛魔法が発動し、ぶわっと風が吹き、吸血鬼を離す。


「ほう…中々に面白い小娘だ。」

ククッと笑い小娘に言う

「今日は帰れまた次交戦しよう」

その直後目を開けると森の入口にいた。


私の手の紋章をみると-の文字はないから今日は寿命は縮まらないらしい。これって毎日吸血鬼のところに行かなければならないのか?とりあえず祭司の元へ帰った。


そして毎日毎日吸血鬼の城へ行っては剣を振りかざしても突き飛ばされ明るくなったかと思えば森の入口にワープしている。


14になるとその吸血鬼と喋ったり、森へ散歩するのが習慣になっていた。祭司にはしっかり今日も戦ったと報告はしている。私はこの人が悪い吸血鬼とは思えなかった。

剣技を極めようとしてたまに戦いを挑む時もあったが本気で私を殺そうとしない。

私は貴方を殺そうとしているのに。


私もそろそろ諦めがついていた。とっくに時間は過ぎ少女は16になっていた。

手の紋章は時が経つにつれ痛みを伴った。

そろそろ寿命なのかなと思ったが私は吸血鬼の城に行くのが毎日楽しみだ。今日もこれから行く。今日は色々あって行くのが夜になってしまった。


「吸血鬼さーん」


と言いコンコンとノックする


「い、今来るなッ」

と声がしたが明らかに苦しんでいそうなので開かれたドアへ向かう。


玉座から降り、膝まづいている吸血鬼の姿が見える。その瞳は紅く染まっておりこちらを見ると手が伸びる。


「ダメだ俺は今お前を襲ってしまう…」


なるほど、昔吸血鬼に襲われたってこういう事だったのか。夜に吸血鬼に会ったことは無かった。吸血鬼は夜ずっとこの衝動に耐えているのだろう。人間を襲い、血を飲みたいという衝動を。


「いいんだよ、吸血鬼さん。もう私はそろそろ死ぬんだし誰かの役に立ちたいよ。」


自分の寿命をなんとなく言う。手を見せる。


「その…紋章はッダメだッ」


わかってる。自分だってこんなことしたらダメだって知ってる。だけどずっと私は1人で貴方しか居なかったから。


「いいの。私からの純愛だよ。」


吸血鬼に抱きつく。


「さぁ、飲んで?私の寿命搾り取って。」


吸血鬼が涙を流しながら


「…すまない」


と聞こえた。

それからは覚えてない。


なんでこのタイミングで小娘は俺の前に現れたんだ。そう思っていたら本当に自分の身を俺に捧げやがって。身勝手にも程がある。もし俺が手加減できなかったら死んでしまうんだぞ…。


「何としてでも生かす。いただきます…」


この小娘首が白くて傷つけたくなる。とりあえず睡眠魔法はかけてあるから痛くはないはず。首に噛み付く。血の甘い匂いがする。

ああすき。この血は特に美味しい。

飲みすぎそうになるのを抑える。また飲みたい…そう思ったら全身に痛みが走る。なんだこれは?そう考えていたら吸血衝動が収まった。小娘の手から声が聞こえる


「そなたは吸血鬼を辞めれたのだよ。この小娘もまた、吸血鬼殺しを辞めれたのだよ。」

なるほど。そういうことだったのか。



ことりの鳴き声が聞こえる。


(あれ…?私は生きてる…?)


目を開けるとそこは吸血鬼の城だった。

私は吸血鬼のベッドで眠っていたらしい。

そう言えば手の痛みがない。そう思って手を見てみるとそこからは紋章が消えていた。

「あれれ…?どういうこと?」


すると奥から吸血鬼がでてきた。


「おはよう。俺の吸血鬼の力もお前の吸血鬼殺しの力も消え去ったってわけ。俺が血を飲んだことで混ざりあったんだ。」


私の寿命も伸びたってこと…?


「まだ私は生きられるの?」


「そういうことだ。」


特に喜びという感情は出なかったが重荷を取り除かれほっとした。


「吸血鬼さんの寿命はどうなったの?」

と聞くと

「多分お前と同じくらいだろうな。俺も歳は取っていても不老不死だったから。」

それを聞いて少し嬉しかった。これからもずっと居たい、そう思ったから。

「ねえ、吸血鬼さん、私ここに住んでもいい?」

そう聞くと

「ああいいよ。残りの生涯共に過ごそうな。」

と言われその時初めて人間に生まれて良かったと思えた。



いつからか吸血鬼の城は普通の人間の夫婦が住んでいる城になり、吸血鬼は殺され、吸血鬼殺しの娘も殺されたということになったらしい。


何時までも異形の2人は幸せをつかみ続けたとさ。


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