第94話 白い車
廊下に出ると、セバスティアーノがにやにやしながら聞いてきた。
「どうでしたか、乗り心地は?」
同じ質問を他の署員から何度もされ、ジャンニはすでにうんざりしている。
「素晴らしいよ。次に買い換えるときは考えてもいい。当分は見たくもないけどな」
チンクエチェントは証拠品として牽引されてくることになっている。
「で、エロ教授はなんだって? あの大嘘つきの変態おやじ、マヤには今週会ってない、なんて
「画像はすべて1カ月以上前のものでした。フォルダの日付が新しいのは内部のファイルを編集したからだそうです。画像サイトに投稿したのは認めてるけど、撮影したのはすべて公共の場で、他の学生の写真についても遠くから撮っただけだと」
「おなごの下穿きを隠し撮りする野郎だぞ。被害者の中に学生もいるに決まってる」
「スカートの中の写真は拾ってきたか、例の店などで女性に声をかけて撮ったと言ってるんです」
ジャンニは片手をあげた。
「待ってくれ。意味が分からん」
「ネット上で見つけて保存したんじゃないかと……」
「そこじゃないんだ。声をかけたってのは?」
「適当な相手を見つけて、許可を得て撮らせてもらうんだとか」
「盗撮じゃなくて盗撮風の演出か? お願いしてスカートの中を撮らせてもらう? そんな話、誰が信じるか。こっそりチラチラ見るから興奮するんだろうが。あのハードディスクの中身を徹底的に調べてもらえ。絶対に尻尾をつかんでやる」
「メタデータが付いてる画像だけで数千枚ありそうですよ」
コスタ教授は会員制パーティなど聞いたこともないと言い張った。しかし、その主張は徐々に変化していった。
――まあ、確かに話は聞いていましたよ。でも参加したことは……。いや、そう言われると1回くらいはあったかもしれない。でも見学しただけで、加わったというわけじゃ……。
「ちなみに、別の大学教員の紹介で参加したそうです」
「おれも大学教員になってればよかったよ」
何人かが手分けして監視カメラの映像を確認していた。レンツォが自分の前にある端末の画面を示した。
「高架橋を斜め上からとらえた映像なんだけど、白い車が来るから見ててほしい」
それは一瞬の出来事だった。画面下から白のセダンが現れる。それが橋を渡って反対岸にさしかかろうとしたとき、中央分離帯に何かが飛び散った。
映像が一時停止され、撒き散らされた物品も時間を止めた。長い紐がついた物体は河原に落ちていたマヤのポーチだ。車線の隙間から下に落ちていこうとしているのは携帯電話に見える。運転席側の窓から投棄されたらしかった。
停止を解除すると、車はそのまま走りつづけて小さくなった。ジャンニは映像を少し戻し、白い車を指さした。
「ルノーだ。きっとフラヴィアの車だよ」
フラヴィアが車の窓からマヤの所持品を放り投げた? それはありえない。ビデオの表示時刻は午後9時半少し前。その時間、フラヴィアは公園で死んでいた。となると、運転していたのはマヤ本人か、あるいは……
「この携帯電話はどうしたっけな」
河原で見つかった携帯電話はバッテリーが切れたまま証拠品保管用の引き出しに入れてあった。通話履歴を調べると、フラヴィアからの着信が記録されていた。時間は前日の午後7時20分だ。
ラプッチが通りがけにジャンニを呼びつけた。
「あとにしてくれ。忙しい」
「いや、今すぐだ、警部。オフィスへ来たまえ」
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