第2話・偶然


次の日


『本当は…すごく……いの』


また薄暗い顔の子が出てくる

なんて言ってるか聞き取れない

そんな子を俺はまたそっと抱きしめた


『ねえ……ないで…』


また聞こえない

何言ってんだろ?


「…ないで!」


ん?


「寝ないでってば!」


俺はまたまもりの声でパッと目が覚める

くそー!夢の中でいいから女の子に抱きしめられたかったのによー!


「まもり!まーたお前かよ!

何しに来た?」


「何って毎日起こしてくれって言ったの涼君じゃん」


毎日?

そういえばそんなこと言った気がするな

リビングに行くと今日はチョコチップメロンパンがあったのでそれを頬張る


「ほら、行くよ」


まもりがまた俺を引っ張るように声をかける

ったく、俺は犬じゃねーんだぞ

はあ、くそだりーな

こういう時にまゆちゃんが居てくれればこのだるさは一気に解消されるはずだ

なんて思ってる時だった


「ん?」


よーく遠くの方を見てみる

あの後ろ姿は…俺にはわかる

まゆちゃんだ!!!


「まもりごめん、野暮用が出来た」


と言って俺は走り出す


「はあ!?また!?」


「じゃあまたな!」


多分まもりは怒っているだろう

まあでも仕方ない

これだけは仕方ないのだ!


遠くから見るとまゆちゃんは小柄だなー

あー早く声が聞きたい

もう学校に着いてしまう

校門前にいるまゆちゃん

そして近くまで行き


「まゆちゃん!」


声をかけると

サラサラな髪を揺らして振り返り


「お、涼真君おはよー!」


可愛い〜〜〜〜

やはり癒された!

こんな子と毎日登校したいわー


「涼君?」


「あはははーその呼び方は俺の幼馴染の呼び方だからちょっとなー」


「え?何も言ってないよ?」


「え?」


俺は何故か背中から殺気を感じた

まさか後ろに怒り狂ったまもりがいるんじゃないだろうな?

恐る恐る振り返ると


「……ど、どうもー」


まもりの背後には(殺す殺す殺す殺す)と書かれているオーラが纏っていた

な、なんだ??

ヤバい気しかしないぞ


「もう、今日という今日は許さない!」


「わーーー!!!!!!」


昨日も一緒に帰る約束をして途中でぶっち

今日は起こしてもらう約束をして途中でぶっち

ん〜何とも怒られる内容だ

俺は捕まったら何が起こるかわかっていた

きっと顔の原型がわからなくなるほどボコボコにされる

まもりは空手黒帯だしな


俺が叫ぶと


「きゃあーーー!!!!」


と同じくまゆちゃんも叫ぶ

俺とまゆちゃんは一斉に走り出した

な、なんでまゆちゃんまで逃げるんだ???

君は全く関係ないんだぜ!?

んたことはどうでもいい!


「待てー!!!」


当然のごとくまもりは追いかけてくる

走っているとまゆちゃんの走るペースが遅いのに気づく


「ま、まゆちゃん!?早く!」


まもりは足が早いほうなんだ


「まゆちゃん!左!」


左に行くと学校の非常階段がある

その階段を登ると左右に扉がある

右の扉が職員室に繋がる扉

左の扉が2年生の校舎

一か八かにかけよう

俺とまゆちゃんは右の扉に行く

と見せかけて左の扉に行った

これでまもりは右の扉に入るはずだ


「ふぅー助かった」


「危なかったねー」


なんて言いながら歩いていた


「まゆちゃん、なんで一緒に逃げたの?」


「んー、なんか母性本能働いちゃって」


「ん?もしかした防衛本能のことか?」


「あー多分それ」


もー!言い間違えも可愛いんだからー!

ゆっくり歩きながら階段を下る



「りょーーーくーーーん??」


え?

後ろの方から恐ろしい声がした

振り返ると

やはりまもりだ


「て、テヘッ(⌒▽⌒)」


「んふっ(*´꒳`*)」


笑っちゃうよね!



「もうーー逃がさないよー!!!」


「ぎゃあーー!!!」


階段を勢いよく下ると


ゴツッ!


「ひゃ!」


まゆちゃんが階段を踏み外す


「あぶないっ!」


俺はとっさに手を差し伸べたが

そのまま俺が下になるように階段から落ちていった


「りょ、涼君!?」


段差がないところまで落ちた時に聞こえたのはまもりの声だった

背中がいてー

そんな衝撃より


「ご、ごめん涼真君!」


俺の上に乗って抱きついているのはまゆちゃんだ

なんだこのシチュエーションは

抱きついてるし走ったからまゆちゃんの息が耳にかかる

一向にどこうともしない


「だ、大丈夫?」


俺が呼びかけても返事がない

だんだんと息も上がっている気がする

とりあえず起こす


「りょ、涼君大丈夫?」


まもりも心配でこっちに来る


「あぁ、俺は大丈夫」


俺は大丈夫だけど

まゆちゃんが心配だった


「まゆちゃん?」


起こしてみたけど何故か辛そうだ


「うん、はぁはぁ

大丈夫だよ」


そう言うとまゆちゃんは俺の制服の袖を両手で掴んだ


「マジで大丈夫か?」


「うん、ありがと、はぁはぁ

しばらくこうさせて?」


走るだけでこうなる人俺は初めて見た


「ごめん、涼君、

私が追いかけちゃったから」


「まもりのせいじゃないよ

せっかく起こしてくれたのに置いていった俺が悪い、ごめんな」


まもりはまゆちゃんの肩をポンッと置いて


「ごめんなさい、私のせいであなたまで巻き込んじゃって」


と優しく言った

まゆちゃんは首を横に振る


「ううん、楽しかった」


汗をかいて息を切らしながら笑顔でまゆちゃんは言った


「涼君、私もう大人しく教室に行くね」


まもりは反省の色をここでもかというくらいに出しながら言う


「おう、じゃあまたな」


とぼとぼと帰るまもりの背中を見送った


「俺らも行くか」


「うん」


俺とまゆちゃんは教室に向かう前に

ちょっと休ませようと学校内のベンチに座らせた


「ごめんね、走るとたまにこうなるの」


「喘息かなんか?」


「うん、そんなとこかな?」


とりあえず、一回落ち着かせるが

なんだろうな、隠してるつもりではいたが


ドキッ!ドキッ!ドキッ!ドキッ!ドキッ!ドキッ!


俺の心が落ち着かねぇ!

こんな可愛い子にあんな抱きつかれたら落ち着いてられねぇ!

ドキドキが止まらない

なんだよこれ初めてだぞこんなの

俺はドキドキを抑えながらもまゆちゃんと教室に戻った


そして日曜日

予定通りボウリング場にやってきた

葉月は普通に上手いという感じだが

俺はそれ以上に上手い


ガゴーーン!!


「おぉー!またストライクか!」


俺のうまさにみんな感動している


「ほら、涼真、まゆちゃんに教えてやれよ」


お、そうだった

元々そのつもりだったけど


「まゆちゃん、教えようか?」


「うん、ありがと」


あれ以来

ドキドキが止まらないんです

なんでこうなったかはわからない

でも完全に俺はまゆちゃんを好きになってしまったのかもしれない

可愛いだけで好きになるってのはよくあることだけど

色んなハプニングも交えて好きになったのは間違いない


「よろしくっす!先輩」


まゆちゃんは変わらず柔らかいテンションだった

なんか一つ一つの言動が可愛く思えてしまう


「まずね、手首を真っ直ぐにすると真っ直ぐ行くよ」


「カーブはどうやるの?」


「カーブはとりあえずいいから真っ直ぐ」


「手首曲げるの?」


「曲げない!真っ直ぐ」


「手首真っ直ぐにするとボールは曲がる?」


「カーブのことしか考えてねーな!」


この子やっぱあほだ


「手首を真っ直ぐ、で、あそこの点々の真ん中から左の2個目くらいから投げると真っ直ぐいくよ」


「おっけー!」


と言って投げるがほとんどガターだった

ほんとに得意じゃない人ってこうなんだよな


可奈ちゃんはわりと出来てる方だった

この差はなんなんだろう?


ボウリングは楽しく終われたけど

ドキドキしてるの俺だけなのかなって思うくらいまゆちゃんは自然だった

そうなるとあの時抱きつかれたのも袖を掴まれたのも

まゆちゃんにとってはなんてこと無かったのかな?


少し不安が募ったまま次の日を迎える


『もう、無理しちゃって』


無理?そんなのしてないぞ

なんなんだ毎回

だんだんと夢の中の女の子に無関心になってきた


「ほら、涼君!」


またまもりの声で起きる


「よう、ありがと起こしてくれて」


「今日はやけに素直だね」


うん、この間のこともあったからかもしれない

いつも起こしてくれるまもりには感謝だ

大人しくまもりと学校に行く


はあ、思えばまだまゆちゃんと会って3日しか経ってないんだよなー

たったの3日間でこんなにも俺の気持ちが踊らされるとは思わなかったな


「涼君、まゆちゃんって子とはどうなの?」


と、ニヤニヤしながらまもりが聞いてくる


俺はまゆちゃんという名前を聞くだけでドキッとくる


「あ、あーまゆちゃん?

べべべ、別になんもねーよ?」


明らかに動揺して答えた


「へー、まゆちゃんから何かしてきたり?」


何かってなんだぁぁーー!!!


「あるわけねーだろ!

まだ3日しか経ってねーんだよバーカ!

頭丸めてこい!」


と俺は強めに言った

さすがのまもりでも一応女の子だから傷つけてしまったのかもしれない

なんでこんなこと言ったのかと後悔しても遅かった


キラリっ

キラリっ

キラリっ


「じゃあ涼君、口の利き方には気をつけてね?」


「あい、ずびばぜんでじだ」


俺は顔の原型がわからなくなるほどボコボコにされた


教室に行くと葉月が一足早く来ていた


「よう、」


軽く挨拶を交わすと


「おう、今日まゆちゃん休みだってな」


えぇ!?なんで!?


「マジ!?昨日まで元気だったじゃん!」


ずっと笑顔だったよなー……ドキッ!

くそっ!あの笑顔を思い出すだけでドキドキする


「喘息だって言ってたぞ」


「そっかー……なんで知ってんだ?」


「それはだなー

これは涼真には言わない方がいいか」


カチャ


俺は葉月に銃を向けた


「可奈ちゃんから聞きました」


笑いながら手を上げる葉月

なんだ可奈ちゃんからか

内緒で連絡取り合ってたら撃ってたわ


てか、まゆちゃん喘息持ちだったんだな

だからあの時苦しそうだったんだ

しばらくすると可奈ちゃんも教室に入ってくる


「おはよー

まゆが今日休みなの聞いた?」


第一声でまゆちゃんのことに触れる可奈ちゃん


「葉月から聞いた」


「喘息で休みって相当やばいよね

昨日まであんなに元気だったのに」


確かに、そんな素振り全くなかったもんな


「お見舞いにでも行くか?」


と、葉月が言う

おい葉月ー毎回毎回ナイスなんだよなー


「いいね!まゆも喜びそう!」


待てよ?お見舞いってことはまゆちゃんの家に行くってことだよな?


「行きましょう」


俺はいい声で言った

これはあくまでもお見舞いです

決してまゆちゃんの家に上がってタンスを開けて

下gげふんげふん!


あれ?わたし何か言いました?


学校が終わり

まゆちゃんの最寄りの駅に着く

まゆちゃんの家に確実に近づいている

1歩進むたびに心臓がやんちゃし出す

わりと田舎の方に住んでるんだな

田舎なのにでっかい病院が見える

変わったとこだな


そうこうしてるうちに


「着いたよ」


可奈ちゃんが足を止める


「可奈ちゃんってまゆちゃんと友達だったの?」


「いや?入試が一緒だったってだけだよ

でも入学初日にまゆの家に行ったからさ」


「あーそうなんだ」


そして

可奈ちゃんはインターホンを押す

すると


ガチャ


「わぁぁーー!みんなー!」


出たのはまゆちゃんだった

いきなりご本人登場かよー!!!


「まゆ、身体大丈夫?」


可奈ちゃんが心配そうに言うと


「うん!とりあえず大丈夫だよ、

心配かけてごめんね、昨日の夜に急に来ちゃったからさ

明日になれば良くなると思う」


「あんまり無理すんなよ?」


葉月も心配そうに言う

そうそう、休んだら俺が悲しくなっちゃうからな


「じゃあ用事はそれだけだからお大事にね?」


可奈ちゃんが頭をポンポンと叩いて


「ありがとー!みんなも元気でね」


「うん、ばいばい」


ばいばい、まゆちゃん


「…………」


「…………」



あれ!?


俺、今の会話、全然喋ってなかったよね?

ちょっとみんな読み返してみてよ

全然喋ってなかったよね?


「じゃあ帰ろっか」


駅に向かう

今すべて解き放つとまゆちゃんに聞こえるからやめておく


駅に着いた瞬間


「しまったぁぁぁぁーーーー!!!!」


俺はシャウト気味に叫んだ

喘息ってなんだ!?

お見舞いってなんだ!?

誰か教えてくれーーー!!


ちくしょー

後悔だけが募り

家にとぼとぼと帰った

LINEの一言でも入れておこうかな

でもなんて送ろう!わかんねーなー

と思ってる時だった


急にスマホの画面が明るくなる

そこには『まゆ』と書かれている

まゆ!?

まゆちゃんからのLINEだった

俺は急いでLINEを開く


すると内容は


【涼真君、今日はありがとね!(^o^)】


これは個人的に俺に言ってるんだよな?

めちゃくちゃ嬉しい

嬉しいからこそ返信に気をつけなければいけない

なんて送ろ?


LINEでドキドキするのなんて

姉貴のパンツが何故か俺の部屋にあってどうすればいいかわからないからLINE送った時以来だな

それもドキドキの種類が違う

とりあえず空気になってたことだし

守りに入ろうかな


【いやいや、元気そうでよかったよ!】


送信


あーー!!!ドキドキするなー!

早く返信来い!


ブゥー!


来た!


【ごめんねー心配かけて

明日には戻れるから安心してね!】


うん、これは続かないLINEだ

これでお大事にーって言って終わるんだろ?


しかし!!

ここから続けるのがこの俺だ!

女の子とのLINEでの戦いに敗れ百戦錬磨の男と言われた俺だからこそ!!出来ることがある!!

電話とかと違って考えながら打てるからいいよね


【そっかーよかったー

可奈ちゃんが言ってたよ

喘息で休むって相当だって】


送信


よし!こい!返信来い!


ブゥー!


来たー!!


【ありがとー!ただの喘息だといいんだけどねー笑笑】


………ただの喘息だといいって

なんだそれ?

喘息じゃない時あるのか?

なぜか俺は怖くなる


だからこそ


【そっか!でも体調には気をつけてね

お大事にー】


LINEを終わらせた

喘息じゃない場合は何があるんだろう?

本当に怖くてこれ以上LINEは出来なかった

それから次の日になるとまゆちゃんは普通に登校してきていた

相変わらず元気な姿に俺は安心していたけど

本当に大丈夫だといいんだけどなーー

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