第8話 イブと妹

「先生、なんて言うとった」

 夕食の後、二階の部屋で小さなガラス張りのテーブルを挟んで向かい合って座っている。

「あんな、取り敢えずその子にそれと無く聞いてみるそうや。先生はいじめに気付いてなかったて」

「女の子もおるのに、三人がかりでズボン下げるんやで。女の子がキャーて叫ぶのが面白いんやな。プロレスごっこやて。本気でケリ入れてるくせに。うちが男やったら蹴り返してやんのに」

 そう言いながら膝を立ててその動きを真似て見せる。なんか知らん間に、おてんばな性格がきつうなったように思う。


「あんたの名前は出さんように頼んどいたから大丈夫やと思うけど、暫らくは、なんもしいなや」

 妹は少し気を取り戻したのか、茶目っ気な顔を見せながら、

「んで、アダムはお元気ですか」

 妹の口からその名前を聞かされて、即座に彼女の盗み見を確信した。

「あんた、手紙、読んだな。あのな、姉妹の仲でもな、してええことと、あかんことがあるやろ」

 今にも跳びかかるような勢いで身を乗り出した私を尻目に立ち上がり、部屋を出る間際に、

「見られたくないんやったら、机の上に置きっぱなしにしいなや」

 おまけに面白がって、

「ディア、アダム。ディア、アダーム」

と、少し声高に口にしながら階段を下りていった。腹が立ったが、なーんや元気なんやと思い、気を揉んでいた自分が少しあほらしくなる。


「ディア、アダム。

 信じられないことが起きました。妹がアダムの手紙を盗み見してました。本当にごめんなさい。うっかり、机の上に置き忘れた私のせいです。

 前から、私たちの文通が気になっていたことは薄々感じていましたが、まさか、姉の手紙を読むなんて、言ってみれば私たちの日記のようなものでしょう。

 一応叱っておきましたが、これからのこともあるので鍵付きのレターケースを用意しました。今更ですが、前回までのアダムの手紙の内容を、幾らか妹に知られたことを覚えといて下さい。


 改めて、アダムの小学校の頃の体験を教えてくれたことに感謝します。アダムの少し悪ガキっぽい所を知って、何故か逆に親しみが増しました。

 いじめについて、この先のことはまだ分かりませんが、進展があればその都度報告します。当事者でない私が出しゃばるのは良くないと思いますが、妹思いの姉と受け止めて下さい。

 明日、土曜の午後に他校との練習試合があります。私が出るわけないから気にしないでね。アダムの方はどうですか。一年生はなにかと雑用を押し付けられますよね。期末試験、お互いに頑張りましょう。                       イブより」

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