「銀河鉄道の夜」と私
清瀬 六朗
第1話 塾のテストの問題文
私が宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に出会ったのは、小学校6年生のとき、通っていた学習塾での国語の問題文として、でした。
物語の冒頭、「銀河とはほんとうは何かご承知ですか?」と先生にきかれたジョバンニが手を挙げようとしてやめてしまい、やめてしまったにもかかわらず先生に当てられて、答えられずに黙ってしまう場面です。そこで親友のカムパネルラが当てられるのですが、カムパネルラも立ち上がっても答えられない。それで、先生が銀河について、それがレンズ型の星の集まりで、私たちはそれを横から見ている、という科学的な説明をします。
テストの問題文であるにもかかわらず、私にはこの文章が強く印象に残りました。
ジョバンニは銀河が星の集まりであることは知っています。それは学校でまだ教わっていないことです。まわりの子たちはそのことは知らない。そして、まわりの子たちは、「川」とか「乳の流れたあと」とかいうのと同じような答えを考えるでしょう。そこで自分が「正解」を言ってしまえばどうなるか。最初はバカにされるでしょうし、先生が「それが正解だ」と言えば、何をえらそうに、と
そういう心の動きが、手に取るように、描写しすぎることもなく、描写し足りないこともなく、描かれている。
そのあと、ジョバンニの親友のカムパネルラが当てられて、やはり答えられずに黙って立ち尽くしてしまう。こちらはほんの短い描写なのに、カムパネルラの心の動きがよくわかる描写です。
小学生のための国語の問題文ですから、引用されている部分は冒頭の短い部分だけでした。「出典」も書いていなかったのですが、私は、この文を読んで、これは宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」という物語ではないか、と思いました。
なぜそう思ったのか、いまとなってはわかりません。
まず、小学校の図書室にあった本のタイトルとして、このタイトルを覚えていたからでしょう。そして、ふだんの生活では使わない「銀河」ということばが出て来たからではないかと思います。「銀河」ということばが出てくる物語ならば「銀河鉄道の夜」に違いない、と思ったのでしょう。
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