ロボット兵士の最後
シイカ
ロボット兵士の最後
廃棄されたくず鉄で作られた道をひとりの『人間』が歩いていた。
その人間は動きがぎこちなく、ボロボロの帽子を目深に被り、長いマントを羽織っていた。
この人間は死なない兵士として造られた『ロボット』だった。
ロボットに性別は無く、『男の狂暴性』と『女の残虐性』だけをプログラムされていた。
兵士の戦いに感情はなく、ただひたすら敵とされるものを『排除』してきた。
しかし、死なない兵士には欠点があった。
メンテナンスである。
大量に造られたが故に不具合が多く、1億6千万体いた兵士のうち、最初に5千を失った。
不具合はさらに続き、1か月の間に1億がくず鉄と化した。
しかし、残った6千万の兵士だけで、世界を侵略することなど容易かった。
月に1回1千万体ずつメンテナンスを行い、兵士は生き続けた。
敵がいなくなり、侵略は完了したかと思われた。
が、兵士たちは生みの親である、科学者、指揮官、開発命令者を排除した。
敵を倒すことだけをプログラムされた兵士は自ら敵を探すようになった。
そして、真の地獄が始まった。
兵士たちはお互いを排除しだしたのである。
一度、敵と判断すればその排除活動は終わらない。
その中に1体、兵士たちとは違う行動に出た者がいた。
排除しあう兵士たちの中をゆっくりと歩き、兵士たちが見えなくなるまで歩き続けた。
その兵士は人類が友達として造ったロボットだった。
ロボットは誰もいなくなった町を歩き続けた。
複雑な道を歩き、暗い地下道に辿りついた。
分厚い扉を開けると、同じロボットたちが100体単位でいた。
しかし、そのロボットたちは兵士ロボットたちと違った。
「戻ったのか!」「もう奴らの排除は終わったの?」「おかえり!」
しゃべるというプログラムがないはずのロボットたちは言葉を発した。
帰ってきたロボットが首を縦に振ると、ロボットたちは自分の頭を取り払った。
そこには人間の顔があった。
『男の狂暴性』と『女の残虐性』のプログラムが作動しなかったロボットは兵士から逃げられるルートを探しだした。
そこに、壊れた兵士の機械を抜きとり、鎧として人間に着せ、逃がしていた。
しゃべることのできないロボットは兵士たちがお互い排除しだしたのを地下の住人たちに説明した。
「じゃあ、しばらくしたら、安全に地上に出られるんだな!」
安全を確認したら自分が呼びに来るとロボットは伝えた。
それから半年が過ぎた。
くず鉄と血に染まっていた町は徐々に復興していった。
ロボットは平和になったと思った。
ガチャッガチャッと地面の音に違和感を覚えた。
それはくず鉄で出来た橋だった。
あれだけのくず鉄だったんだ、これぐらいの流用はするだろうと思った。
サラサラと優しく流れる川の音とくず鉄で出来た橋の組み合わせは現在の状況を表した皮肉のように思えた。
くず鉄の中に見覚えのあるパーツがあった。
腕、足、胴体、そして顔……。
そう、自分と同じ姿をした兵士たちで作られた橋で勝利の記念碑だった。
くず鉄に僅かに写る自分の姿に恐怖を感じた。
瞬間、左足の関節部がガクリと動かなくなった。
ロボットは町の友達として迎え入れられているが、自分の姿は排除を繰り返した兵士と同じモノだ。
ゴミ捨て場からボロボロのハンチング帽と長い布切れを羽織り、人間のいない方へと歩き出した。
月に1回受けていたメンテナンスをもう半年以上もしていない。
いや、できなくなったのだ。
メンテナンスを行っていた科学者はもういないのだ。
雨が降りだし、人々は家の中へと入っていった。
ロボットは『1人』あの橋へと向かった。
橋の上で帽子とマントを取り去ると、川へと飛び込んだ。
重い身体は浮いてくることはなく、日が経つに連れ、部品は錆びつき、パーツが流されていく。
そして、そこには何も残されていなかった。
最初からそんな『モノ』がなかったかのように。
くず鉄橋は今でも残り、人間を救ったロボットは誰も知ることはなかった。
ロボット兵士の最後 シイカ @shiita
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます