掌編・短編集

夏目一馬

夢 一

 こんな夢を見た。

 二人で縁側に腰を掛けていた。黄金色でぼやぼやしていた太陽は、いつの間にか真っ赤な丸になっていた。蝉の声に寂しくなってぼうっとしていると、隣に座った女が寂しいですね、と声をかけてきた。ええ、とのみ答えて、またぼうっとしていると、今度は、あなたはいつまでここにいますか、と尋ねてきた。いられるものならずっといますよ、と、再び斜陽に目を向けた。

 少しずつ、それでも目に見てわかるように真っ赤な夕陽は地面に向かって落ちていた。真っ黒な烏がその赤を横切った。もう、行かなければなりません、と女は立ち上がった。なぜです、ほら、まだあそこにある百合も咲いていませんのに、と留めようとした。会わなければならない人がいるんです、と。それならしょうがないですね。肩の力を抜いた。あなたはあの花が咲くのを待っていればいいんですよ、私がいてもおかしいですから、と苦笑した。そうでもないような気がしたが、ぼうっと真っ赤な丸を眺めていると、とくに気にかからないことのように感じた。

 一人で縁側に腰を掛けていた。ゆっくりと空を振り仰いでぼうっとしていたら、さっきまで全身を空中に浮かべていた丸は、いつのまにかその半身が地面にかっていた。寂しい、と胸の裡でつぶやくと、庭の百合のつぼみが右に傾き傾きそのまま地面に触れた。溢れ出た悲しみが、ふうっと震えた息になって現れた。ゆっくりと空を振り仰いでみると、満天の星々が輝いていた。枯れた百合をつまみ上げて、胸に抱いて部屋に戻った。

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