150 11月16日(木) 上下の付く地名って難しい!

 『上』と『下』がつく、対をなす地名ってありますよね。


 たとえば、『かみなになに』と『しもなになに』、あるいは『なにかみ』と『なにしも』といった具合だ。僕の住んでいる街にも、そんな地名がいくつか残っている。


 でも、『上』と『下』が先頭に来る『かみなになに』と『しもなになに』は混同することはないのだが、『上』と『下』が末尾に来る『なにかみ』と『なにしも』は間違えやすい。先頭の『なに』の部分が同じなので、どうしても間違ってしまうのだ。


 先日、そんな『なにかみ』と『なにしも』で、とんだ間違いをしてしまった。今日は、その間違いの話だ。


 道を歩いていると、向こうからハイキング姿の中年のご夫婦がやって来るのが見えた。ご夫婦のダンナさんの方が地図を持っていて、それを見ながら歩いている。ハイキングに来たようだ。最近は、こういったハイキングをする中高年の人が増えている。


 すると、僕とすれ違いざまに、そのダンナさんが僕に声を掛けてきた。


 「もしもし、ちょっと教えていただきたいのですが・・・」


 僕は立ち止まった。


 「はい」


 ダンナさんが持っていた地図を僕に示した。


 「この地図に書いてある、この『ぶどうロード』に行きたいのですが・・・」


 『ぶどうロード』? 初耳だ。


 僕はダンナさんの持っている地図を覗き込んだ。観光用の絵地図だった。


 中央に『ぶどうロード』と書かれた、曲がりくねった道が描かれていた。ハイキングコースのようだ。


 地元の市では、よく道路を『ハイキングコース』に指定して、『✖✖道』とか『◇◇の散歩道』といった名前を付けている。


 どうも『ぶどうロード』というのは、市が命名した『ハイキングコース』の一つのようだった。ご夫婦は観光案内所かどこかで、市が発行しているハイキングコースの絵地図をもらって、その『ぶどうロード』を目指していたのだろう。


 しかし、市のやることは唐突で・・・ある日突然、いつも歩いている道に『△△の小径』なんていう、聞いたこともない表示ができていて、こっちがびっくりしてしまうのだ。『ぶどうロード』というのは聞いたことがなかったが、そんなふうにして、どうも市が勝手に命名したらしかった。


 そういうわけで、僕は『ぶどうロード』のことをまるで知らなかったのだ。


 しかし、地図の『ぶどうロード』の周りには、ランドマークのような目印になるものが何も記載されていなくて・・・実に分かりにくいのだ。この絵地図では、ご夫婦が迷うのも無理はないなあと思った。


 ちょうど、僕が立っている横に小さな脇道があって、そこに『ぶどうの道』という表示がしてあった。


 すると、ダンナさんが『ぶどうの道』の表示を見つけて、僕に聞いてきたのだ。


 「この地図の『ぶどうロード』って、この『ぶどうの道』のことですよね」


 僕は面食らってしまった。僕はその『ぶどうの道』はよく知っているのだが・・・100mほどの何の変哲もない小さな脇道で、入ったところにぶどうの木が数本あるのだが・・・それ以外は何もなくて・・・その脇道を進んでも、民家に囲まれた普通の大きな道路に出るだけなのだ。


 で、僕はダンナさんに言ったのだ。


 「いえ、ここは、この地図の『ぶどうロード』ではありません」


 ダンナさんはびっくりした顔を見せた。


 「えっ、でも、そこにある表示に『ぶどう』と・・・」


 「でも、この道を行っても、何もなくて、普通の道路に出るだけです」


 どうもダンナさんは『ぶどうの道』という表示があるのに、『何もない道路』というのが理解できなかったようだ。無理もない・・・


 ダンナさんが僕に聞いていた。


 「では、この地図の『ぶどうロード』に行くには、どう行けばいいんですか?」


 僕は「う~ん」とうなって、もう一度、地図を覗き込んだ。


 何か目印は書かれていないのだろうか?


 すると、『ぶどうロード』の出口のところに、『〇〇しも中学校』という表記を見つけた。『〇〇しも中学校』ならば知っている。しかし、『〇〇しも中学校』に向かう道が『ぶどうロード』だって? どこが『ぶどう』なんだ? 普通の道路じゃん! それも車がジャンジャン走っている車道だ。


 でも、聞かれているのだから、教えてあげないわけにはいかない。僕はダンナさんに言った。


 「この道をまっすぐに行ってください。すると、坂があって、その坂を上ると、大きな道に出ます。その道を左に行くと、この地図にある『〇〇しも中学校』に着きますよ」


 ダンナさんは喜んだ。


 「よかった。では、その道が『ぶどうロード』というハイキングコースなんですね?」


 「ハイキングコース?・・・いえ、車も走っている普通の道ですよ」


 「はあ?・・・」


 ダンナさんが首を傾げる。どうも説明が難しい。


 しかし、結局、ご夫婦は首を傾げながら、僕の言った道を進んで行ったのだ。


 で、家に帰ってから、ネットで『ぶどうロード』を調べてみた。


 す、すると、『ぶどうロード』の出口にあるのは・・・『〇〇しも中学校』ではなくて、『〇〇かみ中学校』だった!


 『〇〇しも』はすぐ近くだが、『〇〇かみ』はずいぶん遠い。電車で2駅先なのだ。


 僕は『〇〇しも』を『〇〇かみ』と読み間違えて、ご夫婦に近くの『〇〇しも中学校』に行く道を教えてしまったのだ。道理で、あんな普通の道が『ぶどうロード』だなんて・・・おかしいと思った。


 でも、ご夫婦はもっとびっくりしたでしょうね。秋晴れの一日、夫婦でのんびりとハイキングにやってきたら・・・車がジャンジャン走っている道路を歩かされたんだから。。。


 あのときのご夫婦、本当にすみませんでしたぁ・・・


 

 

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