危険な遊び6
「分かる。ちゃんと説明するってば。えーっと」
夕晴はそう言いうとスプーンを咥えたままスマホを取り出した。そして読み上げるようにスマホを見ながらその説明を始めた。
「どんな存在か分からない相手を呼び出すというのは非常に危険。何もないかもしれないけど、何かあるかもしれない。だから備えて損はない。でもその道のプロならまだしも何も知らない一般人がその備えをするのは容易なことじゃない。だけど一般人でもある程度なら身を守れる物は存在する。それは簡単に言えば簡易的な術札だ。多少の知識が必要になるけどそれは覚えれば済む話。でも一番の問題は危機的状況で冷静にこれを行えるかどうか……。まぁこんな感じ。正確には術札だったね」
「それをその荒川さんが手に入れてくれるのか?」
「そう。確か、霊か妖怪かとりあえず相手を閉じ込めてその力を奪い取って弱らせる――だったかな? あまりにもヤバいのが出てきたら意味ないらしいんだけど、この手の話なら大丈夫だろうって」
「おいおい。それホントに大丈夫なのか?」
「それで、閉じ込めたらどうすんだ?」
「もう一枚別の術札があってそれを使って弱った霊だか妖怪だかを消せるらしい。つまり退治出来る。詳しくはまだ分からないけど。でも荒川さんが言うにはまずは対話出来るか試した方がいいって」
「霊か妖怪か分からないそれとおしゃべり?」
言葉にはしなかったが莉緒はからあげちゃんを指した爪楊枝片手に冗談だろと言う表情を浮かべていた。お前も昨日言ってたくせに。とは思ったが口にはしなかった。
「だって荒川さんがそう言ってたんだもん。儀式を必要とするタイプなら連れ去った人間が生きてるかどうか聞けるかもって」
「でもどの道、退治するんだろ?」
「まぁそうだけど。何かあるかもしれないじゃん。ただ退治するだけじゃそのまま一緒に消えちゃうとか」
「相手は悪霊だぞ? もしくはその類。わざわざ丁寧に教えてくれると思うか?」
「じゃあどうするの? すぐにでも退治する?」
「そーだよ。つーかこういうのはやっぱ遊び半分でやっちゃマズいだろ。ちゃんと専門家に頼もうぜ」
「試しにその専門家の料金聞いたけど僕らからしたら中々の額だったよ? それに昔一度やってるんだから大丈夫だって」
「その所為で一人連れ去られたかもしれないのにか?」
「だから今回は対策するんじゃん」
「いーや。せめてもう少し対策を練るべきだな」
「なに? じゃあ莉緒が数年かけて修行でもしてくる? ていうか昨日はオレはふつーに楽しみだけどな、とか言ってたじゃん」
夕晴は若干の嫌味の籠った物真似をしながら昨日の莉緒の台詞を口にした。
「そうだけどよ。よくよく考えたらなんかヤバそうじゃん。それに今度はこの三人の誰かが連れてかれるかもしれなんだぞ」
「そうだけど。じゃあどうするの?」
「知らねーけど……。でもまだその川子ちゃんに連れ去られたかどうかも分かんねーだろ。なのに危な過ぎんだろ」
「でもそれは確かめようがないじゃん」
すると二人の途中から言い合いへと変わりかけた話を聞いていた俺へ夕晴の顔が向いた。
「――じゃあもう、蓮が決めてよ。今のとこ莉緒が反対で僕が賛成。だから最後の票として蓮が決めて」
そう言われ俺はまず一度それぞれの顔を見た。
莉緒の言う事は分かる。確かにまだ昔俺らが呼び出した所為で颯羊が連れ去れられたとは限らないし証拠も無い。もっと言えばもしやったとして無事に颯羊と取り戻せるかも分からないし、また誰か最悪全員が連れてかられる可能性だってある。だから危険と言うのも。
でも夕晴の言う事も分かる。川子が本当に連れ去ったのか確認する方法はない。もし本当に颯羊が連れ去れててまだ助けられるならすぐにでも助けたいし、何より俺らが一緒になってやった事が原因なら尚更だ。それに夕晴はその為の対策として色々頑張ってくれたわけだし。
俺は少し考えてからどっちに票を投じるかを決めた。そしてそれを言葉にする為にゆっくりと口を開いた。
「俺はやる。――でも強制じゃなくてもいいだろ。危険な可能性があるなら尚更な。それとも人数が必要なのか? その術札使うのに」
「いや、そんな事は言われてないから多分だけど大丈夫だと思うよ」
「なら強制はしない。それと言っておくが来なかったからって別に何かある訳じゃない。俺らは今まで通り友達だからな。そこは変に考えるなよ」
俺はすぐにでも溜息が零れそうな莉緒を指差しながらそう言った。もちろん本心だ。全てが。
「それで? いつ届くんだ?」
「んーっと」
「分かったよ」
夕晴のこれから出てくる言葉を前もって遮るように莉緒は少し雑な声を出した。
「オレも行くよ」
「だから別に強制じゃないって言っただろ」
「そうそう。ほんとに来なかったからってこれでからかったりもしないし大丈夫だってば」
「別にそれを心配してんじゃねーの。だってあの時はオレも一緒にやった訳だろ。それが原因かもしれないのに、それを解決する時は行かねーっていうのは都合よすぎるだろ。それに、もしこれでお前らに何かあったらそっちの方が引きずるわ」
俺と夕晴は若干ながら投げやりといった莉緒を見ながらいつの間にか笑みを浮かべていた。心のどこかではこうなるように願ってたのかもしれない。というよりこうなると分かってた気はする。莉緒がこういう男だと俺は知っていた。
「莉緒ってそーゆーとこあるよね」
「なんだよ。そーゆーとこって」
「ほんとは怖いのに僕らの為に頑張るとこ。ほら、莉緒をからかってた名前忘れたけど太っちょのガキ大将みたいなやついたじゃん。ある日、莉緒が突き飛ばされて半べそかいて、それで僕はそいつに殴り掛かった。それから喧嘩になったけど、その時に一緒にいたやつが加勢しようとしたら――莉緒、半泣きでそいつに立ち向かったじゃん。ビビりで弱虫だったけど友達想いで何だかんだ勇気あるんだよね」
確か俺はそのガキ大将と子分が泣きながらその場を去るのと入れ違いながら二人と合流したっけ。
「お前っ! いつの話してんだよ! それにあの時は泣いてねー。突き飛ばされた時に砂が目に入っただけだ! ていうかオレを貶してるのか? 褒めてんのか? どっちなんだよ!」
「もちろん褒めてるんだよ。ていうか感心してる。やっぱり莉緒は友達想いだなぁって」
「褒められてる気がしねぇ。まぁいいや。それで? いつにすんだ?」
「次の土曜とか。場所はあの秘密基地のとこでいいんじゃない」
「それでいいな」
「りょーかい」
「時間は八時とか九時とかそれぐらいで。流石に二時はね。あっ、ちょっと待ってよ」
夕晴はそう言うとスマホで何かを調べ始めた。
「うん! やっぱり土曜でいいね。ほら、」
意気揚々と見せてきたスマホには土曜の天気やら何やらの情報が映し出されていた。
「丁度満月だよ」
確か荒川さんがそんな事言ってたっけ。
「あっ、そーだ。それとちょっと早めに行ってさ――」
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