危険な遊び4
『それはどうだろうね。そもそも、もしそうなったらいなくなった事にさえ気が付かない訳だから完全にないとは言えないよね。もしかしたら気が付かないだけで誰かいなくなってるかもしれない訳だし』
「そうですよね」
『あっ、でもとある文献にはこんな話が書かれてたんだ。ある夫婦がいて妻はある日、夫の浮気を発見した。問い詰めたけど夫は認めず、それに酷く怒った妻はついに自殺をしてしまったんだ。そのとてつもない怨念と共に。そしてその数日後、夫の浮気相手は病に倒れ間もなくして帰らぬ人となった。そして夫も度々恐ろしい体験をするようになったんだ。夫は妻の怨念だと陰陽師に相談した。だけどある日、夫は忽然と姿を消し周りの人間の記憶からも消えてしまった。まるで最初からこの世に存在しなかったみたいにね』
「でもどうしてそれが分かるんですか? さっき言ってたみたいに普通、誰も気が付かないですよね?」
『それは夫が消える前に相談してた陰陽師のお陰だよ。陰陽師は自分のメモを発見したんだ。そこには家の情報だけが書かれてたけど陰陽師はそれが何のメモか全く思い出せなかった。だからその家へ行ってみたがそこは単なる空き家。直感なんだろうね、でも気になった陰陽師が色々と調べてみるとそこには良くないものが隠れてたんだ。まぁ彼の妻だね。そして陰陽師によって退治されるとその夫が戻り人々も思い出したって話。本当かどうかは分からないけどね。まぁ、ひとつ言えるのは人の怨念というのは時にあり得ないような事を巻き起こしてしまうってことだよ。強すぎるエネルギーは時空なんかに干渉して想像もつかないような事を引き起こす恐れがある。もしかしたら忘れてるんじゃなくてこの話でいうところの彼の妻が、ずっと夫と一緒に居る為に彼と自分の存在しないパラレルワールドを作り出してしまったのかもしれない。本来の世界から分枝した別の世界として。でも分枝する前の物は当然残ってる訳だからその一つと陰陽師によってその世界は本来の世界と再び一体化した』
この人は小説や漫画を描いた方がいいんじゃないか? 俺は密かにそんな事を思っていた。
『なんて最後のはただの妄想話だけどね。まぁでも、夕晴君も無闇矢鱈に人から恨みを買うような事はしない方がいいよ』
「気を付けます」
『損はあれど得なんてないからね。他に訊きたい事は?』
「いや、もう大丈夫です。ありがとうございました」
『いやいや。これぐらいどうってことないよ。またいつでも訊いてくれていいからね。こういう類なら話すのはむしろ大歓迎さ』
「それじゃあ何かあったら連絡します」
『はいはーい。それじゃーね』
何故だろうか。聞いていただけだが電話が切れた途端、どっと疲れが押し寄せてきたのは。その疲れに心の中で溜息を零しているとふと叔母の事を思い出した。たまに会えば途切れることなく次から次へと話しをするマシンガントークの叔母だ。別に嫌いという訳ではないが少し疲れる。でもそんな俺を見かねた母が毎回、割って入ってくるから少し話した所で解放されるのだ。これはあの時の疲労に似ているのかもしれない。
「はぁー。物凄い人だったね」
苦笑いを浮かべながら夕晴は溜息の後にそう零した。
「誰かさんは途中から消えてたけどな」
俺は隣でぐっすりと眠る莉緒へ目をやった。
「まぁでも参考にはなったよね」
「そうかもな。で? どうする?」
「結果、やってみないと分からないって事でしょ。でもさ。もし本当にあの時、川子ちゃんが出てきて何も出来なかったから颯羊が連れてかれちゃったとしたら今回もそうなるかも。だってさっきの話だとその復讐する相手はもう死んでる訳だし。そうじゃなくても一体誰かも分からないわけだし。それにどうやって」
「お前の知り合いに陰陽師とかいないのか?」
「いや、流石にそんな人はいないって」
「だよな」
結局、問題解決には至らず俺と夕晴は頭を悩ませていた。一体、そんな幽霊なのか妖怪なのかよく分からない存在をどうすればいいのか。そもそも本当にその川子が颯羊を連れ去ったのかすら定かじゃない。全てが分からないまま。
「そーいやオレ思ったんだけど」
すると寝ていたはずの莉緒が突然そんな事を言い出し、俺と夕晴は同時に顔を向けた。
「いつ起きたんだよ」
「失礼な。ずっと起きてたっつーの」
言葉通りその顔は平然としていて眠気は一切感じない。
「いや、僕も蓮もさっき見たから。無理だから」
「と、とにかく。まずは聞けよ。オレたち三人が見た夢ってあったじゃん。あれに未だ誰か分からない少女もいたじゃんか。もしかしてあれって川子ちゃんじゃね? って」
「なんでそうなんだよ?」
「いやだってよ。あの少女だけ未だに全く分からねー訳じゃん。思い出しもしなければいた感じもしねーし。だからもしかしたら川子ちゃんを呼び出して颯羊が連れてかれたっていう事実が、こうちょっとごちゃってなってあの夢に出て来たんじゃねーかって」
知らない少女と知らない少年がいてその二人を真っ黒な手が包み込む。俺はあの夢を思い出してみた。確かに夢というのは色々な事が混ざり合う事もあるしほとんどが意味不明。莉緒の言う通りこの夢もそう解釈する事も出来そうだ。というかずっと颯羊の事ばかりで今はあの少女が一体誰なのか気にしてなかったけど、莉緒の言うように考える方が自然なのかもしれない。いや、そうなのか?
「もしそうなら尚更、川子ちゃんをどうするか考えないといけないよね。どうやって颯羊を連れ戻すか。というかどうやって颯羊の事を確認するのか」
「訊いてみれば案外、答えてくれるんじゃね?」
「長宅颯羊って男の子知りませんか? って? 本気で言ってるの?」
「他に何かあるか? あっ、それじゃあ夕晴。お前の知り合いに陰陽師――」
「いるわけない」
やっぱり寝てたな、と思わせるぐらい――むしろその時は既に起きてたんじゃないかと思うぐらい全く同じ事を口にしようとした莉緒を夕晴は斬り捨てるように遮った。
「じゃあとりあえず一旦は、また川子ちゃんの話を試すって方向でその為の対策なんかを考えるって感じ?」
「まぁそうかもな。にしても何だかバカバカしくも思えるけどな。ただの怖い話を実際に、しかも真面目に対策して試すなんて。何かが起こる気はしないし」
「そうか? オレはふつーに楽しみだけどな」
「とか言って本当は怖いんでしょ?」
「んなわけ! 楽しみでしかたねーよ」
「じゃあ莉緒一人でやってよ。僕、怖くてやりたくないから」
「嘘つけ。お前この手の話は信じねーだろ。夜の学校に忍び込もーとする人間の言う言葉だとは思えねーな」
「あれは小学生の時の話だし、それに結局してないから」
二人がそんなやり取りをしているとドアの開く音が教室に響いた。
「おーい。お前らーいつまで残ってんだ。そろそろ帰れー」
「はーい」
先生の言葉に代表するように夕晴が答えると、先生は戸締りしろと言いながら教室の鍵を近くの机に置き行ってしまった。
「とにかく、この話はまた明日ね。その間、二人もどうすればいいか調べておくよーに。これは宿題です」
先生にでもなったようにそう言った夕晴は立ち上がり鍵の方へ歩き出した。
そして戸締りをし鍵を職員室へ返した俺らはコンビニに寄り道して家へと帰った。
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