第三章:危険な遊び
危険な遊び1
「さて、さっきの話の続きなんだけど」
結局、何の進展もなかった授業も終わり放課後を迎えた俺らは静まり返った教室で話の続きを始めていた。
「どうすんだ?」
「まずはその都市伝説なのか噂なのか怖い話なのか分かんねーけど川子の話をちゃんと調べるとこからだろ」
するとやけに自慢げで嬉々とした表情を浮かた夕晴が鼻を鳴らすように、んふふーと声を出した。
「実はそう言うと思って授業中に調べてましたー」
「何でそれでオレより成績がいいんだよ」
「別に毎回じゃないし。それにここの出来が違うんだよ」
頭を指でトントンと叩く夕晴。袖を捲り上げる莉緒。
「よーし。かくなる上は力ずくで」
「昔みたいに泣かされるぞ」
その一言に一瞬で撃沈した莉緒を他所に俺は話を戻した。
「それで何か分かったのか?」
「いや。何にもなかった。僕らが今知ってる話の内容はちょくちょくあったけどそれ以上は特に。そもそもそんなに情報自体なかったし」
「結局、進展はなしか」
「今はわね」
これから進展するとでも言いたげな夕晴に俺は首を傾げた。
「実は僕の知り合いにそういう類の話に詳しい人がいるんだよね。その人に聞いてみる」
説明しながらスマホを出した夕晴は呼び出し中の画面を机に置いた。そこには相手の名前が書かれており、
『もしもし。荒川です』
受話器から聞こえてきたのは(こういうのは失礼だが本人に直接言う訳じゃない)胡散臭そうな声だった。
「あっ、どーも。覚えてますか? 夕晴です」
『あぁ。もちろん。三河さんと一緒にいた子だよね。あの時は申し訳なかったね』
「いえ、別に気にしてないのでいーですよ」
『それは良かった。それで? 電話なんて初めてだけど一体どうしたのかな? 夕晴君?』
「別に君でもちゃんでも僕は気にしないですよ。それはいいとして、ちょっと訊きたい事があるんですけどいいですか? それと友達も一緒に聞きたいのでスピーカにしてるんですけどいいですか?」
『もちろん。でもその前にちょっと珈琲淹れてきていいかな?』
「いいですよ」
『それじゃあちょっと失礼』
電話の向こう側で鼻歌と人が離れる音が聞こえた後、受話器からはスマホが壊れてしまったのかと思わせるような沈黙が流れてきた。
「おい、誰なんだ? この胡散臭そうな奴?」
「失礼だなぁ。まぁそうだけど。――彼とはたまたま知り合ったんだ。僕が、経緯は省くけど知り合った女性と遊んでる時にその女性に話しかけてきたんだよ。知り合いだったみたい。その時、僕をその女性の妹と間違えたんだよね。そしてそのお詫びというか謝罪をした後に名刺をくれたんだよ。都市伝説やらオカルトやらに詳しいんだって。正直、今まで忘れてたけど授業中に思い出した」
『忘れてたのか。それは残念だねぇ』
いつから聞いてたのかスピーカーから荒川さんの声が聞こえた。
「それは……ごめんなさい」
『いやいや。別にいーよ』
本当に微塵も気にしてない。彼の声はそんな調子だった。
『それより、訊きたい事って? ちなみに言っとくけど僕が答えられるのはオカルトや都市伝説なんかだけだよ?』
「分かってますよ。あの早速ですけど、川子ちゃんって話知ってますか? 川で溺れさせられた少女の話で呼び出す方法とかある話なんですけど」
『知ってるよ。でも中々マイナーな話を知ってるね。もしかして夕晴君もその類の話が好きなのかな?』
「いえ。数年前にちょっと流行ってたんで、それで」
『なるほどね。数年前ってことは中学生? 小学生? まぁその年頃の子ってそう言う話に結構食い付きやすいからね。飽きるのも早いけど。それで、その話がどうかした?』
「基本的な話は知ってるんですけどもっと色々な事が知りたくて。でもネットでも全然情報が無かったので、もしかしたら荒川さんなら知ってるかなぁって思って」
『なるほど。それで思い出してくれたのか。そう言えば変なおっさんいたなって』
「やっぱ気にしてます?」
少し気まずそうな夕晴に対して荒川さんは愉快そうに笑った。
『冗談だよ。冗談。それにしても川子ちゃんかぁ。これはさっきも言ったけど結構マイナーな話だからね。あまり情報は多くないんだ。だけど、夕晴君が知ってなさそうなものでいうと――。その真偽は分からないけど、実はこの話って実話がベースになってるっていうのは聞いた事があるかな』
「え? 実話ですか? じゃあ本当に親が子どもを川に溺れさせて殺したって事?」
『そうなるね。本当に関連性があるかは分からないけど確かに十数年前、この話に似たとある事件があったのは確認出来たよ』
俺らは思わず無言で目を合わせた。
「その事件っていうのは?」
『ちょっと待ってね。えーっと。――あった。この記事だと、早川優菜ちゃん――つまり川子ちゃんは母親と共にキャンプに来ていたようだね。そして最後に母親が娘を川で溺れさせ、自らも命を絶ったっていう事件。死亡推定時刻と親子がキャンプ場所に到着した推定時刻とは数時間あってその間、何をしてたかは不明。これは僕の推測だけど多分、一緒に遊んだんじゃないかな。調べによると母親は精神をかなり疲弊してたみたいなんだ。原因は浮気で夫と離婚しその後も辛い状況が続いたからかもって書いてあるね。警察は母親が娘を殺しその後に自殺したってことでこの事件を片付けたみたいだよ』
「えーっと。それが川子ちゃんの話の元になった事件なんですか?」
『そうだと僕は思ってるよ。話自体も似てるしそれにキャンプ場所には大量のお菓子があったらしいからね。食べかけの物や空箱、まだ手を付けてない物とか。もしかしたらこの母親は最後に一杯遊んで好きな物を沢山食べさせてあげたんじゃないかな。そこが川子ちゃんの話にもあるお菓子を用意するってとこだと思うよ』
「じゃあ。呼び出すっていうのは、やっぱりその子が母親を恨んでるからって事ですよね?」
『話の部分はそうだけど、実際に恨んでるかなんて分からないからね。近所の人の話によると川子ちゃんは母親の事が好きだったらしいから』
あの話の裏側にこんな事件があったなんて……。俺は初めて知り動揺と遊び半分でその話通りにやってしまったことに対しての罪悪感のようなものを感じていた。
「そういえば、荒川さんってオカルトとかにも詳しいんですよね?」
『そうだよ』
「じゃあ幽霊とか妖怪とかにも?」
『好きだよ』
「なら、どう思います? そういう類の存在って」
『本当にいるかどうかってことかい?』
「そうです。ぶっちゃけいます?」
『んー。どうだろうね。断言することは難しいかな。僕自身、実際にこの目で見た事はないし。でもだからと言っていないとも言い難い。非常に難しいところだよ』
「じゃあもし呼び出す方法を試したら? 例えばその川子ちゃんの話にある方法とかを」
『やるの? あまりおすすめはしないけど。でももしやっとしたら……何も起こらない。もしくは何かが起こるかだ』
あまりにも当然すぎる、当然と書いて『とうぜん』と読むと教えられたような事を言われ夕晴のみならず俺と莉緒も首を傾げた。
『きっと今はお友達含め、首を傾げてるんじゃない?』
俺らが丁度そうした直後、荒川さんは見えているかのように的確にそう言ってきた。それに少なからず動揺はした。
『それじゃあ、ひとつ問題だ。そもそも幽霊の類には接触に関して二通りいると言われてるんだ。地縛霊と浮遊霊みたいにね。ではその二通りとは何でしょうか?』
「え? えーっと……」
夕晴は助けを求める目を俺らに向けたが生憎、思い当たるような答えはなく俺も莉緒も首を振った。
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